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「㈱ラクス、㈱ウェルモ、Lead Innovationセンター㈱」

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早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。
1972年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。
1973年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。
1986年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。
2012年3月教授を退官後、株式会社インディペンデンツ顧問に就任。
インデペンデンツクラブ会長

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No.552 ㈱ラクス(代表取締役 中村 崇則)

 社長の中村氏は、就職したNTTでインターネットに出会い、1997年に無料メーリングリストの会社インフォキャスト(スタート時合資会社DNS)を設立し、2000年楽天に売却し、同年にラクスを設立した。監査役を含む現経営陣5人が、NTT及びインフォキャスト設立当時からの仲間であるという厚みのある経営を推測させる珍しい会社である。長期EPS拡大が可能な経営を目指しているという共通認識が、役員全員に浸透している。
 事業内容は、中小企業向けクラウドサービスの企画・開発・販売の事業である。具体的には、カード会社と連携した経費精算システムとしての楽楽精算、WEB帳票発行システムとしての楽楽明細、メール共有・配信システム等のパッケージシステムを、数名の中小規模事業者から数万人の巨大企業まで、延べ35千社超に提供している。
 ビジネスモデルは、国内外の約250名で開発したシステムを、国内主要拠点に配置した約50名の営業が、国内中小企業に対して、月額1~5万円で販売する。過去アメリカで、独自開発したサービスを提供したが、事業拡大できず撤退し、メール配信ツールの国内シェア70%を活かして、国内集中戦略を採用している。
 「IPOを成長加速戦略と位置付けるための課題」を示すと、次の通り3つに整理することができる。
① 売上成長とIPO市場の選定
売上高は着実に伸びており、中小企業に対するクラウドサービスの質が高いことを示している。IPO市場としてのマザーズは、30%以上の成長を一応の基準においている。現状ではJASDAQ銘柄ということになる可能性がある。IPO後一部指定銘柄に短期に移行する意味でも、マザーズを目指す成長戦略にギアを切り替えて欲しい。
② 2020年120億円規模達成と海外展開
会社の中期目標を120億円においている。現有能力の延長線上には8~90億円が限度とのことである。現在は国内市場回帰集中戦略であるが、IPO後のM&Aを加えた再度の欧米進出を期待する。
③ 国内市場の競合激化と人材確保
当社製品は、メール配信を含め先行参入利点を活かした業務一点撃破的システムである。スマートフォンを活用した中小企業へのクラウドサービスシステムの提供は、市場が急拡大中で、ますます国内競合も激化する。開発部隊が正規雇用人材であるという優位性を活かすと同時に、開発人材確保のためのアジア進出が急務である。


No.553 ㈱ウェルモ(代表取締役 鹿野 佑介)

 鹿野氏は、ワークスアプリケーションで、大企業の基幹ソフトの導入コンサルを行っていた。同僚の友人で現取締役の母親である介護士にあった時に、電話やチラシ・ファックスという紙媒体中心で、作業の多さに驚き、福祉分野でタブレットを活用したプラットフォーム構築を思い立ち、2013年に仲間と当社を設立した。設立する前に、900時間のボランティア活動をし、介護施設の現場の実態把握をしてきた。
 事業内容は、行政・ケアマネージャー・介護事業所間を繋ぐ、介護福祉事業向けプラットフォームの企画開発運営である。行政・ケアマネージャー・介護事業所間の情報流通である見える化を行い、入口(介護費用)の固定化に対して、介護福祉全般のコストの削減を可能にし、行政や介護施設の効率運営に貢献する。東京での活動が中心であったが、福岡市が福祉介護行政に積極的に当該システムを導入し、現在福岡市ケアマネの90%が活用している。
 タブレット(ミルモタブレット、ミルモPRO)を福岡市などに無償供与し、クラウドシステム課金約7千円、介護施設等の広告フィー、介護施設データサービスフィー等が収入となるビジネスモデルである。このビジネスモデルは、介護福祉行政を前提としている。福岡市以外にどこまで拡大できるかであるが、テレビや新聞で取り上げられたこともあり、政令指定都市からの引き合いが来ている。
 介護福祉分野のプラットフォーム企業になるためのシステム開発はほぼ完成し、IPOを目指しているが、「IPOを狙うための課題」を、次の通り3つに整理することができる。
① 福祉介護関係の地域間競争に食い込む
タブレットを活用した福祉国家予算の膨張を抑えるプラットフォームを提供する事業を、福岡市で展開できたのが幸運であった。行政の温度差があるので、政令指定都市からの引き合いと現実のビジネス展開に大きなかい離がある。地域間競争が始まったばかりであるので、ニーズに素早い対応ができるかが、当社の事業拡大のポイントになる。
② 地域大学・高校を活用した有能な人材の確保
タブレットによる介護福祉情報のインフラ提供に、東京からの人材を投入している。他地域の政令指定都市などのニーズ対応開発や情報提供に、介護福祉の分かるIT技術者と営業人材の確保とが、事業拡大のポイントになる。このためには、各地域大学や高校との連携により有能な人材を、インターンシップを含めて確保するのが不可欠になる。
③ 社会的ニーズの拡大と個人情報問題
会社は、介護福祉情報の提供により無駄な作業やコストの削減へ貢献している。しかし、介護施設利用の意見、介護施設の評価、医療機関との連携、要介護者を抱える家族への情報提供や相談窓口、介護士支援等、多様な社会的ニーズは拡大する一方である。この場合、要介護者を抱えた家庭、介護施設固有な問題等個人情報問題に遭遇する。社外の多様な支援ビジネスと連携しながら、ワンストッププラットフォーム事業を目指していただきたい。

No.554 Lead Innovationセンター㈱(代表取締役 藤本 雄一郎)

 藤本氏のキャリアは、経産省で産業技術政策を担当した後、小売業や研究所で企画・コンサルを手掛け、2005年に大手製造業やIT企業向け研究開発・事業企画コンサル業を共同創業した。コンサル部門であるセンターを2014年に株式会社化した。コンサル領域は幅広いが、アミューズ機器やEVモビリティー向けの新事業提案コンサルの中から、今回の事業内容を自ら立ち上げるに至った。
 今回発表する新事業の内容は、「電動アシスト自転車クラウドレンタル×ヘルスケアサービス」である。欧米の高い自転車の普及率や日本の自転車に関する情報不足、さらに高いヘルスケアとの連動サービスに新規事業の成功可能性があると判断した。
 ビジネスモデルは、電動アシスト自転車を活用し、ブルーツース通信モジュールで、安価にクラウドを活用して負荷運動量を計測し、ヘルスケアサービスを行う。電動自転車年間レンタル料1万円(保険・定期点検料含む)、アアプリは、無料からヘルスケアサービス付の場合月間1,000円以下とする予定である。レンタル期間は1~4年で、4年すると電池が劣化するので、中古車市場で下取りし、再整備後再販することを考えている。
 電動アシスト自転車の安価なレンタル料と健康管理サービスを提供する事業開発し、環境に優しい移動手段としての電動アシスト自転車の普及と中古市場の拡大を目的としているが、「新事業を成功させるための課題」を、次の通り3つに整理することができる。
① 大学での実証実験の限界
伊都新キャンパスに移転する九州大学の広い大学構内の移動手段として、学生は自転車が必須アイテムであり、高い交通費をかけないために自転車通学を希望する学生も多い。卒業時に放置したまま卒業する放置自転車問題が大学学生課の悩みでもある。ある程度の起伏があり、教室が広いキャンパスに点在し、校舎間移動が多いという条件が必要である。
② ヘルスケア目的で電動アシスト自転車が必要か
学生にとってヘルスケアは関係なく、利便性中心である。運動量の必要なのは、中高年かもしれず、マウンテンバイクなどの自転車にヘルスケア機能を付加した方が良いのではないか。
③ 環境に優しい自転車社会にするために
日本の都心部は、職住乖離で、ヒトや弱者に優しい道路設計になっていない。自転車専用道路又は都心部の自家用車乗り入れ排除のインフラがない。大学のシステムが完成したら、子供を保育園に送り迎えする子育て世代とアップダウンのある郊外の中高年齢者にフォーカスをしたシステム開発を期待したい。
(2015.1.13)