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「Interview with Mr Marcus Stuttard, Head of AIM, London Stock Exchange」

公開


香川大学大学院地域マネジメント研究科
准教授 高木 知巳 氏

1963年香川県三豊市生まれ。82年丸亀高校卒業。86年早稲田大学政治経済学部卒業。86年日本合同ファイナンス(現ジャフコ)入社。91年MBA, London Business School。2007年アイビス・キャピタル・パートナーズを経て、11年6月よりインディペンデンツのパートナーとなる。2012年4月より現職。


前回の特別レポートに引き続き、今回はロンドン証券取引所AIMのマーカス・スタッタード氏のインタビューをお送りします。AIMの成功要因や投資家確保の方法、税優遇措置、今後の展開に伺いました。


Q:日本には上場予備軍もあれば、投資先の上場によって資金を回収したい投資家も居ます。しかし、残念ながら、東京市場は一ローカル市場になりつつあり、ロンドンのように中東の石油資金や、ロシアの大金持ちの資金、あるいはアフリカの独裁者の資金が入ってくるわけでもありません。従って、日本の機関投資家は基本的に国内資金しか扱っておらず、その投資行動は画一的になりがちです。幅も深さもあるロンドンのAIM投資家をTokyo AIMに連れてくることは可能でしょうか?

A:それは我々も当初から考えていたことです。Tokyo AIMの準備期間中から、既に世界規模で展開しているGSのような大手ではなく、経験もノウハウも十分にある中堅クラスのトップ金融機関で国際展開に興味があるところに話をしてきました。彼らは興味を持っているのですが、地元のサポート無しに、ロンドンの投資家だけでTokyo AIM立ち上げのリスクを全て取るというのは無理です。地元の個人投資家も参加して流動性を供給できなければロンドンの機関投資家も投資しません。例えば、Black RockはAIMの主要な投資家の一つですが、彼らも小口の投資家によって流動性が確保できている銘柄にしか投資しません。

AIMでも投資家の確保に努力しており、現在、EUと優遇税制によって欧州の投資家のAIM投資を増やせないか話し合っています。現在重要なAIM投資家になっているのはVCTです。VCTに投資する個人投資家には税制上の優遇措置があり、お金持ちが投資しています。優遇税制が無ければ、彼らはおそらく、優良大企業の株しか買わないでしょう。VCTには経験豊かなマネージャーがおり、銘柄選択をし、ハンズオンで投資先のサポートをしていることも重要です。これらの制度と関係者がAIMのEco Systemを作っているのです。


Q:VCTとは初めて聞きました。幾ら運営されていて、どんな人がやっていて、どのような税優遇措置があるか教えてください。

A:正式名はVenture Capital Trustといい、約120のVCTがあり、その多くは通常のVC同様未公開株に投資しているのですが、25位はAIM上場企業を中心に投資しています。 VCT総額は約20億ポンド(3000億円)あります。今年税制が変わり、今後もう少し大きな企業にも投資できるなど投資対象が広がります。税制上は、個人所得税が30%で済む事、キャピタルゲイン課税が免除されること(現状18-28%)があります。一部のAIM銘柄では相続税が優遇されます。
詳しくは、この報告書を見てください。これは、昨年、LSEが資金を出してロビーイングのために委託調査してもらったものです。2005年に規制が変わりAIM投資のインセンティブが減ったので、2006年以降AIM VCTの資金調達が激減しています。AIMは雇用促進と税収増に寄与しており、AIM上場企業の資金調達と流動性が確保されるよう政府に働きかけています。


Q:投資家を見つけてくるのは誰でしょう?

A:全体的には、取引所が政府などに働きかけ、AIMに投資しやすい環境を整えることです。個別企業ではそれはBrokerの仕事です。Nomadは候補企業がAIMに適した企業であることを審査し、上場準備を助けます。


Q:Tokyo AIMには6社のJ-Nomadが登録されていますが、余り熱心に活動しているようには見えません。この点についてはいかがでしょうか?

A:まずはJ-Nomadの数を増やしたいと考えています。おっしゃるとおり、6社はリスクを取りたがっておらず、活発に活動してないようです。市場を立ち上げるためには、もっと沢山のJ-Nomadに参加してもらう必要があると考えています。違ったリスクに対する考え方を持ち、起業家マインドを持ったところです。


Q:現在のAIMの問題点は何でしょう?

A:我々はいつも流動性を増やしたいと思っており、そのためにはより多くの投資家に参加してもらわなければなりません。金融危機の後、市場の規模は1200社にまで縮小しましたが、これは健全なことです。それ以前は、上場したもののAIMの機能を使うことなく、ただ上場しているだけ、という会社がありましたが、それらは大抵上場廃止されました。その結果、以前より強いコアになる企業に厳選されています。

もう一つは、EU規制への対処です。現状のAIM規制は企業活動の自由度と投資家保護のバランスの取れた良いものだと思うのですが、EUレベルではここ数年大きな規制変化がありました。これらの変化に対処しつつ、引き続きAIM企業が資金調達できる環境を整えることが必要です。


Q:AIMの5年後はどうなったらいいと考えていますか?

A:AIM市場がイギリス経済に雇用と税収でよいインパクトを与えられるといいと思っています。例えば、イギリスの大学には凄い技術を持っていますが、資金調達で困っています。大学発のハイテク企業がもっとAIMに上場してくれるといいですね。


Q:AIMにはどのくらいのハイテク企業が上場していますか?

A:定義にもよりますが200-250社くらいだと思います。一部は外国企業ですし、イギリスの会社であっても世界的に活動しているところが大半です。AIM上場によって、「大企業とのアポも入りやすくなった」と言われます。上場することで、情報が開示され、キチンと管理された会社だということが分かるからです。


Q:毎年AIM企業の入れ替わりはどのくらいありますか?

A:上場廃止には循環性があります。株価が暴落し、その後立ち直る過程でVCTなどにより買収され上場廃止される企業が多く、それは丁度今です。AIMに上場する2社が合併して1社になることもあります。上場を維持することもありますし、上場廃止することもあります。他に、年間に約150が本則市場に移行し、逆に、300社が本則市場からAIMに移ります。AIMから去る企業は年間12-13%くらいでしょうか。

―23 May 2011