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「「M&Aを軸とした印刷業界の成長戦略」」

公開

<聞き手>
株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明さん(右)
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)

<話し手>
株式会社プリプレス・センター
代表取締役 藤田 靖さん(左)
1961年5月22日生。札幌開成高校出身。1984年立命館大学産業社会学部卒業後、クツワ株式会社(大阪)入社。1988年8月札幌にて個人創業。1991年2月法人設立、代表取締役就任。

【株式会社プリプレス・センター 概要】
設 立 :1991年2月25日
資本金 :85,500千円
所在地 :北海道札幌市中央区南2条西10-5-3
事業内容:印刷物やWEBサイトの企画提案制作製造
関連会社:(株)東京紙芸社、(株)DMC、(株)セブ・プリプレス・センター

<特別対談>これからのIPOスタイル

「M&Aを軸とした印刷業界の成長戦略」


小原:AGSグループで全国各地の再生案件に関わっていますが、地方では業歴が長く信用力ある印刷会社でさえも経営に苦しむ姿をよく見ます。札幌で創業した貴社が後発ながら設立以来ずっと増収を続けているのに大変驚きました。本日はこれからの事業戦略についてお伺いしたく思います。

藤田:1991年設立の当社は、印刷前工程(プリプレス)に最新鋭コンピュータ機械を積極的に導入して、少量多品種印刷分野を得意として成長してきました。大型印刷機械を持たないので大量印刷は苦手ですが、営業部門強化やインターネット活用もいち早く取り組み小口受注先開拓に努めてきました。現在の売り上げは年賀状印刷を主力にグループ売上高18億円で、パッケージ印刷に注力しています。私たちは印刷業界全体が縮小する中で常に生き残れる可能性を追求しています。

小原:2014年から大阪と東京の特殊パッケージ印刷会社をM&Aによって経営を引き継ぎました。事業内容も財務内容も良い会社が後継者問題に困っています。我々はM&A業界では国内トップ10プレイヤーに入りますが、全国的に事業承継型のM&A案件が急増しています。

藤田:私自身も相続対策は悩ましい問題です。事業が拡大すれば相続株価は高くなる。そして娘二人は経営を引き継ぐ気がない。最終的には印刷が好きな人にバトンタッチしてもらいたいと思っています。これは印刷業界全体の構造的な問題です。私どもでは全国の印刷会社キーマンとのネットワークを活用して都道府県毎にある地場の有名な印刷会社とのグループ連携を目指しています。

小原:今後はM&Aの資金調達が課題になります。

藤田:現在は不動産を担保にして借り入れていますが、自己資本が少ないので金融機関からの資金調達には苦労しています。

小原:買収する相手会社の資産を活用するLBO(レバレッジド・バイアウト)によるM&A手法も最近増えています。我々もREVIC(地域経済活性化支援機構)とファンドを共同運用していますが、地方創生のファンドと組む方法もあります。しかし何といっても上場によるエクイティ調達と自己資本の充実が最も効果的です。
藤田:私たちにとっての株式上場の第一の目的はM&A事業における信用力向上です。しかし主幹事証券からは売上高と利益面での実績が重要だと言われます。そのためにM&A事業を推進しているのですが...

小原:早期上場で知名度や信用力の向上を狙うなら地元の札証アンビシャス市場が一番です。実績より将来性が重視されるためには、印刷市場の構造変化と貴社のM&A実績をベースとしたストーリー性のある事業計画書の作成が必要になります。

藤田:それを作れる人が社内にいない。営業系や工場系の人材採用実績はありますが、管理系人材は採用が難しく悩んでいます。

小原:管理系人材は社内で育てるべきです。急いで外部から採用してもいずれは辞めてしまいます。株式上場準備プロセスの中で、我々のような専門家からノウハウを吸収して人材を育成してください。社長に対しては経営の原点を振り返り、ぶれない事業戦略作成をお願いします。

藤田:私自身は文具メーカーを脱サラして全く未知の分野である印刷業界に参入しました。新しい形のモノづくりがしたかったからです。現在の印刷業界は市場縮小と事業承継という問題に直面しています。過去に積み上げた純資産は厚くても、業界全体の85%以上の企業が減収減益状態です。今後は印刷業界に特化したM&A事業を立ち上げ、新たなビジネスモデルを作っていきたいと思います。

小原:貴社の成長戦略が印刷業界全体の活性化に繋がる事を期待しています。本日はありがとうございました。

【対談を終えて】

小原靖明

M&Aによって事業拡大を図る手法は決して新しくありませんが、不況業種である印刷業、地方で生き残っている印刷会社に集中して投資をするというビジネスモデルは発展性があると思われます。ただ、今後、資金調達・資本政策には相当な工夫が必要となるでしょう。その際、会社の信用力(与信を含めて)、認知度を高めるため、比較的早期のIPO(アンビシャス市場等)を検討するべきではないでしょうか。北海道から勢いのある会社が全国展開をしてゆくことには大きな意味がありますので期待しております。

藤田靖

これまで様々な異業種交流や上場関係の方々と情報交換してきたつもりでしたが、インデペンデンツクラブに参加して感じたことは、自分が井の中の蛙であり多くのチャンスや知識を得る機会を逸していたのでは?との後悔です。しかしながら、時間は戻りません。今後は、インデペンデンツクラブに積極的に参加しAGSさんやIPOサポートの関係者の方々と情報交換や面識を拡げ、引き出しを増やし、確実な成長を実践できるよう努力したいと思います。


※「THE INDEPENDENTS」2016年6月号 - p16-17より