<起業家インタビュー>

■ UMAMIフルーツを科学する

 鹿児島県出水市を拠点に、独自肥料と糖度データを武器に日本の果物市場へ挑むスタートアップ株式会社シトラスパレット。代表を務める池元航氏は、鹿児島の柑橘農家に生まれ、東京の青果市場で競り人として営業を学び、再び地元へ戻った異色の起業家です。現在は、栽培技術、販路、ブランド設計を一体化した“ファブレス農業モデル”で、生産者の所得向上に挑んでいます。「100年続く農家を生み出す」。そのビジョンの先には、日本の果物を世界市場へ押し上げる構想があります。

■ 「シトラスパレット」に込めた意味

 社名の「シトラス」は柑橘、「パレット」は絵の具のパレットです。果物には、生産者ごとの味、香り、糖度、栽培環境など、それぞれ違った個性があります。それを“色”のように表現し、価値として届けたいという思いを込めています。私たちは「甘い果物」ではなく、「旨い果物」を作りたいと考えています。糖度だけでなく、旨味や香りまで含めて再定義していきます。
柑橘農家

■ 青果市場で学んだ「売れる果物」

 東京シティ青果に入社し、青果市場で温州みかんの競り人をしていました。朝はまだ暗いうちから市場へ入り、全国から届く果物を見続ける毎日でした。品質が価格に変わる瞬間を、目の前で見ていましたね。最初の上司がすごく営業力のある方で、自分もかなり鍛えられました。市場には“放っておいても売れる商品”と、“頑張っても売れない商品”がある。だったら、自分で「売れる品質」を作らないといけないと思いました。

■ 核酸肥料×光糖度センサー

 シトラスパレットの技術的な特徴は独自の核酸肥料と光糖度センサーです。今の農業スタートアップはDNA領域、つまりゲノム編集に注目する企業が多いですが、私たちはRNA領域へアプローチしています。核酸を含んだ肥料によって、糖度や旨味を高めるのです。
 さらに、光糖度センサーで全数検査し、糖度別に4段階ブランドへ分けています。農家さんの努力が、価格へ直接反映される仕組みです。
シトラスパレット独自肥料と光糖度センサー付き選果機(選果機レーンのセンサー部分)

■ 農地を持たない「ファブレス農業」

 私たちは大規模農地を持ちません。農家さんへ無料で栽培コンサルを行い、自社肥料を提供し、収穫物を販売まで担う“ファブレスOEM型”です。
 農地を持つと、設備投資も人件費も重くなる。一方で、既存農家さんのネットワークを活用すれば、固定資産を抑えながらスケールできます。実際、契約農家が1件増えるだけで、売上は500万〜1000万円単位で伸びる構造です。
 収益源は、青果販売と肥料販売の二本柱です。果物は糖度ごとにブランド分けすることで高単価化し、肥料は継続収益になる。さらに今後はBtoCも強化します。農業は最終的に“ブランド”が重要になると考えています。

■ 「高糖度市場」という巨大マーケット

 国内の果物市場は約1兆円あります。その中で温州みかん市場は約2500億円。さらに私たちは“高糖度帯”に絞っています。ここだけでも約245億円規模があると見ています。
 人口減少の日本では、高品質・高単価へ行かないと農家所得は伸びません。しかも、海外から見ると日本の高品質果物は“割安”に見える場合もあります。そこにはまだ大きな可能性があります。

■ 日本の農産物は、食文化として輸出できる

 柑橘だけではなく、桃やぶどうでも実証を進めています。さらに今、世界で面白いのはサツマイモです。特にアジアで焼き芋がすごく伸びています。海外ではサツマイモは“炭水化物”というイメージが強かったのですが、日本の焼き芋は、“甘いスイーツ”として受け入れられました。つまり、日本の農産物はまだまだ“新しい食文化”として輸出できる余地があるのです。例えば安納芋のような品種も、日本では当たり前でも海外から見ると全く新しい。果物も同じです。

■ 鹿児島は、世界への玄関口に

 鹿児島は港があり、アジアにも近い。福岡と並んで、輸出拠点になれる可能性があります。
 ジュースや加工品も含め、“UMAMIフルーツ”として世界へ出したいですね。果物は単なる嗜好品ではなく、健康価値や機能性も含めて市場が広がっていくと思っています。

■ 「農家が報われる世界」を作る

 農家さんが努力した分だけ、正当に評価され、価格に反映される世界をつくりたい。日本には、世界に誇れる果物があります。足りないのは、その価値を最大化する売り方とブランド設計です。そこを変えることができれば、日本の農業はもっと強く、もっと誇れる産業になる。私たちはその未来を信じて、挑戦を続けます。

interviewed by kips 2026.5.11




【株式会社シトラスパレット】
設 立:2024年12月18日
所在地:鹿児島県出水市黄金町2
資本金:40,299千円(株主:池元航、業務資本提携先、地域支援型VC)
代表者:池元 航
事業内容:農業コンサル、青果販売
従業員:正社員2名、パート15名

株式会社シトラスパレット 代表取締役 池元 航 氏

 

【代表者略歴】

株式会社シトラスパレット
代表取締役
池元 航 氏 Ikemoto Wataru

 
生年月日:1990年7月16日
出身高校:鹿児島県市来農芸高等学校

2013年鹿児島県立農業大学校卒業。
築地の競り人を経 験 後、鹿児島県で就農。植物生理学に基づきながら他分野の生物化学の研究を応用する手法を独学で研究し栽培技術を構築させる。
その後属人的な技術から切り離すために独自の肥料を開発し現在の事業の核を構築した。


※「THE INDEPENDENTS」2026年6月号 - P.2-3より