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「東京インデペンデンツクラブ」

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■ 講演レポート
「世界のIPOトレンド」
新日本有限責任監査法人 戦略マーケッツ事業部 シニアパートナー
安斎 裕二 氏

―IPOとボラティリティは相関関係にある
S&P500社のボラティリティを基に算出したVIX指標が20?25%の範囲を超えると、IPOの成功は非常に難しくなります。2011年後半は米国債格下げや欧州の債務危機からVIX指標が高まり、IPOも低調でした。IPOを目指す企業はボラティリティとの共存を図りながら、VIX指標が低くなり窓が開いた時に上場できるようマネジメントしていくことが求められます。

―2011年のIPOを振り返って
・中国:欧州債務危機や米国債格下げの影響を直接受け、調達額が2010年の1290億ドルから680億ドルと半減。コーポレートガバナンスの問題から投資家の目も厳しくなっており、PERも落ち着きつつある。
・インド:強力なIPO予備軍91社が控え、政府も海外投資家へプッシュ。世界経済の好転がカギか。
・米国:好調なスタートを切ったが、後半は冷え込む。しかし、IPOパイプラインは200社弱と充実。JOBS法等の規制緩和を受けて資本市場も活性化。早めに準備し、チャンスを狙っている企業が多い。
・ブラジル:非常に低迷していたが、PEファンドの牽引もあり、2012年は大きく好転する見込み。
・欧州:欧州債務問題の解決を模索する一方で、米国や香港市場でIPOを計画する企業も増えている。取引所外で株式売買の1/3を占め、クラウドファンディングも視野に入りつつあることから、証券取引所の存在意義が問われている。
・中東:ジャスミン革命を受けて、IPOは低調。代替手段としてイスラム金融が堅調に推移している。
2012年は第3四半期まで見るに、非常に低調で危機的状況にあります。第2四半期にはFacebookが上場後大きく下落し、米国市場のボラティリティが高騰、IPOの窓が1ヶ月閉じてしまっています。世界のIPOを円滑に進めるためには、「政治の安定」「先進国経済の安定」「規制環境の整備」「企業の瞬発力」「会計不正を防止、ガバナンスの向上」の5条件が必要です。

―世界の面白い会社のIPOを紹介
・マンチェスター・ユナイテッド:2012年8月NYSEに上場。近年、世界ではパリ証券取引所にフランスのオランピック・リヨネ、サンティアゴ証券取引所にチリのサッカークラブ2チームが上場している。
・KiOR:2011年6月NASDAQ上場。稲わらなどセルロースから再生燃料を作る技術を開発し、売上ゼロかつ巨額な累積赤字を抱えてIPO。最近プラントが完成し、商業ベースで燃料を量産できるようになった。
・HCAホールディングス:2011年3月NYSE上場。病院・外科センターの運営を手掛け、M&Aをしながら上場・再上場を繰り返している。同社はPEファンドがバックアップしている。
・SNOOZEBOX:2012年5月LondonAIM上場。コンテナ型の移動式ホテル。一定期間コンテナを組み合わせてホテルを作り、終了後は回収することができる。ロンドンオリンピックでも稼働実績がある。

―質疑応答:ポーランドのように、日本にも年金資金を呼び込めないか
ポーランドは年金ファンドが国内IPO企業に投資できる規定ができ、IPO件数も調達額も飛躍的に伸びました。日本では過度にリスクを恐れる傾向にありますが、年金ファンドの1?2%でも良いから小さなポートフォリオで始めて成功事例をつくることが必要と考えています。