「「M&Aには経営者の人生観が反映する」」
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【荒井 邦彦 略歴】
1970年11月千葉県生まれ。1989年4月市川学園高校卒業。1993年4月太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)入社。1994年3月一橋大学商学部卒業。1998年12月太田昭和監査法人退職。同社在職中に証券取引法・商法に基づく法定監査、株式公開のコンサルティング、M&A・金融機関の債権売却のデューディリジェンスなどを経験。1999年1月株式会社ストライクを設立(法人登記上は1997年7月設立)、代表取締役となり、事業活動を開始。以来、900社以上のM&Aにかかわる(2016年3月末現在)。
【株式会社ストライク 概要】
設 立:1997年7月11日(事業開始:1999年1月)
資本金:114,630千円
株 主:役職員、三井住友信託銀行、大同生命保険)
所在地:東京都千代田区六番町3番地 六番町SKビル5階
拠 点:札幌、仙台、名古屋、大阪、高松、福岡
従業員:38名(2016年2月末現在)
<起業家インタビュー>
株式会社ストライク 代表取締役 荒井 邦彦 氏
「M&Aには経営者の人生観が反映する」
後継者探しからベンチャー企業のエグジットまで手掛けるM&A仲介会社。
M&Aのダイナミックさに魅了されて起業した公認会計士出身の経営者。
公認会計士である荒井社長がM&A会社を設立したきっかけを教えてください
監査法人時代にM&Aのデューデリ(事業精査)に関わったのがきっかけです。売り手は多角化経営に失敗、さらにメイン銀行が経営破たんし、本業本丸の臨床検査事業を売却せざるを得なくなりました。苦渋の決断だったと思いますが、その後は調剤事業に業態転換し業界No1になりました。買い手の臨床検査会社はこれをきっかけにM&A戦略を加速させこちらも業界トップになりました。売り手も買い手もお互いにとって良いディールでした。ダイナミックに会社を変える事ができるのはM&Aだけです。インターネットによるM&A仲介サイト「SMART」を運営しています
会計士だった私には営業経験が全く無く、インターネットによるM&A仲介事業を始めました。時代はITバブル期。最初のお客様は余命数ヶ月の筆談状態でしたが、インターネットで買い手はすぐ見つかりました。現在は案件情報をネットに掲載すると1日で50件以上の問い合わせが来る事あります。買い手の登録先は2000社・3000件ニーズで、全体の3割がネット経由によるマッチングです。インターネットの効用は思わぬ買い手が見つかる事にあります。アクアリウムショップのM&Aのケースでは、買い手の会計ソフト会社オーナーの個人的な嗜好からという理由でした。売り手の立場からのM&Aのポイントはどこにありますか
M&Aは経営者の人生観がでてきます。若い経営者は価額にこだわります。これから何十年も生きるためにはまとまった資金が必要だからです。しかし30年経営して後継者問題に悩む経営者は、お金も重要だがそれ以上に社会に会社を残したい、雇用を維持したいという想いがとても強い。だから買い手を徹底的に選ぶ。信頼できる仲介業者を見極める。私どもも買い手とのマッチングをオンラインで行っていますが、売り情報はオフラインによる泥臭い営業力にかかっています。M&A売却でアーリーリタイアメントする経営者も増えています
若くして会社を売却する人にとってはその後の人生プランが重要です。M&Aをしたことが世間に知れた時に自分の財産や家族をどのように守っていくのか。或いは売却によって得た現金をどう運用していくのか。私どもはM&A後の“困りごと”にも目配りをするようにしています。買い手にとってのM&Aの成功の秘訣を教えてください
私の経験から申し上げると、M&Aの2割は想定以上の成果があり、6割は予想通り、そして2割は失敗するという「2・6・2の法則」があります。つまり失敗はつきものです。成功・失敗の判断についても多種多様であり、更に2年なのか10年で見るか期間の取り方でも変わります。M&Aは売り手から買い手へのリスク移転でありリスクを抑えればリターンも低くなる。M&A経験の少ない方には小さい案件から始める事を薦めます。最初から大勝負はしない事です。リスクはゼロにはならないので、トップダウンで結論を出す事も重要です。売り手と買い手の両方から手数料を得るM&A仲介には利益相反問題があります
その点は本質的な問題ではないと考えています。どちらか一方の立場に立ったアドバイザーが優れているというのなら、世の大型M&Aはすべて成功しているはずです。本当に大事なことはM&Aで成功すること、あるいは仮に失敗したとしても当事者が納得感をもって決断していたかどうか、ということです。従って、仲介かFA(フィナンシャルアドバイザー)かという単純な議論ではなく、間に立つ者の倫理観がもっとも重要になります。取り扱うM&Aの平均金額はどれくらいですか
私どもでは大半が10億円以下のディールです。金額の多寡よりもより多くの件数に携わることが重要だと私どもは考えています。公認会計士が主体となって設立された当社の強みは、事業承継問題や企業再生、IPOなども含めたトータルアドバイスができる点にあります。M&A業界にはタレント性ある人材が求められると言われています
私どもには全国の税理士や銀行との提携ネットワークがあります。しかし売り情報はシステマチックに収集できても社長の信頼を得る属人的スキルがなければ仲介契約を結んでいただくことはできません。効率化や均一化が求められる金融業界にあってM&Aは属人的能力が必要な分野なのかもしれません。ベンチャー企業のエグジット事例としてM&Aが増えています
これから設立する企業にとってのIPOはハードルが高い。今は資金余剰となる大手企業が急増していて、彼らは新事業のネタを探し求めています。ベンチャー企業がM&Aで売却しやすくなってきています。たとえば創業2~3年でM&Aによって2~3億円の資金を得る人が周囲で増えていけば競って起業するでしょう。そういう形でベンチャー企業のM&Aが増えれば、結果として産業の新陳代謝が促進され、経済に活力が出ると考えています。※「THE INDEPENDENTS」2016年5月号 - p4-5より