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「「流動性高く組織間・組織内の壁が低いシリコンバレー」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

シリコンバレーで何故数多くの新しいアイデアを持った企業家やベンチャーが輩出するのか、それによって何故イノベーションが継続的に生まれるのか。ご承知の通り、様々な理由が挙げられている。筆者は2年弱シリコンバレーに滞在していたが、一番の要因は、シリコンバレーの人の流動性の高さと、それを実現する組織間及び組織内の壁の低さにあるように感じた。社会が、組織が、人が、良い意味で常に形を変えており、固定化していない。その結果、新しい知恵、新しい考え方が生まれる。

周知のように、シリコンバレーの多くの人々は実は米国生まれではなく海外生まれの移民である。特に企業家はこの傾向が強く、シリコンバレーの企業家の3分の1は主としてアジアからの移民だといわれる。この人たちをシリコンバレーは上手く受け止め、彼らのモティベーションの高さを生かしている。

働いている人の流動性も高く、自分の能力をきちんと評価してくれる組織を求めて動いている。その動きは、企業と企業の間だけではなく、産官学、様々な組織間で活発である。企業と大学の間でみても、企業から大学に一時期勉強のために戻るだけでなく、企業の人が大学の教員となったり、大学の教員が企業に出ていくことも多い。

専門職に就いている人の過去のキャリアをみても、様々な職業・職種を経験している。例えば、シニアのベンチャーキャピタリストを見ると、大学ないしは大学院卒業後すぐにVCファームに入り、そのままそこに長くいる人はほとんどいない。多くは、様々な事業会社での経験を繰り返すか、企業家で成功した人がキャピタリストになるケースも多い。

人を受け入れるそれぞれの組織は、受け入れる人の過去の属性やましては人種などにはほとんどこだわらない。受け入れる時点で組織側が必要とする能力スペックに見合えば基本的には受け入れてくれる。それは組織の大小を問わない。シリコンバレーの黎明期に、ショックリー半導体研究所からフェアチャイルド・セミコンダクターがスピンオフしたこと、そのフェアチャイルドから500社近い新しい半導体関連のベンチャーがスピンオフし、それらのスピンオフしたベンチャーを洒落てフェアチルドレンと呼ぶことは有名だが、その頃からシリコンバレーでは人の動きは激しかったと考えられる。

米国では一般的に人の流動性は高いようだが、シリコンバレーは特別のような気がする。人の流動性の高さは社会に問題を生むことも確かだと思うが、シリコンバレーの場合それがもっぱらプラスの効果をもたらしているように思える。それは何故なのか。

スピンオフの場合、人材を手放す企業は何故比較的簡単にそれを認めるのか。人間の自由の尊重だといえばそれまでだが、果たしてそれだけなのか。制度的な問題があるのかないのか。筆者は不勉強で詳しく知らない。人材の流動性の高さと組織内外の壁の問題、ある意味では社会学的な問題も含めたに問題に興味が湧いてくる。

【コラム25】アントレ教育に思う(秦信行)
【リソースピープル紹介】北田 勝久 さん(株式会社オフ・ビート 代表取締役)

※「THE INDEPENDENTS」2011年1月号 - p9より