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「商標権の取得(2)」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士 幸谷 泰造 氏

2003年東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修士課程修了後、ソニー(株)にて、ソフトウェア開発業務に従事。その後企業内弁理士として、国内外の特許権利化や特許侵害に関する業務等に従事した後、現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区西新橋1-20-3 虎ノ門法曹ビル701
TEL:03-5511-6211(代表)
構成人員:弁護士19名・スタッフ10名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/

1.今回のテーマ
 前回は、中小企業のブランド戦略における商標権取得・活用の必要性を説明いたしました。今回は、出願の優先順位及び出願前における様々な注意点についてお伝えしたいと思います。

2.出願の優先順位
 ここでは、自社ブランドを商標登録出願していくにあたり、どのように優先順位を定めて進めていけばよいかを説明します。まず、商標は大きく分けると「ハウスマーク」「ファミリーネーム」「ペットネーム」という3つの分類に分けることができます。  「ハウスマーク」とは、営業の同一性を表す営業標識として使用される社標のことです。例えばトヨタ自動車(株)の「TOYOTA」などです。
 「ファミリーネーム」とは、シリーズ又はカテゴリを示すような名称をいいます。例えば「カローラ」などです。
 「ペットネーム」とは、個別の商品名をいいます。例えば「カローラ」シリーズの「スパシオ」などです。
 多数のブランドや、多数の商品・サービスを扱う企業においては、コストの関係から、全ての自社ブランドや自社商品・サービスを出願するというわけにはいかない場合も多いと思われます。その際には、後々ブランド名の変更が難しくなるものを優先的に出願していくことになります。そうすると、まず最優先で出願しなければならないのがハウスマークになります。ハウスマークについては、会社設立前の段階から十分に他社商標調査を行ったうえで、自社のハウスマークが商標登録できるか否かを確認してからネーミングを決定する必要があるでしょう。ハウスマークの場合、後々になって他社の登録商標が見つかっても、変更が極めて難しいためです。
 次に優先度が高いのが、自社のビジネスの中核となる商品やサービスに付ける商標でしょう。これも、商品やサービスがヒットした後では変更が難しくなってきますし、他社から商標権侵害に基づき損害賠償請求された場合、ヒット商品・サービスは売上が大きいことから、損害額が増大してしまう傾向にあるためです。
 一方、商品販売・サービス提供開始時点において将来的に継続するか不透明な試験的ネーミングについては、コストとの兼ね合いから出願時期を遅らせることも可能でしょう。時期をみてビジネスが軌道に乗ってきた時点で出願していくという戦略をとることが可能です。

3.商標登録出願前における注意点
 以下では、商標登録出願前の段階でよくある誤解と注意点をまとめました。
(1)自社名は商号登記しているから商標権を取得しなくても、商号権で保護されるのではないか。
 商号とは、商人が営業を行う際に自己を表示するために使用する名称のことです。一方、商標とは、商品又は役務について使用する名称のことです。よって、商号と商標は概念が異なります。自社名を商号登記していても、同一又は類似する名称を他社が商標登録していた場合、原則として自社の商号を商標として使用することはできなくなります。
(2)当社のほうが先に商標を使用していれば、後で他社に商標登録されてしまっても先使用権で保護されるのではないか。
 後から他社が商標登録をしてしまった場合、たとえ自社が先にその商標を使用していたとしても、原則として使用はできなくなります。先使用権は単に先に使用していたというだけでは発生せず、その商標がある程度有名になっていなければなりません。
(3)商標登録しないと自社ブランドを商標として使用できないのか。
 商標登録しなくても、他社の登録商標がなければ適法に使用することが可能です。ただし、他社に商標登録されてしまうと、原則として登録以降は商標の使用ができなくなるため、重要なブランド名については商標登録をしておくべきです。

4.まとめ
 以上みてきたように、商標登録を怠ると、自社ブランド名の変更を余儀なくされ、これまで築き上げてきた自社ブランドの信用を一気に失う可能性がありますので、出願の優先順位を定めてしっかりと自社ブランドを保護していく必要があります。

5.補足
 商標法の改正により、今後は「音の商標」(例えばインテルのCMサウンド)、「色彩の商標」(例えばトンボ鉛筆の消しゴムの色)等が商標登録の対象となりました。よって、今後はこのような商標についてもブランド戦略の対象として考えていく必要があるでしょう。

※「THE INDEPENDENTS」2015年3月号 - p17より

【知財を活用した中小企業のブランド戦略第1回】商標権の取得(1)