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「「IPO大賞に思う」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 関東ニュービジネス協議会が毎年IPO大賞という企画を行っているのをご存知だろうか。2005年度から始まり2011年度で6回目になる。先般その表彰式が行われた。筆者は審査委員としてお手伝いさせて頂いている。

 賞は「ルーキー部門」と「グロース部門」の2部門がある。

 「ルーキー部門」とは、上場後間もないが日本経済の新たな活性化に貢献する可能性が高いビジネスモデルのベンチャー企業を対象としており、具体的には、その年の9月以前1年間にIPOした企業から選んでいる。

 一方の「グロース部門」は、IPO後4年経過し、社会的な評価が定着し日本経済の牽引役になりつつある新しいビジネスモデルの企業を対象としている。より具体的な選定条件としては、売上高100億円以上かつ4年間で売上が2倍以上になった企業としている。

 2011年度は、「ルーキー部門」の大賞に2011年9月に東証マザーズに上場したKLab株式会社が、「グロース部門」の大賞には2006年10月東証マザーズに上場し、その後2010年3月に東証1部市場に市場を変えた株式会社ネクストが選ばれた。

 KLabは、創業者の真田哲弥氏が1998年、最初に立ち上げた携帯向けコンテンツ開発会社株式会社サイバードの研究・開発部門として2000年8月に設立した株式会社ケイ・ラボラトリーが社名変更した会社である。2009年にソーシャルゲーム分野に参入、今やその分野の有力企業として活躍している。ソーシャルゲーム分野に参入後急成長しており、今後はシンガポールなどへのグローバル展開を目指している。

 ネクストは不動産情報サイトの運営会社で4年前の「ルーキー部門」大賞受賞企業である。昨年初めから問い合わせ件数に応じた課金形式に変更した結果、売上は伸び悩んでいるが、サイトへの物件掲載数は増加しており、その効果が将来出てくるものと思われる。加えて、グローバル展開、特に中国とアセアン諸国への事業拡大を計画している。

 周知の通り、日本のIPO社数は低迷している。昨年2011年は36社と前年の22社から増加しているとはいえ、直近のピークである2006年の188社からみると5分の1程度に過ぎない。その結果、IPO大賞の選考は、数多くのIPO会社の中から選ばなくてもいいので楽になったが、日本経済全体からみるとIPOの減少は問題と言わざるを得ない。

 本来、株式会社はIPOすることで資金調達力が増すばかりでなく、知名度、信用力の向上を通じて資金以外の資源の調達力も増強できる結果、成長戦略の選択肢が拡大することになる。しかし、現状をみてみると様々な規制の強化や株価の低迷もあって逆にIPOのコストが上昇、IPOを先延ばしにすることで戦略的な選択肢が狭まり企業は思い切った成長戦略がとれなくなっているように思える。これでは経済・産業分野のニューフロンティアの開拓は覚束ない。逸早いIPO環境の改善を望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2012年4月号 - p12より