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「「日本人の国民性を生かしたビジネス」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 このコラムの41回目で、ニュービジネス協議会が企画する「IPO大賞」の話をした。

 2006年に始まったこの企画は今年で7回目を迎え、先般その表彰式を行った。今年の表彰式は以前と異なり、表彰式の後、表彰された企業の創業者からご講演を頂き、それを学生にも聞いてもらい、起業への意識を高めてもらう形にした。

 以前にも述べたように、表彰は「ルーキー部門」と「グロース部門」の2つに分けておこなう。まず「ルーキー部門」の表彰対象は、前年の10月から9月までの1年間に株式公開=IPOした企業の中で、事業が革新的で今後も高成長が期待できる企業、一方の「グロース部門」については、4年前にIPOした企業の中で、4年間に売上が200%以上伸び、これからの日本経済を牽引していく可能性のある企業としている。

 7回目の今年は、「ルーキー部門」では、ネットで学生アルバイト紹介事業を展開する株式会社リブセンスを、「グロース部門」では、ソフトウェアの不具合検出というデバッグ事業を展開する株式会社デジタルハーツを選び、それぞれの創業者であるリブセンスの村上太一氏とデジタルハーツの宮澤栄一氏からお話を伺った。

 お二人の講演は、示唆に富む大変素晴らしい内容であり、聞いていた多くの学生諸君にとっては大いに参考になったと思う。中でも株式会社デジタルハーツの宮澤氏の話は、自身の生い立ちにまで触れられ、感動的でもあった。

 宮澤氏のご実家は栃木県で事業を営まれておられたそうだが、小学校2年生の時と23歳の時の2度倒産、彼もそれに巻き込まれ、彼は絶対に社長にはなるまいと思ったそうだ。   

 23歳、2度目の実家の倒産で彼は東京に出て音楽家になろうとしたが上手く行かず、結局フリーターとして働く内に、ソフトウェア、中でもゲームソフトの不具合=バグを見つける仕事に巡り合い、それが今の事業に繋がっていく。社長には絶対ならないと決めていた彼なので、起業しようとは思わなかったが、フリーター仲間の後輩たちが増える中で、彼らの仕事を継続的に作っていくためにも自然と組織化する必要に迫られた。

 宮澤氏は企業家を目指していたのではない。ただ、サラリーマンにはなりたくなかったという。結果的に彼は、個人事業の延長線上でフリーターやゲーマーといった人達を束ねるユニークな企業家になった。こうした生き方を学生諸君にも学んで欲しい。

 事業が拡大し海外にも出かける中で宮澤氏は面白いことに気付く。それは、不具合=バグを見つけだす仕事は日本人に合った仕事、日本人が競争優位をもてる仕事だということ。何故なら、日本人には細かいことに「こだわり」を持つ国民性があるからだという。この点は、日本製品やサービスの品質の良さにも繋がる。

 日本人の細かいことに「こだわり」を持つという国民性を上手く活かしたビジネスを展開し、さらには、その「こだわり」をより強く持つと思われるオタクとも言われるゲーマーを組織化するデジタルハーツの活躍に期待したい。

※「THE INDEPENDENTS」2013年5月号より