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「ベンチャー企業の資本政策と種類株式」

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弁護士法人 クレア法律事務所
代表弁護士 古田 利雄 氏

昭和37年2月4日生まれ。平成3年弁護士登録。東京弁護士会所属。日本大学ロースクール/講師(会社法)。NPO法人ベンチャーサポート研究会/代表。NPO法人TiETokyo/理事。上場ベンチャー企業4社他の役員。

【弁護士法人クレア法律事務所】 http://www.clairlaw.jp/

株式の上場に至るまでに、誰に、いつ、いくらで、どのくらい、どのような方法で株式の移動・増加をしていくかを計画し、最終的に株式上場時の株主構成や予想株価を描く事を「資本政策」といいます。
 事業の拡大のために新株発行による増資を行うと、発行済株式総数が増加し、その分だけ創業者の会社への支配比率が低下します。
 一度新株発行を行うと、商業登記に反映されるため、やり直すことは出来ませんから、次に述べる点に注意して、あらかじめ慎重に計画しなければなりません。

・株式分割などを利用して、株式上場時の株価を流通しやすい価格にする。
・株式上場時の株価の一株あたり利益(EPS)や、株価収益率(PER)は、類似業種の企業を参考にする。
・ベンチャーキャピタルの保有株数は上場時における発行済株式数の30パーセント程度に抑える(バイオなど資金需要が大きい事業では50%を大幅に超えることもあります)。
・ストックオプション等の潜在株は上場時における発行済株式数の10パーセント程度に抑える。
・提携関係のある事業会社などに株式を保有してもらうことによって、安定株主を確保する。

ベンチャー企業の資金調達では、普通株式でなく種類株式の利用も検討するべきです。ベンチャー企業では、汗を流しながら事業を進めていく創業者と、リスクの高い投資を行うベンチャーキャピタルという性格の異なる株主が同居することになるため、異なった内容の株式によって両者の利害の調整を行うニーズがあるからです。
 会社法では、種類株式として、残余財産の分配、株主総会で議決権を行使することが出来る事項や役員選任権など9つの項目について他の株式と異なる内容を定めることができます(会社法108条)。
 これ以外の合意事項、たとえば財務内容の定期開示については、種類株式の内容とすることはできず、投資契約に定めることになります。種類株式は、契約当事者の債権的な合意ではなく、会社の定款の内容になるため、投資契約よりも効果は強力です。
 通例ベンチャーファイナンスで利用されるのは、残余財産の分配、株主が当該株式会社に対してその取得を請求できること、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できること、株主総会や取締役会の決議事項について当該決議のほか種類株主総会の決議を要すること、などの項目です。

 このような種類株を上手に利用して、創業者の支配比率とそれに伴うモチベーションを維持しながら、多額の資金調達を行うことが可能になります。
 なお、種類株を使った上場企業の著名事例としては、グーグルがあります。創業者が持つ株式の議決権は、一般投資家向けの株式の10倍に設定されており、創業者の経営支配は強力に保護されています。投資家から見て素晴らしい魅力がある株であればこのような設計での上場も夢ではないということです。

※「THE INDEPENDENTS」2011年1月号 - p31より