「備後地域からのIPO」
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1.新規株式公開(IPO)企業数の増加とその目的変化金融危機以降、急激に減少したIPO数が5年連続して増加基調となったことから、近年、IPOへの関心が非常に高まっています。企業にとってIPOをするということは、成長資金の獲得、知名度及び信用力の向上、創業者利潤の実現など多数の機能を持ち、その意義は大きいと考えられます。しかしながら、本誌4月号「ベンチャー投資を考える」でも指摘されるように、近年のIPO市場は既存株主の資金回収という側面が大きくなるなどその目的が変化しており、さらに上場維持にも多額の費用が掛かるなど、「なぜ上場するのか」という意義が見出しづらくなっています。
2.変わらない大都市への一極集中
また、上場企業の本社所在地をみると3大都市圏、特に東京に集中しているという事実も相変わらず変わっていません。地域別にみると、昨年IPOした企業の約7割、2015年3月末時点の上場企業全体をみてもその約5割の企業の本社が東京となっています。さらに、業種別にみると情報・通信業、サービス業でのIPOが多く、日本がこれまで強いと言われてきたモノづくり関連での上場は少なくなっています。
3.製造業上場企業が集積する広島県備後地域
都市部にIPOが集中し、製造業での上場が少ない中で、広島県福山市を中心とする備後地域は1990年代以降に3大都市圏を除いた都道府県別の工業地区単位で製造業上場企業が最も多く登場した地域であると言われています(2006年日本政策投資銀行中国支店発表資料より)。人口比でみた場合においても製造業の上場企業数は全国的に見て突出しており、1990年代から2000年初めにかけて半導体製造装置企業であるローツェ、アドテックプラズマテクノロジー、ユニフォーム大手の自重堂、コーコス信岡(2014年MBOで非公開化)、アシードなど一定期間に多くの企業が次々と上場しました。しかし、その後その動きは止まっています。
4.当時の状況
備後地域はもともと繊維産業が有名であり、製品出荷額等の大半はJFE等が立地することから鉄鋼業が占める地域です。これに対して、上場した企業の多くが繊維企業と半導体関連企業であり、上場時期はバブル崩壊後のいわゆる失われた10年と言われた時期でした。なぜこのような不況期にある地域で多くの製造業企業が次々とIPOでなぜその仕組みがその後継続できないのか。備後地域はこれらの論点を明らかにするうえでの好事例だと考えられます。5/14の福山チャレンジセミナーに先立ち行ったヒアリングよれば、成長した要因の1つとしてこれら企業の多くが大企業との下請的な関係で成長したのではなく、独自な製品、技術を持っており、いち早く海外進出せねば生き残れないという危機感があったと指摘されています。
5.地方企業とってのIPOを目指す意義
IPOが増加基調の一方で、近年、上場後に非公開化する企業も急激に増加しています。株式市場が変質しつつある今だからこそ、あらためてなぜ上場するのかという原始的な議論をする必要性が生じていると思われます。5/14の福山チャレンジ企業セミナーでは地方企業にとってIPOの意義とは何かについて関係者を迎えて、大いに論じる機会となることを期待しています。
※「THE INDEPENDENTS」2015年5月号 - p12より