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「外国人向けサービスのニッチトップ戦略」

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株式会社グローバルトラストネットワークス
代表取締役 後藤 裕幸さん

昭和53年熊本県出身。平成 9年私立熊本学園大学付属高等学校 卒業。平成11年中央大学法学部政治学科入学。平成12年5月 ミューゲート 創業 (ミューゲートの前身)。平成14年有限会社ミューゲート設立 代表取締役就任。平成15年同社 代表取締役退任。平成15年株式会社ミュー設立 代表取締役就任。平成18年同社 代表取締役退任 (同社引継ぎのため6月退社)。平成18年株式会社グローバルトラストネットワークス設立 代表取締役就任。

住所:東京都豊島区池袋2-40-13 240池袋ビル10階
TEL:03-6804-6801  設立:2006年7月  資本金:95,500,000円(資本準備金25,000,000円)
http://www.gtn.co.jp/

※2011/3/4 推薦者のコメントを追記しました

■外国人専門の家賃保証ビジネス
―保証自体もリスクは高いですが、外国人だとさらに事故率が高くなりませんか?
「みんなが危ないと言うが、本当にそうなのか。あなた方の周りの外国人は信用できないですか」少なくとも私の周りは違いました。当社は「外国人に良好な住環境を提供して日本の国際化に貢献する」ことを目的に設立されました。そして、「創造的共生社会の実現」というビジョンを掲げています。当社自体、3分の2が外国人で、民族も肌の色も違う人間が一つの場所に集まり一つの目標に向けてまとまっています。色々な価値観が混ざると刺激になり、競争ではなく高め合う方へ力が働きます。

―当時はリプラスが家賃保証ビジネスで急成長して上場しました
リプラスは不動産ファンドの運用失敗で破綻しましたが本業は健全でした。私はターゲットを絞り込む大切さをミューの経験で誰よりも強く実感していました。外国人が日本で部屋を借りられない現状に関して「このままではいけない」と言う危機感もありました。そこで外国人を専門にする家賃保証サービスにしました。当初は、「なぜ外国人だけなの?」「日本人をなぜ受けないんだ」と色々言われましたが、今では市場にかなり定着し、理解いただけるようになりました。私がビジネスを考える時、「ここだけは私に任せてください」という絶対的な強みを持つことを大切にしています。それがあればお客様の方からビジネスを提案してくれるようになり、さらに深く掘ることができるようになります。

―保証能力をどのように不動産オーナーに説明したのですか?
当社が掲げるサービスを説明すると「いいサービスだね!」と誉めてくれます。しかし「君の会社が潰れたらどうするのか」と。会社の信用や実績がなければ利用できないという返事でした。さらに外国人のお客様を集める方法を知らない不動産会社が多いことに気付いた私は賃貸仲介事業を開始し、お客様を紹介する事で保証も合わせてお願いするという方法で実績を積み上げる戦略をとりました。最初は小さな街の不動産会社から攻めていきました。街の不動産会社は人情で何とかなる世界ですので「もうしょうがないよね」と受けてくれました。

―賃借人はどうやって探しましたか?
もともと外国人のネットワークがあったので賃借人はすぐ見つかりました。日本の不動産会社は「HOME’S」や「SUUMO」などに掲載して反響を待つだけです。これでは外国人のお客様はまったく来ません。そこで外国人のコミュニティ、たとえば韓国人向けのメディアなどに広告出稿しました。後は口コミが効くマーケットなのでお客さんが広めてくれました。

―収益黒字までには苦しい時期もあったと思いますが
ビジョンが本当に大事だと実感したのはこの会社を経営してからです。資金繰りや社内調整のことばかり考えていた私に株主から「後藤に御旗がなくなった!」と怒られました。「俺たちは創業時のお前のビジョンに賛同して一票入れているのに、今のお前は目先のことばかりじゃないか」と。私も自分らしさを失いかけていることに気付き一念発起して、とにかくビジョンの達成に向けてまっすぐ走る事を決意しました。このビジネスを最初に創った原点に返り、「GTNのビジョンに共感できないならやめてもらってかまわない」と全社員に告げました。徹底して自分の想い通りにやらせてもらうと。それから血が入れ替わり、新しく入ってくる人間に対してはビジョンを語り続け、そこに共感してくれる人間で会社が構成されてくると会社の業績がどんどん上向いてきました。それから先はものすごい活気に満ちた組織に生まれ変わり、急成長を遂げることができました。

―ビジョンに共鳴して入社された人はどのような方ですか
本間(現取締役)は2009年の1月から無給で休日に当社にジョインしました。彼も私と同じ21歳で起業し、バイアウトしています。もともと大手FC会社の営業の講師から入社して、半年で全社成約率トップの営業成績を収めた人間です。彼が辞めるとき、店長から役員から創業者まで引き止めに来たほどです。当時は彼を雇い入れる資金もなかったのですが、彼は「月給15万円でいいから雇ってくれ、その代わり粗利2千万円達成したら30万円だけ下さい」と、それを条件に入社しました。彼が入ってから売上が格段に伸び、営業利益率も30%を達成するほどになりました。彼自身、外国人向けビジネスを考えていたところネット上で当社を見つけ「ここしかない。無給でいいから働きたい」とへばりついてきました。グロービスで経営を勉強して体系的分析もでき、現場経験を積んでいました。彼がいなかったら今の優秀な営業チームはありません。

―市場は伸びていますか?
今は本社と大久保、ソウルに拠点を構え、パートを入れて45名の規模になりました。留学生の住居選択肢としては寮かゲストハウスぐらいです。一部屋に何人も入れられ本当に劣悪です。日本の住環境はとにかく悪いというのが彼ら外国人の見解です。大学などが提供する部屋を使えるのは全体の15%、残りは自分で住む所を探さなくてはなりません。最近は敷金・礼金も下がり、普通のアパートに住みたいと希望する裕福な外国人は増えています。しかしそこで外国人入居に際して保証人が問題となります。当社では今期は8000人から10000人の外国人の保証を受けます。前期は3000人です。一方で代理店も拡充してきました。800社の代理店加盟がありますが、最近は1ヶ月で80社増えています。

―貴社の強みは外国人スタッフでしょうか?
スタッフは本当に多国籍軍で、韓国人、中国人、台湾人、バングラディッシュ人、フランス人。言語に関しては日本語以外では、英語、中国語、韓国語を話せるスタッフがそれぞれ20名以上います。一人で4言語話せるスタッフもかなりいますし、ネイティブレベルで3言語以上話せるスタッフがほとんどです。外国語での対応は重要ですがそれだけでは優位性になりません。大切なのは想いの強さの部分です。私たちは外国人に日本にきて良かったと思える日本を作りたいのです。そしてGTNの外国人社員は自分が経験した日本での悩みを一緒になって解決したいという想いを持ち、みんな高揚感をもって仕事しています。外国人マーケットは国籍も民族も生活慣習も不動産慣習も多様的でニッチです。ノウハウを築くのはものすごく大変です。
なぜこれが実現できるかと聞かれれば、私は想いの強さだと思っています。

―さまざまな国籍を持つ人を教育していくのは大変だと思いますが
人事評価制度は自分でもユニークだと思います。毎月通知表のような人事評価シートと役員からのコメントを渡します。100点満点ですが、一人ひとり項目が違います。項目は、ビジョンに対する理解、チームワーク評価、協調性、向上意欲、セールス評価などです。役員3人による多面的評価と点数で、アシスタントからスタートし、レギュラースタッフ、アソシエイト、リーダー、マネージャー等へステップアップしていきます。社内は日本語で統一しています。お客様との対話や食事での対話以外は他言語で話すことは一切許しません。特に日本語の敬語の使い方は厳しく指導しています。外国人だからといって妥協しません。

―外国人スタッフの人材確保はいかがですか?
外国人が職場に定着するのはものすごく難しいと言われますが、みんなとにかくこの会社が楽しいと言ってくれます。採用応募は毎月100名くらいあり、その中から入社は2?3名です。外国人の採用ノウハウはかなり蓄積しましたし、GTNで働きたい人は多いです。「外国人が働きたい会社NO.1」を目指しています。優秀な社員確保に苦労は全くしていませんので、このビジネスはまだまだ伸びます。

―日本に来る外国人はこれからも増えますか?
このビジネスが伸びなければ日本は潰れると思っています。日本には240万人の外国人がいます。さらに留学生比率は日本では30人に1人ですがイギリスは4人に1人が留学生です。大学側も留学生の受け入れを増やそうとしていますが、そのインフラが整っていません。当社は早稲田をはじめ30大学や日本語学校と提携しています。留学生は12万5千人日本に来ます。さらに日本語学校には4万5千人で、併せて17万人程度です。まだ当社のシェアは1%にもなりません。今後は台北、上海、北京にも出店したいと思います。関西や九州の不動産会社や大学からは早く出店してくれと頼まれており、今年は関西にもサービスを提供したいと考えております。

―法人需要はいかがですか?
現在GTNで引き受ける保証の割合は留学生と就労ビザで6:4くらいです。法人の需要は高まっていますし、依頼も増えておりますので、これから積極的に取り込みたいと思います。

―入居時の審査はどのようにされていますか?
当社は全て本国の両親と連絡を取って身元確認をしています。さらに国内の友人にも身元確認して、書類との整合性を確認します。すべてに一貫した嘘をつける人間はそうはいません。申込全体の80%は問題なく契約に至っています。

―不動産オーナーは外国人とのトラブルを敬遠しませんか?
GTNは外国人の入居にあたり彼らにごみ出しなど日本での生活慣習について教育をしています。韓国と日本では敷金礼金の不動産慣習の違いもあります。そういった知識をきちんと教える必要があります。トラブルが起きた際には、当社が解決までしっかりサポートいたします。

―競合他社はどんなところでしょうか?
家賃保証ビジネスで業界ナンバーワンはリクルート、次に全保連、日本セーフティー、JIDです。いずれも日本人を主として事業を展開しております。外国人専門の保証会社は事実上GTNだけです。外国人の保証件数では当社は日本最大級の数を誇ると思います。

―他社の参入に対する差別化戦略はありますか?
当社は、ビザだけでも27種類、国籍、民族、宗教等の属性をかけ合せると何万種類もある外国人の与信管理ができる会社です。属性によって必要な書類も変わります。これを全てノウハウ化してナレッジしていき、外国人に対しては生活サポートまで行い、不動産オーナーに対しては集客から入居後も一貫してサポートできる日本で唯一の会社です。

―供給できる不動産はどのくらいですか?
代理店の総管理戸数は40万戸で、空室率5?7%ですからおおよそ2万戸以上は供給できます。当社では他の不動産仲介会社にも使えるように無料で不動産情報を開示しています。当社だけでこの空き室を埋めるのは不可能ですし、出来るだけ多くの外国人が良質な部屋を借りられるようにするには多くの不動産会社に空室情報を開示することが最もビジョンの達成に近道と判断したためです。現在、「Best-Estate.jp」というサイトを運営していますが、日本語、英語、中国語、韓国語、台湾語と5言語対応です。すべて外国人が安心して入居できる空室物件のみを、データ管理方法が異なる各不動産会社の空室情報が閲覧できる奇跡のサイトです。

―家賃の保証料はいくらですか?
賃料の50%を最初に借主側からいただきます。平均家賃は70000円です。1年後からは年間保証委託料として1万円お支払いただきます。家賃は借り手がオーナーに支払い、集金代行はいたしません。オーナーから家賃滞納の知らせがあれば、当社が家賃を立て替え、私たちが借主から回収いたします。

―今後の事業展開について教えてください
最近の日本では外国人採用に関するニーズが高まってきていますので、アルバイトや就職においても外国人に寄与できればと考えております。その他、外国人が求めるニーズに応えるべくアライアンスやサービスの開発を行っていきたいと考えております。

―資本政策について教えてください
GTNの事業を開始したのは2006年7月25日です。私自身の出資を含め、それまでお世話になっていた方々から100万円単位でご出資頂き、設立時は1650万円でスタートしました。その後は、安田企業投資や三菱UFJキャピタルに出資を頂き、直近ではグロービスキャピタルパートナーズに出資を頂きました。現在の資本金は、準備金を入れて1億2050万円です。

―KOSDAQへの上場を考えているそうですね
これまでキム氏(創業以来の事業パートナー)との出会いから韓国とのつながりを強く持ってきました。そこに錦を飾りたいという気持ちがない訳ではないですが、韓国は日本と一番近い国であり政治的、経済的にもあらゆる面で重要な国です。GTNが本気で韓国で事業を行うと韓国の方々にわかってもらうには現地で上場するのが一番だと思っています。またGTNほどKOSDAQ上場にマッチする会社はないとよく言われます。その後は、台湾やシンガポール、香港での上場も検討しています。2014年までには必ず成し遂げたいと思っています。

―若手起業家の会の副代表もされていました
毎月、新日本監査法人や第一次ベンチャーブームを支えた往年の起業家などの支援で運営しており、現在は私よりもっと若い起業家たちが運営を続けてくれています。私は異業種交流より世代間交流が重要だと考えています。人生の先輩達には資金もそうですが、人脈や経験があります。昔、学生ベンチャーが増えた時代がありましたが生き残りは少ない。経験も人脈も資金もなく、あるのはアイディアとやる気だけです。そこに補完関係を作りたいと思います。年長の方々には何か還元したい、新しい挑戦者を応援したいと純粋な気持ちも持っている人もいます。

―ベンチャー企業が生き残るのは大変です
ベンチャーは丸く収まっていてはうまくいきません。とはいえ媚びてはだめです。それには根性が必要です。あとは人を絶対に裏切らないということ。そしてビジョンや夢を語ることです。設定が高ければ高いほど人はついてきます。資金を集めるときもそうでしたが、何よりも採用のときに、ビジョンの重要性を強烈に感じました。ビジョンには投資家、取引先、社員まで全てを巻き込む力があると思います。

―後藤さんの将来像を教えて下さい
私には実現したい夢があります。1万人のパパ計画と私が19歳の決めた目標です。1万人の孤児のパパになると言う目標です。GTNのメンバーも応援してくれていますし、GTNでそれをみんなで達成したいと考えています。自分達の事業が社会に還元され、GTNのメンバーもそれによって世界とのつながりを感じられる組織にしたいと思います。

【リソースピープル】奥見 正浩さん(新日本有限責任監査法人)


推薦者のコメント(新日本有限責任監査法人 奥見 正浩) 当法人で事務局を担当させていただいていたベンチャー経営者の集まりに、若手経営者(学生起業家)として参加いただいたのが、後藤さんとの出会いのきっかけです。若手経営者数人の中でも、自然に周りに人が集まってくる、不思議な求心力がある人だなと思っていました。今でも、変わらないですね。日本で学ぶ留学生や日本で働く海外の方々が、暮らしやすいように、同じ日本で暮らす仲間として、日本を好きになってもらいたいという志に感動しました。時間はかかるかもしれませんが、あらゆる国で成立する事業だと思います。日本発のマルチナショナル・マルチカルチャー企業として、ゲストを迎えるホストとしてホスピタリティーを持って羽ばたいてほしいと思います。


※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年4月号にてご覧いただけます

株式会社グローバルトラストネットワークス

住所
東京都豊島区東池袋1-21-11オーク池袋ビル2階
代表者
代表取締役 後藤裕幸
設立
2006/7/26
資本金
9億4946万600円
従業員数
377名(2024年01月現在)
事業内容
・外国人専門の賃貸住宅保証事業 ・外国人専門の不動産賃貸仲介事業 ・外国人専門の生活サポート事業 ・外国人専門のアルバイト・就職紹介事業 ・外国人専門の携帯電話サービス事業 ・外国人専門の旅行事業
URL
https://www.gtn.co.jp/