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「「ベンチャーエコシステムとファンドエコシステムの構築によるベンチャーキャピタルの産業発展」」

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日本ベンチャーキャピタル協会
会長 仮屋薗 聡一 氏

1969年生まれ。慶應義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ大学MBA修了 。㈱三和総合研究所での経営戦略コンサルティングを経て、1996年㈱グロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。1号ファンド、ファンドマネジャーを経て、1999年エイパックス・グロービス・パートナーズ設立よりパートナー就任、現在に至る。2015年7月より日本ベンチャーキャピタル協会会長を務める。

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「ベンチャーエコシステムとファンドエコシステムの構築によるベンチャーキャピタルの産業発展」


 昨年末に故尾崎会長より日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の次期会長に指名され、私は今年7月に第7代会長に就任しました。故尾崎会長の遺志を引き継ぎ、独立系VCを中心とする役員体制の元で「ベンチャーエコシステムの発展拡大による新産業創造を通じて、日本発世界経済の発展に寄与する」という使命達成に努めていく所存です。

 新体制となったJVCAは3つの運営方針と3つの取り組みを掲げています。
 運営方針の1つ目は、VCは新しい産業を創出する社会的存在であるというビジョンの明確化です。リーマンショックで激減したベンチャー投資資金は一昨年には1800億円に戻りましたが、国内投資実行額はまだ毎年700億とずっと横ばい状況です。一方で米国は約490億ドル(6兆円弱)もあります。日本の経済規模や技術力を考えると圧倒的に低くシンガポールより少ない規模です。日本に必要な事はベンチャーエコシステムの確立であり、その中心的役割を果たすのがVCである、という強い使命感を私たちは共有していきます。
 2つ目はVC業界の互助会的な位置づけです。VC業界のユニークな所は、投資の現場では競争するのではなく、協調して投資先ベンチャー企業の価値を高めていく点にあります。現在のVC会員数は47社、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)会員も10社を数えます。更に約80の協賛会員(企業・個人含む)がおり、ベンチャー支援のベストプラクティスを共有しながらベンチャー業界全体のパイを広げていく互助会的な運営を行っていきます。
 3つ目は、事業経営のような戦略的な運営です。JVCAのビジョンに向け、毎年の課題を決め、進捗を確認し、価値を高めていく、というマイルストーン的な運営を目指します。

 今年の取り組みとしては「ベンチャーキャピタリストの質量」を増やすことを第一に考えています。VC業界は2008年リーマンショック以後の失われた5年に、VC数半減、そして経験豊かなキャピタリストが業界から去っていきました。昨年からのアベノミクス成長戦略でいまやロボット、再生医療、IoTなど新しい成長テーマが出てくると同時に優秀な起業家もどんどん現れています。しかしベンチャーキャピタリストの数が圧倒的に少ない。お金はすぐ戻りますがベンチャーキャピタリストの数と能力を上げるには時間がかかります。JVCAでは従来からキャピタリスト養成講座に加え今年はミドル・シニアクラスのキャピタリスト向けプログラムを設けたいと考えています。
 次は「ファンドのエコシステム構築」です。日本のVCファンドの出資は金融機関や事業会社が中心でした。一方で米国では年金基金や大学基金など社会的資金が大半を占めます。日本のVCファンド資金を拡大するためには私たちVCがファンドパフォーマンスを向上させる事が最も重要ですが、JVCAによる広報活動強化や内閣府・経産省・財務省など日本政府と連携して新たな成長マネーを起業家に届けるサイクル構築していきます。
 今年は、産学連携、地方創生、大企業連携、グローバル展開についてのJVCA内に部会を設け、「オープンイノベーションの推進」を強化していきます。地方では九州VC懇談会、中四国VC懇談会の実施、大企業との連携では今年11月にCVC連携セミナーを開催します。最近は日本と世界に対するインパクトあるソリューション提供するベンチャー企業も増えており、JVCAも起業家のグローバル展開を支援する取り組みを始めました。

 私は1996年にベンチャー業界に入り、言わばベンチャー企業を育てる職人として19年過ごしてきました。これからも1社1社のベンチャーに対する黒子的支援は重要ですが、今やVC産業は国家の産業政策の根幹を担う重要な基盤と目され、次世代産業創生の担い手として大いなる期待、そして使命を携えております。皆様と一緒に、VC業界の課題を解決しながら、2020年に向けて世界に羽ばたく日本のベンチャー企業を育成したいと思います。

2015年9月7日 東京21cクラブにて