「「プロ投資家市場AIMへの期待」」
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國學院大学
教授 秦 信行 氏
野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)
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プロ投資家の株式市場であるTOKYO AIMが、2009年5月に東京証券取引所とAIM(Alternative Investment Market)発祥の地であるロンドン取引所とのジョイント・べンチャーで設立されたのをどの位の方がご存知なのだろうか。AIMの特徴の第1は、投資経験豊富なプロ投資家と呼ばれる投資家しか参加できない株式市場であることである。投資経験が余りない個人投資家の市場ではないこともあり、上場基準は緩い。数値基準と呼ばれる株主数や株式数の制約は全くない。
第2は、Nomad(Nominated Advisor)と呼ばれる専門アドバイザーの存在である。日本のAIM市場では、J-Nomadと称せられるが、彼らが証券取引所に代って上場審査を行い、上場後のケアも行う。その多くが証券会社(インベストメント・バンク)であるが、必ずしも証券会社である必要はなく、投資経験があり市場を良く知っていれば務められる。
3つ目は、上場申請から承認までの期間が原則10営業日と極めて短い点である。これは、プロ投資家の市場であることや、上場前からアドバイスを行うNomadが上場適格性を評価・審査を行うからだと考えられる。
市場が出来て2年弱、まだこの市場に上場した企業はないが、それは、企業側の評価が低いからではないようだ。問題はJ-Nomadの引受け手が少ないことに理由があると聞く。確かにJ-Nomadの責務は重い。従来IPO市場で主として個人投資家相手に引受業務を行ってきた日本の既存の証券会社にとっては、プロ投資家向けに上場の良否を自ら決定し、上場後のケアをするのは正直厳しいのかも知れない。
筆者は、AIMはベンチャー企業の上場市場としてより相応しい市場ではないかと考えている。理由の1つは、AIMでは株式投資の経験が豊富で、投資のための目が肥えているプロ投資家が取引を行うことになるからである。そのためベンチャーが展開する革新的な事業に対する理解度は高くなり、企業評価も適正に行われる可能性が高まるように思う。特に創業間もないベンチャー企業にとっては、プロ投資家によって適正に評価され、その結果として適正な成長資金がより早く手に入るメリットは大きい。
また、上場承認までの時間が短いことは、スピードを重視するベンチャーにとって大いに意味がある。従前の新興市場のように、約1年上場準備のための時間がかかるとなると、M&Aといったタイムリーな経営戦略がその間打ちづらくなる。
ベンチャー企業はJ-Nomadを得てTokyo AIM市場にまず上場し、プロ投資家の洗礼を受けて自らの評価を確立し、次により大きな資金調達のために一般投資家も参加する市場に指定替えしていく、そうした一種のキャリアパスも考えられる。その場合、海外展開も視野に入れるなら、海外市場への上場も検討に値することになろう。いずれにしてもTOKYO AIMの意義がもう少し喧伝されてもいいように思う。現状6つであるJ-Nomadを志向する日本の証券市場関係者が、さらに増えることを期待したい。(2011年1月21日)
※「THE INDEPENDENTS」2011年2月号より