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「株式会社テクノツリー、株式会社ロジックソリューションズ」

公開


早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官。ウエルインベストメント㈱取締役会長
特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ代表理事

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 「下町ロケット」で、大企業相手に技術ベンチャーが知財を活かしながら夢を実現するためのアドバイザーである弁護士のモデルで、当クラブでの事業計画発表会のコメンテータである鮫島弁護士の基調講演は、ニッチマーケットでNo.1を張るためのベンチャーの知財戦略に関して、示唆に富むお話でした。
 第217回の事業計画の発表に関して、IPOを目指すにあたり注意すべき点を含め、講評いたします。

No.650 株式会社テクノツリー(代表取締役 木下 武雄 氏)

 木下社長は、神戸製鋼勤務を経て、1996年産業機械のマルチメディアコンテンツ及び自動車の修理書等各種マニュアル制作事業・整備事業をスタートしました。この過程で、工場内の現場を熟知した会社としてコア技術:XC-Gateを開発し、大手企業の有力工場に導入され、「工場の見える化」によるコスト削減に貢献しています。当初は手入力によるペーパレス中心の対応でしたが、IoT時代を迎え,デバイスとデバイス(MtoM)を繋ぎ、ExcelデータをGateway(WEBサーバー)を通して、iPad等の携帯画面に繋ぐ、低コスト・平易・スピード導入を可能にした専用プラットフォームを開発し、事業を拡大中です。  工場の①品質管理のレベルアップ、②管理コスト削減、③CO2削減/省資源、④キャッシュフロー改善などの合理化提案事業で、近々中にマザーズにIPOをすることによって、更なる飛躍を目指しています。次のような視点で量的拡大と質的充実を図っていただきたい。

①異なる事業構造の円滑なる組合せ

 自動車整備等のコンテンツ事業と工場の見える化をするシステム事業とは、人材の構成が異質です。後者で基盤を作り、前者で発展を目指している。システム事業を自動車業界から多様な業種の事業に展開するために、両者のシナジーがますます薄くなります。バランスある組織運営をするための仕組みづくりを考える必要があります。

②XC-Gateの普及スピードの仕掛け

 長年の社歴もあり着実に大手企業の工場に導入されてきている。しかし、年率30%超の成長スピードを期待されているマザーズへのIPOをするためには、従来の営業方法をさらにブラシュアップする必要があります。システムの導入は工場内作業プロセスを基本から組み直す作業となります。この意思決定権者に直接訴えるトップセミナーの開催等さらなる工夫が必要です。現場にとっては「見える化」が必須ですが、導入意思決定者のトップにいかに「見せる化」のプレゼンの工夫が必要です。

③XC-Gateの長期使用の仕掛け

 XC-Gateの専用プラットフォームは、知財で参入障壁を構築することが困難な領域であるので、導入企業に使用し続けさせるためのブラシュアップの仕組みづくりの体制、大手企業導入は当面のブランドづくりに貢献するが具体的事例を対外的にどこまで開示できるかの合意契約、モノづくりの現場以外への導入や中小企業への導入が可能かなど導入領域の拡大等、IPOを契機に成長加速戦略のための経営体質強化を期待します。

No.651 株式会社ロジックソリューションズ(代表取締役 小坂井 雅次 氏)

 大学卒業後機械設計会社に技術者として入社した経験を活かして、2002年に航空機・自動車設計の派遣を目的として会社を設立しました。2004年に特定派遣労働者事業の許可を取得し、事業が軌道に乗りかけていた2008年にリーマンショックに見舞われました。現在、自動車や航空機の部品、FAシステム設計等の多くの機械設計エンジニアリング技術者を活かして食料残渣の「完全発酵装置」、「牛糞堆肥プラント」、「エアドーム」(エアドーム型植物工場装置)を開発し、その運営を含む事業を展開しています。また、水稲・水耕栽培による農産物生産から販売事業を手掛ける㈱LSふぁーむ、障害者を雇用した農産物生産と加工工場の㈱LSエンジェリックの3社を現在運営しています。
 なお、ロジックソリューションズ、LSふぁーむ、LSエンジェリックの3社の持株会社として㈱LS-LINKSを、2015年11月に設立し、2016年中に東京プロマーケットにIPOをし、資金調達と社会的認知による人材確保を考えています。IPOをするにあたり、次の諸点を配慮する必要があります。

①収益モデルの明確化

 特定事業への技術者派遣、技術を活かした製品開発、福祉事業としての農場経営の3本柱が事業と見受けられますが、BtoBビジネスとBtoCビジネスが混在しています。環境変化の激変を体験し、リスク分散による事業の多様化を目指していると考えられますが、限られた経営資源で、展開しようとする成長分野すべてに事業展開は困難です。収益の基盤をどこにするか明確にすることが重要です。

②新製品としての「エアドーム式農業ハウス」への参入障壁を

 新製品は、自然光利用型高効率植物生産(ハイブリッド多段階水耕システム・多段階土耕システム)ですが、すでに多様な植物工場が存在します。農産物の収量・品質・味・原価の4つの視点から、農業ハウスの競合製品と比較した競争優位性を明らかにし、特許を含む知財戦略を早期に考え、同時に販売チャネルを確保する必要があります。展示会でのプロモーションは、なかなか受注には結びつきません。高収益な農家を自社で実証実験をすると同時に、輸出産業としての農業システムまで期待したい。

③持株会社の役割と経営体質の強化

 3社のホールディング会社である㈱LS-LINKSをIPO後の持続的成長を目指すには、多様な顧客に対してカスタマイズ・オーダーメイドができる専門特化による利益確保と、製品やサービスを標準化して自社の運営コスト削減により事業を拡大する収益拡大の両面の組み合わせは不可欠です。傘下の3社の業務シナジーと独立会社としての3社の収益・費用の配分管理の明確化、各事業を統括管理する幹部人材の採用等、東京プロマーケットをスタートにして、経営体質の強化を期待したい。

2016年2月8日東京インデペンデンツクラブ 東京21cクラブにて