五條メディカル株式会社 代表取締役 原田 杏子 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

治療は、研究室では完結しない

鮫島:御社は「超低温技術×未来医療」という言葉を掲げています。この“未来医療”とは具体的に何を指しているのでしょうか。

原田:再生医療や生殖医療です。iPS細胞や胚、精子といった細胞は、製造した場所で使われるとは限りません。研究機関、細胞製造施設、病院へと移動します。
例えば、大学の研究室で作製された細胞が別の施設で加工され、さらに別の病院で患者に投与されます。つまり治療は、一つの施設の中では完結しません。

鮫島:いわゆる™マザーバイオプラント型ですね。

原田:はい。細胞製造の拠点、いわば™マザーバイオプラントから各医療機関へ供給される構造です。京都大学のiPS細胞研究や大阪大学の再生医療の臨床応用でも、研究と治療の場所は分かれています。治療が成立するためには、その間の移動工程が品質として保証されなければなりません。

鮫島:そこで超低温物流が必要になるわけですね。

原田:細胞は超低温(例:-150℃以下や-80℃等)での安定した管理ができなければ品質が変わります。移動中に温度が逸脱すると、見た目に問題がなくても機能が変化する可能性があります。つまり輸送は単なる運搬ではなく、治療の一工程になります。

 

コロナが顕在化させた「医療物流」

鮫島:創業は2020年ですね。

原田:はい。新型コロナの時期です。ワクチンや検体輸送が急増し、医療機関からの依頼が一気に増えました。当時、温度管理を伴う医療輸送に対応できる事業者は多くありませんでした。
そこで私たちは、単なる輸送ではなく、温度記録と引き渡し証明をセットにした運用を始めました。これが現在の事業の原型です。

鮫島:つまりコロナは需要拡大というより、役割を明確にした。

原田:はい。誰が品質を保証するのかが曖昧だったのです。輸送中に問題が起きた場合、製造側なのか、輸送側なのか、医療機関なのかが明確ではありませんでした。そこで第三者の品質保証が必要だと分かりました。

 

なぜ既存の物流では足りないのか

鮫島:ただ、低温物流自体は医薬品卸や物流会社も行っています。

原田:従来の医薬品は完成品です。温度逸脱があれば廃棄すれば済みます。しかし再生医療は患者ごとに作られる一点物も多く、やり直しができません。さらに、研究機関、製造施設、病院と管理主体が変わります。この連続工程を一つの品質体系として証明する役割が必要になります。

鮫島:一部の製薬会社では低温物流を内製化しています。

原田:確かに部分的にはありますが、施設ごとに条件が異なり専用物流は稼働率が合いません。また製造と輸送を同一企業が担うと事故時の責任が集中します。むしろ第三者の証明主体が求められます。

 

参入障壁は設備ではない

鮫島:液体窒素設備は導入できれば参入できるのでは。

原田:設備は模倣できます。しかし重要なのは運用です。輸送中は温度・位置・振動を監視し、逸脱時には是正対応を行い、その履歴を医療側へ提出します。単なる冷凍庫ではなく、品質保証システムとして機能します。

鮫島:つまり技術ではなく仕組みですね。

原田:はい。誰がどの時点で品質責任を持つかという全顧客オーダーメイド型の「責任設計」です。

鮫島:その仕組みを特許で守るわけですね。

原田:装置特許ではありません。保管・輸送・引き渡しのプロセス、すなわち医療の安全性を証明する方法を権利として定義したいと考えています。大企業は設備投資で追いつけますが、医療機関との運用整合や責任体系はすぐには構築できません。特許は侵害訴訟のためというより、参入障壁を説明するためのものです。

鮫島:模倣を防ぐというより、模倣の範囲を明確にする。

原田:そうです。何を真似すると侵害になるのかを明確にすることが重要です。

 

再生医療の先にある市場

鮫島:市場は再生医療に限定されますか。

原田:いいえ。ワクチン、遺伝子治療、生殖医療、検体輸送など、医療は生体材料を扱う方向へ進んでいます。卵子凍結の普及により長期保管の需要も増えています。再生医療はまだ研究段階と思われがちですが、すでに臨床応用は始まっています。大学病院で治療が行われる以上、細胞を安全に移動させる仕組みは不可欠です。超低温技術×未来医療とは、研究を実用化するための基盤を指しています。

鮫島:最終的に物流会社を目指しているわけではない。

原田:はい。細胞や遺伝子が保管される時代には、履歴を証明する基盤が必要になります。私たちは輸送を行う会社ではなく、医療が成立する前提を提供する存在になりたいと考えています。

 

―「THE INDEPENDENTS」2026年3月号 P.12より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
五條メディカル株式会社 代表取締役 原田 杏子 氏   <話し手>
五條メディカル株式会社 代表取締役 原田 杏子 氏
(→ イベント登壇情報
 
生年月日:1972年8月22日
University of Wales Trinity Saint David (在学中)
 
2020年「大切な誰かを守るために」の企業理念とともに五條メディカルを創業。
人事・法務・広報など管理部門の実務経験を基盤に、品質と責任の構造化を軸とした経営を行っている。

 
五條メディカル株式会社
設 立:2020年11月17日
所在地:鹿児島県鹿児島市易居町1-2 鹿児島市役所みなみ大通り別館6階 1号室
資本金:8,000千円
事業内容:
①医薬品・臨床検査・高度医療機器・再生医療・化粧品等の輸送・保管、販売
②超低温型物流(新型コロナウイルスワクチンの輸送・保管)


弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。