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「2016年IPOの動向」

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株式会社AGSコンサルティング
専務取締役 小原 靖明さん
1985年明治大学大学院法学研究科修了。1989年当社入社。2000年IPO支援会社ベックワンソリューション設立、代表取締役就任。2007年合併に伴い、当社取締役就任。2012年3月常務取締役。2014年3月専務取締役(現任)


<特別対談>これからのIPOスタイル

「 IPOの動向 」


これまでに数多くの企業の上場支援を手がけてきた株式会社AGSコンサルティング小原専務に、IPOにおける2015年の総括と2016年の動向、これからのIPO準備における留意点について解説いただきました。

◇2015年の振り返り

2015年の新規上場会社数は、6年連続で増加し、前年比約19%増(15社増)の92社(プロ向け市場を除く)となった。市場別ではマザーズ61社、ジャスダック11社、東証二部9社、東証一部8社、その他3社となっており、マザーズへの上場が66%(前年44社:57%)を占める結果となった。

上場会社の本店所在地別では東京が65社と大勢を占めており、2位大阪の6社を大きく引き離す結果となった。

主幹事証券会社別では、野村証券が28社、SMBC日興が21社、みずほ証券12社、大和証券11社、その他20社と大手4社で約80%を占めている。

大型案件としては、11月に日本郵政グループ3社が上場を果たし、いずれも公募価格を上回る好調な滑り出しを見せた。日本郵政グループ3社の資金調達額は1兆4362億円に達し、新規株式上場ではNTT、NTTドコモに次ぐ歴代3位の大型上場となった。

近年、新規株式上場後に株価が大きく下落するケースが散見される。記憶に新しいところでは、2014年12月に東証一部に上場したスマートフォンゲーム大手の㈱gumi、2015年4月に東証マザーズに上場したスマートフォン向けニュースアプリGunosyを運営する㈱Gunosyが上場後に大幅な減益を公表した結果株価が下落、投資家は損失を被った。2015年3月、日本取引所グループは「最近の新規公開を巡る問題と対応について」を公表し、新規公開の品質を向上させるための対応への協力を関係各位へ仰いだ。

2015年12月、監査業界国内最大手である新日本有限責任監査法人が㈱東芝の会計不祥事を巡り金融庁より行政処分を科された。業務改善命令に加え、契約の新規の締結に関する業務の停止(3ヶ月)が科されるとともに、課徴金の審判手続の開始が行われる等厳しい行政処分となった。

◇2016年の動向

2016年のIPO市場は2015年に引き続き好調であると予想される。証券会社の最もIPOに近い関係者筋によれば2016年も100社前後の上場が予想されているという。

2016年に上場が予想される会社の傾向としては、引き続き比較的歴史の浅いネット系ベンチャーが多いと予想されている。一方、地方からも歴史のある製造業の会社が数社上場してくることが予想される。地方から技術系ベンチャー等の新規株式上場会社が現れるようであれば、地方創生による地域経済の活性化に寄与することであろう。

また、「東京地下鉄株式会社法」が2004年に施行されて以降上場が期待されている東京地下鉄(東京メトロ)等の大型上場があれば、市場からの資金調達額も大きくなるためIPO市場に少なからず影響がある。

一方で2016年の年明け以降、原油価格の低迷、中国経済の先行不安、為替の円高推移、機械受注の下振れ等による景気、企業業績に対する先行きの不透明感が顕在化し、日経平均は大幅に下落した。このような不安定な市場動向が今後も継続するようであれば、IPO市場にも少なからぬ影響を及ぼす可能性がある。

◇これからのIPO準備における留意点

今後のIPO準備においては証券会社審査、取引所審査、監査法人による会計監査がより一層厳しくなってくることが予想される。前述の通り、新規株式上場後に株価が大きく下落するケースが散見されたことから、証券会社及び取引所による審査は予算策定を中心に慎重に行われるようになってくる。また、会計監査についても、㈱東芝の会計不祥事を踏まえて、各監査法人がより慎重に実施することが予想されるため、内部統制の整備・運用を含めて慎重に準備を進める必要がある。

2013年10月に公布された「連結財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成25年内閣府令第70号)により国際会計基準(IFRS)を適用して新規株式上場を行うことが可能となった。IFRSを適用した新規株式上場は、海外投資家からの資金調達やのれんの非償却といった長所があるため、今後利用する会社が増える可能性がある。

2016年度も引き続き活況が予想されるIPO市場であるが、現在の証券会社の引受・審査のリソースを勘案すると100社前後の上場が適正だと言われている。その中で新規株式上場の確度を高めるためには、上述の環境変化を踏まえて相当に慎重な準備が求められてくるものと思われる。

※「THE INDEPENDENTS」2016年2月号 - p16-17より