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「「演劇が音楽や映画と同じく、当たり前のように生活に溢れる世界を目指します」」

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【福井 学 略歴】
1981年9月3日生。大阪府立松原高校出身。卒業後、家電量販店に就職し、入社3年目で正社員約5000名中、全国売上トップレベルとなる年間個人売上2億円を達成。24歳に独立するため退職。独立以降、受託事業として知識を活かしたIT業務を担当。自主事業としてパソコン販売、修理業務を大阪府堺市にて6年間運営。ITを活用した舞台芸術支援事業を主とする目的とし、2014年5月当社設立、代表取締役就任。

【株式会社ネクステージ 概要】
設 立:2014年5月30日
資本金:31,750千円
株 主:福井学、SocialEntrepreneur2投資事業組合他
所在地:大阪府大阪市浪速区日本橋4-6-13 NTビル3F
事業内容:演劇に関するWebサービス開発およびグッズ販売

<起業家インタビュー>

株式会社ネクステージ 代表取締役 福井 学 氏

「演劇が音楽や映画と同じく、当たり前のように生活に溢れる世界を目指します」


ゼロから131劇団・401作品と日本一のオンライン観劇サイトを構築。
演劇市場の規模拡大を目指し海外進出も視野に入れる起業家。

―家電販売のトップセールスから演劇という全くの異業種で起業しました

家電量販店に入社し、3年目で正社員約5000名中、全国売上トップレベルとなる年間個人売上2億円を達成しました。しかし業界再編や市場の流れを肌で感じ、24歳で独立、PC販売の経験を活かし、サポートや開発を行っていました。演劇に出会ったのは2009年、友人に誘われて劇場に足を運んだのが初めての観劇でした。リーマンショックの煽りもあり、廃業も考えていた時期でした。そのような気持ちで観劇に向かったのですが、映画やドラマでは得られない空気感というものに圧倒、魅了されてしまい、その後1年で300本近くの作品を見るほどに熱中しました。しかし、収入の問題で引退していく役者が後を絶たず、何かできることはないだろうかと考えるようになりました。

―オンライン観劇サービス「観劇三昧」について教えてください

月額980円の利用料で登録されている演劇動画の全作品を、スマートフォン、タブレットのアプリやPCサイトからオンライン視聴することができます。30年の歴史を持つ「演劇集団キャラメルボックス」をはじめとして、「維新派」「柿喰う客」などの有名劇団から各地の小劇場で活躍している劇団まで、大小関わらず多様なラインナップを揃えています。2013年にスタートし、現在131劇団・401作品が配信されています。

―レベニューシェアモデルで劇団の新たな収入源を実現しました

基本的には劇団側の費用負担はなく、ユーザーからの月額利用料の7割が劇団、3割が当社の収入となるレベニューシェア型のビジネスモデルです。公演のない期間にも収益が発生する仕組みであることは劇団側にとってのメリットです。料金を劇団に還元することで、さらに劇団はよい作品を創ることが出来る。お客様もより楽しんでいただける。よりよいコンテンツのスパイラルが生まれるのです。

―小劇場と呼ばれる演劇の市場について教えてください

演劇市場は商業演劇と小劇場演劇に分類されます。小劇場演劇とは収容人数200〜300人の劇場で行う演劇を指します。劇団は平均8名くらいで構成されていることが多く、個人も法人も存在しています。全国に劇場は2600、劇団は10,000存在すると言われています。2014年に全国で8,950公演が行われていますが、うち関東が5,900公演となっています。関東のユーザー、つまり観劇をする人は、関西の約20倍の人数が存在すると言われています。関西は公演数に比してユーザーが少なく、つまりリピーターが多い地域であり、それに対して関東は幅広い層が観劇している地域といえます。全国で行われている8,950公演を元に試算すると、小劇場の市場は約400億円になると考えています。

―「観劇三昧」が小劇場演劇市場に受け入れられた理由は何でしょうか

劇団運営の視点に立てば当然資金は必要なのですが、一方で自分達の作品は、劇団にとってまさに育て上げた子どものような存在であり、作品を「お金に換える」という発想を運営者自身が持ちづらい業界でもあります。過去にも演劇動画配信サービスはありましたが、上記のような理由から、大手企業の一般的な買い付けスタイルを嫌う劇団が多く、ほとんどがサービス終了、または非常に少ないコンテンツ数を配信するに留まっています。それに対して、弊社は劇団とともに広報や宣伝に取り組み、舞台公演時のサポート等も行い、作品作りから協力し、公演終了前から交渉権を確保しています。人気劇団のコンテンツ獲得には半年から1年かかることも多くありますが、交渉の結果、配信に賛同いただいた劇団もあります。「観劇三昧」を利用することで、今まで観劇したことのない方も、一部の劇団のファンだった方も、必ず満足できる作品に出会えるという信頼感を高め、演劇を動画で見るなら「観劇三昧」と言っていただける環境を構築しています。

―「観劇三昧」はどのくらいユーザーに浸透しているのでしょうか

「観劇三昧」のMAU(月間アクティブユーザー)が23,000、アプリのダウンロード数は100,000です。ライバルとなるアプリはありませんが、市場活性化のため競合の参入は歓迎です。一方、小劇場での公演にはクオリティの差もあり、現在の市場ともいえる8,950公演全てが配信対象になるとは言えません。クオリティを維持することは大切で、「初めての人が演劇に触れても楽しめるもの」というのがコンテンツとして、弊社がすべき制作の線引きになるかと思っています。

―動画制作・配信においても演劇ならではの工夫がされています

台詞が聞き取れるかどうかが演劇動画にとっては重要なため、画質よりは音質に気を使います。照明の動きによってはハレーションを起こしてしまうこともあり、撮影に関する教育も必要です。撮影や音響担当は外注ではなく社内に在籍しており、継続的な教育を行っています。コンテンツは基本120分ですが、近年は100分の演劇が増えています。撮影は大体1〜2回行います。編集の途中で台詞が聞き取れない箇所が判明することもありますし、劇団側から、もう一度納得の行く公演を撮影してほしいという要望が出ることもあります。社内メンバー10名の体制としては、サイトやアプリ、配信に関する開発4名、他はコンテンツや広報等です。実際の撮影は1名で行います。

―チケット販売面でも小劇場演劇を支えています

事前予約だけしておいて当日受付でお金を払い、チケットを受け取るシステムが一般的です。それを事前決済できるような仕組みを構築し、2014年9月にリリースしました。以前京都の小劇場公演において、50名分のカラ予約をされてしまう事案が発生し、劇団側としても大きな痛手を追いました。動画配信や制作事業が主の弊社でしたが、これを機にチケット販売や広告分野にもアプローチしていきます。

―海外ではより大きな市場が広がっています

韓国は日本の2倍、アメリカやヨーロッパは6倍の市場があります。芸術性に対してお金を落とす文化が根付いているのがその理由と考えられます。アプリ内のメニューには英語表記がありますが、コンテンツの翻訳については台詞を入れるタイミングが非常に難しく、翻訳コストがかかる見込みです。まずは国内で「観劇三昧」の普及に注力し、株式上場で調達した資金を以って海外進出を狙いたいと思います。

―2015年9月にPE&HR社から資金調達されました

普段なじみのある商業的な音楽や映画とは異なり、演劇は投資家から評価しづらいものだと感じています。実績がないと適正評価をされることが難しいので、融資による調達で事業の実績を積み上げ、次のラウンドに臨みたいと考えています。

―本日はありがとうございました。最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。

演劇の伸びは圧倒的に関東・東京が主となりますが、地方からでもリーチできる環境を作る、それが大切だと思います。例えばVR技術を活用すれば、より現実の観劇に近い視聴体験を提供することが可能になり、地方のファンを増やすことにつながります。わたしはあくまで観劇する側の人間です。この事業を始めた今でも見たい演劇のチケットを購入して足を運ぶのが楽しみなのです。演劇が当たり前のように生活の中に溢れ、心が豊かになる社会へ。ユーザー視点を持ち続け、世界中で愛されるサービスとなれるよう、挑戦を続けてまいります。

※「THE INDEPENDENTS」2016年6月号 - p4-5より