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「㈱日本情報化農業研究所、㈱ネッチ」

公開


早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。
2012年3月教授を退官後、株式会社インディペンデンツ顧問に就任。
インデペンデンツクラブ会長

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 基調講演は、2014年IPOを果たし、成長のスタートを切った医者-患者-製薬会社のSNSプラットフォームを運営しているメドピア株式会社の起業家石見(いわみ)陽氏(医師・医学博士)のお話を伺いました。1週間に一度は臨床現場に立ちながら、直感を大事にし、書籍・成功事例・先輩経営者との出会いで、IPOが可能になったこと、これまでの経営番外編など、IPOを目指そうとしている予備軍にとっては、極めて興味あるお話でした。
 さて、今日は2社のプレゼンです。2社とも2回目ですが、以前と比較してブラシュアップされた内容でした。それでは、社長のキャリア、事業内容、ビジネスモデル、IPOを目指すにあたっての課題について、講評・総括します。

No.559 ㈱日本情報化農業研究所(代表取締役 古荘 貴司)

 社長の古荘氏は、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻修士課程修了であるが、大学院での研究は交通渋滞、交通事故であった。しかし、大学院在学中に農作物流通事業にかかわり、農業生産の現場の問題点に接し株式会社日本情報化農業研究所を2005年に設立した。経営ビジョンは、「農薬・化学肥料を使用しない野菜栽培技術の開発・提供、関連ツールの開発・提供」である。
 事業内容は、農薬・化学肥料を使用しない野菜栽培技術の開発・提供と関連ツールの開発・提供の2つの事業である。事業全体は、モデル栽培を実証し、実証結果を拡大するためにITツールを開発・販売すると理解したが、今回は、無農薬栽培を可能にする技術と自社農場の運営に関する前者のプレゼンであった。無農薬栽培技術成果としての雑草の根っこが繁茂している画像からスタートしたプレゼンであった。土壌改良や施肥管理により技術が成り立っている内容説明がなかった。
 ビジネスモデルは、無農薬栽培技術成果としての農場を確保し、収穫された野菜を、ネットで個人直販、レストラン直販、食品ショップ等への卸と、3つの販売チャネルを考えている。通常の野菜よりも2~3倍の値段で、安定価格で供給するために、現在京都市郊外に自家農場5haを確保し、今年秋より作付けを準備している。
 当社は、2社のベンチャーキャピタルよりも出資を受けているが、IPOを目指しているものの具体的な期間は公表していない。予測損益からすると2018年頃を目指していると推測できるが、「IPOするための課題」を示すと、次の通り3つに整理することができる。
① 典型的な技術志向の会社であり、顧客視点を配慮すること
事業コンセプトが、「植物の特性を熟知し科学的手法により野菜栽培における高品質を追求する」である。IPOをビジネスの成長加速戦略のスタートとするためには、「技術に勝って、ビジネスでも勝つ」ことが必要であるが、ビジネスに勝つための顧客視点が欠けている。日本の農業を変えたいのか、農家を通して安全な食を消費者に届けるのか、これをどのような方法で展開するのか、長期ビジョンを明確にしないと、多くの従業員を引っ張っていけない。
② 顧客に対する安定供給責任を配慮すること
無農薬野菜を同じような栽培方法で挑戦している農業・ITベンチャーの競合は多い。現在自家農場の運営方法を確立し、高品質と収量確保により、消費者供給能力を一定に保つことを当面の目標においている。味による差別化が困難な野菜は、好意的な消費者母集団を増やしながら、同時にブランド確立が重要になる。一定量を超えると、リピート顧客累積のための安定供給責任が重要になる。露地物の栽培ゆえに、自家農場から全国フランチャイズ制を採用し、風水害対応と通年の安定供給が不可欠になる。
③ 土壌改良後の施肥管理のトレーサビリティを配慮すること
IPO前から、品質・収量競争の源泉であるコアテクノロジーをどのように確保しているかがステークホルダーに開示する責任がある。また、完全無農薬はあり得ないので、土壌改良後の施肥管理、露地物の作物生育状況など、トレーサビリティ情報が、消費者や販売チャネル関係者に不可欠になる。今回は説明がなかったので、この技術は不明であるが、先行的に多くのベンチャーが挑戦しているのは確かである。
 京大や東大から次々と起業家が輩出する時代になった。同世代の経営チームによる開発成果を共有し、日本のブランド農産物の輸出まで挑戦していただきたい。

No.560 ㈱ネッチ(代表取締役 西村 大 )

 社長の西村氏は、メダルゲームをはじめとするゲームセンターなどのアミューズメント施設を運営する会社やコンシューマーゲームからモバイルゲームまであらゆるゲームの企画・開発をしている2社を経験し、PCやスマホを利用してすべてのゲーム機を遠隔操作して楽しめるようにするための、ネットとリアルの融合したアミューズメントのコントロール会社を2012年に設立した。
 事業内容は、インターネットを利用したゲームおよび映像の配信サービス業である。具体的には、埼玉県にあるリアルなゲーム機(ゲーム場は倉庫である)を、ネットで映像配信し、景品キャッチャーを選定し、画面上で操作しながら、景品をキャッチして、景品が取れるとこれを配送するネットとリアルの融合したアミューズメントの運営である。
 ビジネスモデルは、ヤフーなどのゲーム画面から、当社のサービスであるネットキャッチャー「ネッチ」に入り、現在150種類の国内アミューズメント専用景品非売品のキャチャーを選択し、1,000~20,000円のポイントをカード等で購入し、現実の景品が取れると、景品を配送するというモデルである。会社設立直後の前回発表2013年5月には、2,500人の顧客が、2015年2月の現在160,000人に急増し、確かな手ごたえを感じ、今後日本から海外へも進出しようとしている。
 「IPOするための課題」を示すと、次の通り3つに整理することができる。
① 既得権益との競合の回避と知財の確立
既存のリアルのアミューズメントには、機器製造業者、キャラクター版権所有者、景品製造業者、リアル店舗運営者(ゲーセン、大型店)、配送業者等が関係している。当社の当面の競合の既得権益事業者は、リアル店舗運営業者かもしれないが、ネットでキャッチャーの製造であれば、機器製造業者も利益が出にくくなる可能性を考えると、関係者全体に情報の流れやビジネスの変革を迫っている事業といえる。顧客に支持されているのは確かであるが、全方位リスクにどのような対応するかも含めて、ヤフー等のサイト運営事業者や通信事業を巻き込んだ仕組みが不可欠である。機器開発・景品開発等も含めて、知財(特許・商標権・著作権)戦略が不可欠である。
② 機器倉庫の運営と配送コストのコントロール
機器倉庫の運営には、リアルゆえの一定の景品在庫が不可欠である。景品在庫には有名ブランドが不可欠であり、商標権や著作権込みの製造コストの購入になる。突然のブームや人気沸騰のために最低在庫の保有を重視すると、予測が当たらないと在庫の山となり、不足すると訪れた顧客が遊べない機会損失が生じるというリスクがある。
現在、16万人の顧客は、ゲーセンがない地域や離島の方々も多いことを考えると、埼玉県の某所の機器倉庫のキャッチャー台数を、150台から300台に増加し、海外からも当面は対応しようとしている。送料無料としているので配送コストがかさむ。商圏の拡大と機器倉庫とのバランスで、最適な拠点倉庫の建設も不可欠になる。
将来とも配送コストを無料にするためには、景品を参加者参加型で開発し、製造コストを下げて粗利をより高くする仕組みも必要になる。開発参加者が顧客になり、彼らに開発景品フィーを支払うという仕組みも考えられる。
③ 時間消費型ビジネスとして社会認知の確立
日本の文化とIT技術を融合した時間消費型ビジネスの典型がパチンコホールである。ホールは風営法で、パチンコ機械の製造には、射幸性に反していないか否かの認可が厳しい。北斗の拳や冬のソナタを画面に採用すると顧客が増えたという現象は、漫画や映画とIT技術の融合ビジネスであるが、依存症の問題や、技術に関係ない球出しのための賭博性が問題になるが、現金に直接換金しないということで賭博とはみなされない工夫をしている。「ネッチ」は、店舗というホールを持たない、換金がないということで風営法には該当しない。ただし、子供達の参加禁止、一回で使用する上限金額、本人の確認等、どのあたりが社会的認知基準となるかを業界として自主ルール化をする必要がある。
(2015.2.9)