アイキャッチ

「100年変わらなかった化学産業にイノベーションを起こすことが我々のミッションです」

公開



【吉野 巌 略歴】
1967年7月19日生。慶應高校出身。
1990年慶応義塾大学法学部卒業後、三井物産入社。2002年UCバークレーMBA取得。2007年当社設立、代表取締役就任。

【マイクロ波化学株式会社 概要】
設 立 :2007年8月15日
資本金 :26億1831万円(株主:経営陣ほか)
所在地 :大阪府吹田市山田丘2-8 大阪大学テクノアライアンス棟3階
事業内容:マイクロ波化学プロセスの研究開発
およびエンジニアリング、共同・ラインセンス事業


世界のものづくりを変える革新的製造プロセスを独自開発。

大阪大学発技術から新しいものづくりの事業モデルを構築する起業家。


―電子レンジのマイクロ波技術を工業製品に応用しています。

化学反応にはエネルギーが必要です。化学産業は150年前の勃興期から、外部から、間接的に、全体を加熱してエネルギーを伝達してきました。電子レンジにも使われているマイクロ波は、内部から、直接、特定の分子だけにエネルギーを伝達します。私達はこれを活用して、化学反応を分子レベルでデザインすることで「省エネルギー」・「高効率」・「コンパクト」なものづくりを実現するテクノロジーベンチャーです。

―「地球にやさしいものづくり」に貢献するマイクロ波技術が事業コンセプトです。

当社の技術を工場に導入することで、「省エネルギー」「高効率」はもちろん、工場に必要な用地も圧倒的に小さくなります。エネルギー消費量は1/3、加熱時間は1/10、用地面積は1/5と、従来に比べてコストダウンとコンパクト化が実現できます。将来は湾岸地帯から大きな工場が無くなるかもしれません。

―顧客は主に化学メーカーとなりますが、ビジネスモデルを教えてください。

製薬、食品、化成品、燃料などを製造している世界各国のメーカーに向けて、当社のマイクロ波化学の技術を使った新しいものづくりの方法を導入する共同プロジェクトを展開していきます。当社の収益モデルは技術ライセンス供与が基本ですが、合弁事業による共同製品開発による収益モデルも検討しています。

―私たちの身の周りで、このマイクロ波技術はどんなところに使われるのでしょうか。

グラフェンや銀ナノワイヤーなどのナノテクロジー素材として自動車から食品・医薬品まで幅広い分野にわたります。飛行機を例に取ると、電池(バッテリー、セパレータ)、シート(高機能性ポリエステル)、燃料(微細藻類)、機内食(乳化剤)、構造材(カーボン材料)、次世代フレキシブルパネル(銀ナノワイヤー)などです。

―世界最大化学メーカー独BASF社と共同開発契約を2014年1月に締結しました。

プラスチックの原料となるポリマー製品の製造工程におけるエネルギー効率化を目指し、年間処理量1,000tのパイロットスケールでの連続型マイクロ波装置の試験運転を実施するため、当社の大阪ラボで試作実験とプロセス開発を開始しています。

―2014年3月には量産工場を立ち上げ、収益基盤の急拡大を図っています。

大阪市内に世界初のマイクロ波による化学品量産工場を立ち上げ、今まで培ってきた技術の実用化を実現しています。続く2号プラントとして、太陽化学(三重県)との合弁会社において食品添加物製造工場建設を準備しています。

―マイクロ波装置開発や工場建設には多額の資金調達が必要になります。

2013年に総額7億円のシリーズB第三者割当増資、2014年には総額12億円のシリーズCの第三者割当増資を実施しました。リードインベスターは東大エッジキャピタルですが、今年9月には既存株主と大阪大学ベンチャーキャピタルも含めた8.8億円のシリーズD第三者割当増資も実施しています。

―マイクロ波自体は枯れた技術なので、製造プロセス技術をコアとした知財戦略が重要になります。

製造プロセスの特許取得は技術流出の恐れがあるので迷いましたが、製造プロセスを顧客に売る事業モデルには特許取得が必須です。そこで鮫島弁護士(内田・鮫島法律事務所)に特許事務所を紹介いただき、現在は特許10件を取得、特許出願中も24件になります。鮫島弁護士には事業モデル構築や共同開発契約書についてアドバイスをいただいています。

―三井物産出身の吉野社長が、大阪大学発ベンチャーを創業した経緯を教えてください。

三井物産では化学品を担当していましたが、米バークレービジネススクール留学中に原油の将来に不安を覚えエネルギー分野での起業を考えました。2006年に帰国後、環境エネルギー関連の事業シーズを探す中で出会ったのが、大阪大学大学院工学研究科でマイクロ波化学の研究をしていた共同創業者の塚原です。「世界中の化学産業を変革しよう」と意気投合。幸運にもNEDOからの助成金が決定したので、慌てて自宅マンションで会社を設立しました。

―破壊的イノベーションは既存産業にとって脅威になりますが、今後の事業ビジョンを教えてください。

私たちは「もの」を販売するのではなく、「マイクロ波を使ってどうやって作るか」という「ものづくりの方法」自体を化学メーカーに販売するというビジネスモデルにたどり着きました。環境問題に真剣に取り組む企業、発展著しいに真剣に取り組む企業、発展著しい海外新興国が我々のパートナーです。化学・エネルギー産業の市場規模500兆円の1%でもマイクロ波に置き換えることができれば5兆円規模の産業になります。「マイクロ波技術で世界のものづくりを変えたい」「新しいテクノロジーベンチャーを日本に起こしたい」という創業時からの志が今も私たちの原動力です。


* 機関誌「THE INDEPENDENTS」2015年12月号P4~5より