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「「副業規制の緩和と起業家の生活費の保証」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 アベノミクスの成長戦略の1つとして、政府が日本での開業率を現状の5%前後から欧米並みの10%以上に引き上げることを目標にしていることは、既に昨年11月号の「創業を考える」と題した本コラムで触れた。そこでは主として、日本の開業率が低い理由を日本公庫総合研究所の指摘などを参考に述べた。

 開業率の引き上げが直ちにベンチャーの輩出、簇業に繋がるわけではないとはいえ、その土台となるものであり、重要であることは確かである。ただ、日本の開業率の低迷は1980年代以降続いており、その引き上げは容易なことではないと考えられる。その意味で、今回の成長戦略の中に、開業率の引き上げ、それも現状から倍以上の水準への引き上げを目標値として政府が打ち出したことについては、少し驚くと同時に、そのための具体的な施策が何なのかが、注目されるところであった。

 その答えが去る5月3日の土曜日の日本経済新聞の一面の記事になって紹介されていた。記事を読むと、開業率引き上げ=起業促進のための具体策として政府が考えている施策の中心は税制優遇であるようだ。中でも、既存のエンジェル税制は投資対象ベンチャーの条件が厳しい等使い勝手が悪く利用が進んでいない点を改め、税額控除額の引き上げや投資対象ベンチャーの条件の緩和などを通じて利用の拡大を図るという。

 加えて、注目されるのは、その記事で会社員の副業規制の緩和も施策の1つとして挙げられていたことである。

 先に11月のこのコラムで日本の開業率が低い理由を何点か指摘したということを述べたが、その中の1つに日本では副業が認められ難い点を上げておいた。この点は、実はある起業家から指摘された問題でもあり、スピンオフを考えている起業家にとってはとりわけ改善が期待される問題といってよかろう。何故なら、副業が禁止されていると、勤めながら起業の準備をすることが出来ないし、ビジネスのアイデアを試してみることも難しくなるからである。

 副業の問題を指摘してくれたその起業家は同時に、開業後暫く起業家自身の収入が無くなり、下手をすると生活できなくなる問題も指摘してくれた。考えてみれば確かにその通りで、創業費は準備できたとしても、2~3年分の生活費も蓄えていないと起業、特に創業後数年間売上が立たないようなベンチャーの起業は難しいといえる。

 5月3日の日経新聞一面の記事によると、開業率引き上げのために、起業のための副業を認める指針の策定を行うということであり、さらには、対象数は限定されるものの、補助金で最大2年間1人当たり年収500万円の保証と1組当たり1500万円の活動費の支給を行うことを検討しているという。

 こうした施策の早期実現を切に望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2014年6月号 - p15より