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「「科学技術イノベーションの創出とアントレプレナーシップ」」

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【忽那 憲治 略歴】
1964年愛媛県生まれ。1994年大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了、博士(商学)。財団法人日本証券経済研究所研究員、大阪市立大学経済研究所専任講師、助教授、神戸大学大学院経営学研究科助教授を経て、2005年より現職。専門はアントレプレナーファイナンス、アントレプレナーシップ、ビジネスプランニングとリスク分析、中小企業金融。また、戦略的企業家育成のための社会人向けプログラムとして、「アントレプレナーファイナンス実践塾」や「戦略的企業家養成プログラム」の塾長を務めている。

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 構想した事業を大きく成長させるには、人・物・金の3つの要素の融合が必須です。設計した製品・サービスのビジネスモデル(物)を実践するために必要な資金調達(金)、すぐれた経営チーム(人)をどのように得ていくか。事業をグローバルなレベルで大きく成長させようと思えば、人・物・金を高度なレベルで融合させなければなりません。しかしすぐれた経営チームを組織してから創業できている会社は多くはない。人・物・金の問題を同時に達成できれば一番よいが、なかなかそうはいかない。

 人材や資金が限定されているベンチャー企業において企業成長を目指すためには、まずはターゲット顧客に対して「興奮する」特徴を持った製品・サービスを提供する独自のビジネスモデル(物)を徹底的に詰めることが重要になります。『人・物・金』の順番ではなく、『物・金・人』の順で、できるだけ迅速に事業を軌道に乗せるための基礎をいかに築くかがポイントです。『物(ターゲットとするメイン顧客と製品・サービスの設計)』 を徹底的にブラッシュアップしない限り、『金(資金調達)』の問題も、『人(経営チームの組織)』の問題もなかなか解決できるものではありません。

 先日、「シリコンバレープログラム始動 NextlInnovator 2015」で、アンドリーセン・ホロヴィッツやアクセルパートナーズなどのトップクラスの米国VCとMeetingをしていきました。経営チームビルディング(考える人と行動する人の役割)、エコシステムの意義(失敗する機会を与えること)、VCファイナンスまでの役割(シードアクセラレーター、クラウドファンディング、スーパーエンジェル)、IPOからM&Aへ変化するエグジット状況(上場前の評価額10億ドル超のユニコーン企業の台頭)など、日米のベンチャー環境には違いがあります。
 日本ではIPOの実質基準も低下し数十億円程度の時価総額でもIPOが実施可能です。こうした規模の企業の株式を機関投資家がポートフォリオに組み入れることは困難であり、IPO後の主要なマーケティング先は個人投資家となります。短期的なリターンを想定する個人投資家が中心となることから、ベンチャー企業は IPO後も基本的には利益を出すことが強く要求される。
 一方、米国のベンチャー企業にとってのIPOは、1000億円程度の時価総額がターゲット。VCも1000億円程度の時価総額のIPOの可能性があるのであれば、その実現をアントレプレナーに急がせることは基本的にしない。IPO後も主要なマーケティング先は機関投資家であり、IPO後に利益を出さないとしてもストーリー次第では評価される。個人投資家向けにわかりやすい業績(利益)を短期間に出すことが事業目標になると、個人投資家が中心の株式市場ではアントレプレナーは大規模投資を実施することで赤字化することを躊躇する。製造業が中心の時代には設備投資を実施したとしても減価償却により負のキャッシュフローが直接的にPL(損益計算書)に影響することはないが、ソフトウェア産業の場合にはあまり長い償却期間を取れないために、大規模投資を実施すれば直接的にPLに影響する。

 株式市場においてPER(株価収益率)などの利益指標に偏った評価しかされない風土があれば、ベンチャー企業のビジネスモデルや事業の方向性に多大な影響します。米国では、クラウドサービスの会社(例えばSalesforce.com、Workday、NetSuite、Xero、Zendesk、Marketo等)はほとんど利益を出していない。売上ベースの倍率で価値評価されることによって、IPO後も長期的な視点から成長投資を続けることを可能にしています。

*2015年11月19日ひょうご・ベンチャー・ファーム&THE INDEPENDENTS CLUB@神戸ファッションマートにて