合同会社ASI 代表 長谷川 正哉 氏
× 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
“動きを学ぶインソール”の革新性
鮫島:まずは、県立広島大学発ベンチャー第1号としての創業、おめでとうございます。長谷川さんが長年取り組んでこられた「知覚入力型インソール」が、いよいよ事業として動き出したわけですが、改めてその技術について教えてください。
長谷川:ありがとうございます。私たちのインソールは、足裏の触覚を直接刺激し、「どこに体重をかけるべきか」を感じ取れるようにする仕組みです。触覚を通して脳のイメージが変わり、結果的に動作が改善される。従来の“支えるインソール”ではなく、“動きを学ぶインソール”と言えると思います。
鮫島:非常にユニークですよね。医療分野の効果はもちろん、高齢者の転倒予防だけでなく、歩行の美しさやカロリー消費の増加など、効果の幅の広さに驚きました。
長谷川:カロリー消費については、インソールが直接“痩せる”わけではありませんが、正しく歩くことで結果的に効率が上がる、という形ですね。スポーツでも、ランニングフォームの安定化や障害予防に活かせる手応えが出てきており、アスリートの方々にも興味を持っていただいています。
知財の難しさと、県大発ベンチャー第1号として直面した壁
鮫島:技術の独自性が高い分、知財戦略が重要になりますね。特許はすでに取得されていますが、課題はありますか。
長谷川:特許はすでに取得済みですが、技術の独自性が高い分、どこまでを権利で守り、どこからをオープンにするかという設計には難しさがあります。今後も追加出願やノウハウの蓄積を通じて、「仕組み」としての全体を守れるように知財戦略を磨いていきたいと考えています。
鮫島:県立広島大学発ベンチャー第1号という立場では、そのあたりも苦労が多かったのではないでしょうか。
長谷川:そうですね。大学側も私も“前例がない”状態からのスタートでしたので、知財の整理、責任分担、契約の考え方など、一つ一つ確認しながら進める必要がありました。技術開発と並行して、制度面を整えつつ進めた点は、かなり時間と労力を要しました。
鮫島:大学発ベンチャーは、研究と事業が混ざりがちになるので、境界を整理するのは重要ですよね。とはいえ、今からでも、ビジネスの周辺にある計測システムや教育プログラムなど、事業全体をカバーする知財を積み重ねる余地は十分あると思います。
長谷川:おっしゃる通りで、製品単体ではなく“仕組み”としてどう守るかが次の課題だと感じています。
技術を広げるために必要な体制づくり
鮫島:今後の展開についてはいかがでしょう? 医療だけでなく、スポーツや健康経営、さらには一般向けにも広げていく計画と伺っています。
長谷川:15年ほどかけて積み上げてきた技術なので、ようやく社会に出せた今、まずは実装をしっかり進めたいと考えています。高齢者の転倒予防、一般向けの運動支援、スポーツパフォーマンス改善など、広く活用いただける可能性があります。
鮫島:一方で、事業をスケールさせるには経営人材が不可欠だと思います。
長谷川:まさにそこが大きな課題です。技術開発には長く携わってきましたが、事業計画や資金計画、組織づくりはまだ発展途上でして…。県大発第1号という新しい枠組みの中で、正解のわからない部分も多く、模索しながら進めています。
鮫島:大学の「検証」と、会社の「事業」「知財」をきちんと分け、安心して事業に集中できる体制が必要ですね。将来的には、技術の教育的側面を担う一般社団法人と、事業会社の二軸で進める形も有効かもしれません。
長谷川:確かに、普及や教育を支える仕組みは必要だと感じています。まずは土台を整え、ブレずに事業を広げていける体制づくりを進めたいと思います。
鮫島:技術の独自性と社会的意義を合わせ持つ非常に面白い取り組みだと思います。知財や契約面を適切に整理しながら、より安心して事業に取り組めるよう、ぜひ今後もご一緒できれば嬉しいです。本日はありがとうございました。
―「THE INDEPENDENTS」2025年12月号 P.16より
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<話し手> 合同会社ASI 代表 長谷川 正哉 氏 (→ イベント登壇情報) 生年月日:1978年1月27日
出身高校:広島県立広島皆実高等学校 県立広島大学保健福祉学部保健福祉学科 理学療法学コース 教授 合同会社ASI
設 立:2025年4月3日 所在地:広島県三原市学園町1-1
資本金:300千円
事業内容:知覚入力型インソール(PSI:Perceptual Stimulus Insole)による健康行動支援事業 |
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<聞き手> 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏 1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。 1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。 1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。 1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。 1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。 2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。 |

