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「ITベンチャーのグループ知財戦略」

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<聞き手(左)>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋さん
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

<話し手(右)>
AOSグループ
代表 佐々木 隆仁さん
1965年5月20日生まれ。都立井草高校卒業。1989年早稲田大学理工学部卒業後、富士通に入社、OSの開発に従事。1995年社内ベンチャー公募制度を用い、株式会社アルファ・オメガソフト(現・AOSテクノロジーズ株式会社)を設立、代表取締役就任。2013年AOSリーガルテック株式会社を設立、代表取締役就任。

鮫島正洋の知財インタビュー

ITベンチャーのグループ知財戦略(AOSグループ)


鮫島:第10回ニッポン新事業創出大賞において経済産業大臣賞(アントレ―プレナー部門/最優秀賞)受賞おめでとうございました。
佐々木:AOSは20年前に創業しました。それからIPOチャンスは2回ありましたが、2000年ITバブル崩壊、2008年リーマンショックによって断念しました。現在のグループ全体売上は21億円、経常利益120百万円、従業員100名規模です。今回は3度目の正直、最後のチャンスと思って挑戦しています。

鮫島:AOSテクノロジーズ㈱を持株会社としてグループ3社に分社しています。IPOに際してグループ各社の戦略はどのようにお考えですか?
佐々木:グループ各社の売上高はAOSリーガルテック㈱11.8億円、AOSデータ㈱7.5億円、AOSモバイル㈱1.7億円になり、それぞれがIPOできるだけの大きな市場を狙っています。持株会社でインキュベーションを行い、グループ各社がそれぞれの事業に相応しいパートナーと資本提携しながらIPOを目指す戦略です。

鮫島:グループでの知財管理も考える必要があります。AOSグループのベースとなるデータ復旧技術に関する特許は持株会社に集中した方がよいですが、今後の事業戦略次第では各社に分散管理した方が良いかもしれません。
佐々木:AOSリーガルテック㈱では、データ復旧技術を警察や検察向けに犯罪証拠調査サービスとして提供しています。AOSデータ㈱ではデータ管理技術を応用したスマホのクラウドバックAOS Cloudやデータ復旧保険を、IIJ・フリーテル・ソネット・Yモバイル・楽天モバイル・ビックカメラなどのMVNO社へ供給しています。iOSにも対応しているので、iPhoneから格安スマホへの移行を促進できると重宝がられています。

鮫島:オンラインストレージとクラウドバックアップサービスの差別化はできていますか?
佐々木:米国Dropboxで全てのデータをバックアップしている人はほとんどいません。スマホ向けのクラウドバックアップ「AOS;Cloud」、パソコン向けのクラウドバックアップ「AOSBOX」は、どちらもフルバックアップサービスです。データを無くしてしまった後からデータ復旧サービスを依頼すると、費用が10万円以上かかります。そこで全自動バックアップサービスを始めました。私たちの目標はすべてのデータをクラウドに上げる事です。

鮫島:AOSモバイル㈱では、データセキュリティ技術を応用した法人向けチャットアプリを提供しています。LINEユーザーは7,000万人と言われますが、企業はそのセキュリティに不安を抱えています。
佐々木:LINEの漏えい事件以降、企業からの問い合わせが物凄く増えています。我々は、警察からの依頼でLINEの証拠復旧調査を行っているので、早くから、法人向けにもっとセキュアなチャットツールが必要だということに気づいていました。LINEは個人向けサービスですが、InCircleは、セキュリティを強化しており、法人向けに絞ったビジネスチャットアプリです。

鮫島:双方向SMS配信サービスも提供されています。こちらも面白い市場だと思いますが、特許は取得されていますか?
佐々木:いくつか特許を取得しましたが、SMS決済の特許も取得しました。日本ではまだSMS決済は注目されていませんが、海外ではFintech分野での有望技術として普及が進んでいます。日本でも消費者金融が督促用やアップルがカスタマーサービス向けに使われ始めしたが、今後は、決済まで行われるようになるでしょう。

鮫島:ITベンチャーがグローバル展開を目指すのであれば知財の国際戦略を考えなくてはなりません。しかしまだ確立された方法はない。
佐々木:米国市場には、Slack 社や日本にはChatWork 社などの類似サービスがあります。私たちもグローバルマーケットを狙っていきますが、ベンチャー単独ではリスクも大きくリソースも不足しています。20年で20億円の事業を作る事はできましたが、これを1,000億円、1兆円のビジネスにするためには、私のビジネス経験を超えたノウハウが必要になってきます。海外特許はもちろん、パートナー戦略が課題です。
鮫島:ベンチャーが世界市場で大きく成長するためには、グローバル企業との提携戦略が必須となる。そのためには国際的な知財戦略が必要です。貴社のように日本から構想スケールの大きなベンチャーがぜひ育ってほしい。本日はありがとうございました。

■ 対談後のコメント

【佐々木】下町ロケットの神谷弁護士のモデルにもなった鮫島先生からベンチャーのグローバル戦略についてアドバイスをいただいたことは、大変な励みになりました。知財戦略をしっかりと立てて、高い志を持って、世界ナンバーワンのリーガルテック企業グループを作っていこうと心を新たに決意しました。
【鮫島】IT企業と知財戦略との関係は薄いと考えている方はまだまだ多いのですが、こと、ビジネスをグローバル展開をするとなると知財戦略は不可欠です。模倣対策のみならず、資金調達・信用力を確保するためにも知財を取得活用している企業が有利で、この観点からすればIT企業も知財が重要なことに変わりはありません。

<AOSグループ 概要>

■ AOSテクノロジーズ株式会社(代表取締役:佐々木隆仁)
設 立 :1995年3月 資本金:480,000千円 従業員数:100名
事業内容:持株会社、インキュベーション事業
売上高 :21億1300万円、経常利益:1億2400万円(15/9期)*グループ全体

■ AOSリーガルテック株式会社(代表取締役:佐々木隆仁)
設 立 :2012年6月 資本金:51,000千円 従業員数:46名
事業内容:データ復旧サービス・証拠調査サービス・調査ツール販売
売上高 :11億8600万円

■ AOSデータ株式会社(代表取締役:春山洋)
設 立 :2015年4月 資本金:90,000千円 従業員数:27名
事業内容:データ管理ソフト&サービス、クラウドバックアップサービス
売上高 :7億5000万円

■ AOSモバイル株式会社(代表取締役:原田典子)
設 立 :2015年3月 資本金:27,000千円 従業員数:21名
事業内容:双方向SMS送受信サービス、法人向けチャットアプリ
売上高 :1億7700万円

―機関誌「THE INDEPEDENTS」2016年5月号 P18-19より

AOSテクノロジーズ株式会社

住所
東京都港区虎ノ門5-1-5虎ノ門45MT森ビル5F
代表者
代表取締役社長 佐々木 隆仁
設立
1995年3月31日
資本金
480,000千円
従業員数
50名
事業内容
ソフトウェア開発・販売とSAAS(Software as a Service)、およびデータ復旧サービス
URL
http://aostech.co.jp/