<イベントレポート>
2025年10月24日 長岡インデペンデンツ
@ ミライエ長岡
+ Zoom ウェビナー配信
■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/775
<特別セッション> |
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| (パネリスト) 独立行政法人国立高等専門学校機構 本部事務局 学務参事 野口 健太郎 氏 |
フラー株式会社 取締役会長 (東証GRT:387A) 渋谷 修太 氏 |
長岡市 商工部 部長 西山 裕介 氏 |
(モデレーター) 長岡工業高等専門学校 副校長 外山 茂浩 氏 |
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| 全国51校を擁する国立高専機構で、教育の質保証、教員研修、DX/GX/アントレプレナーシップ教育、産学官連携の仕組みづくりを統括。高専教育全体の高度化と標準化を推進する中心的役割を担う。 | フラー株式会社の創業者としてスマートフォンアプリ開発や企業のDX支援を手掛ける。地域連携の象徴である「長岡花火公式アプリ」開発を主導し、同社は2025年7月24日に東証グロースへ上場。全国の高専と連携する「高専キャラバン」や、高専OB/OGネットワーク「高専人会」を牽引し、高専発のキャリア支援・起業支援の中心人物として活動。 | 長岡市が推進する「NaDeC構想」や、産学官連携拠点「NaDeC BASE」、米百俵プレイス ミライエ長岡を軸としたエコシステム形成を統括。学生起業家支援、ファーストペンギンプログラム、大学・高専連携など、産業振興と人材育成の両面をリードしている。 | 長岡高専の副校長として教育・研究・地域連携を統括。国立高等専門学校機構 本部事務局 学務参事を併任しており、高専教育と地域連携の両面に精通している。 | |||
1. オープニング:長岡と高専教育、そしてスタートアップの接点
外山(長岡高専副校長/モデレーター):長岡インデペンデンツ 特別セッション『実践から挑戦へ:高専教育が拓くスタートアップ人材の未来』にご参加いただき、ありがとうございます。
本日は、全国の高専教育を統括する国立高専機構の野口先生、長岡高専OBでスタートアップを上場に導いた渋谷さん、そして長岡市の産業政策を担う西山部長をお迎えしています。
2.「探究脳」を育む高専教育システム
■ 2-1 高専のミッションと現状
外山:初めに、国立高専機構の野口先生より、高専教育の現状と特徴についてお願いします。
野口(国立高専機構):国立高専機構が擁する全国51校・約5万人が在籍する高専は、日本の産業を支える高度技術人材の安定供給を担っており、求人倍率は20倍超と産業界から強い信頼をいただいています。女子学生比率も24.2%まで上昇し、学生起業家の数も着実に増えています。

■ 2-2 「理論×実践」と、15歳からの高次思考訓練
野口:高専最大の特徴は『理論と実践のバランスのよさ』です。5年間の約3割が実験・実習で、大学以上に手を動かす教育が徹底されています。また、15歳という若い段階から、20代の先輩・博士号を持つ教員・大学並みの研究設備に囲まれ、ロボコンなど多学年の実践活動を通じ、主体性が育まれるのも特徴です。教育学的には、高専は“記憶・理解”ではなく、“分析・評価・創造”といった高次思考=“探究脳”を15歳から育てる教育機関です。正解がない課題に対して、仮説を立て、検証し、実装する。このプロセスを日常的に経験する点が、高専教育の強みです。

3.高専教育の進化:「ものづくり」から「ことづくり」へ
野口:かつての高専は製造業の“中核人材”育成が中心でしたが、現在はDX・GX・アントレ教育など“ことづくり教育”へ幅を広げ、イノベーション人材の育成に力を入れています。ただし、これらは学校だけでは完結せず、産学官連携が不可欠です。企業や自治体がリアルな課題を提供し、学生が挑戦し、伴走支援を受ける。その仕組みが整ってこそ“社会実装”が可能になります。

4.OB起業家が語る「高専の原動力」と長岡とのつながり
■ 実践力と寮生活が育むスタートアップの素地
外山:続いて、高専OBとしての視点を渋谷さんに伺います。
渋谷(フラー創業者):高専で得たものは、大きく2つあります。1つ目は“手が動く実践力”です。
スタートアップの現場では、仕様書だけでは何も進みません。すぐに作れる人材が価値を生むのです。2つ目は“寮生活の仲間との強い絆”です。私は5年間寮生活でしたが、その仲間がそのままフラーの創業メンバーになりました。これは高専ならではの文化だと思います。
そして2011年に、『高専生が新産業に挑戦すれば、もっとすごい会社が生まれる』という仮説を持って創業しました。 2025年7月24日に東証グロースへ上場し、今も社員の2〜3割が高専出身者です。この事実が、仮説が正しかったことを証明したと思っています。現在は、高専OB/OGのネットワーク『高専人会』の代表理事も務め、“高専版・三田会”のような互助コミュニティづくりを進めています。

5.長岡市が推進する産学官連携エコシステム
■ 5-1 NaDeC構想とミライエ長岡
外山:行政としての取り組みについて、西山部長お願いします。
西山(長岡市商工部):長岡市では『NaDeC構想』を軸に、4大学1高専の多様な人材を活かした産学官協創を推進しています。名前の由来は、大学・高専を線で結ぶと“デルタコーン(Delta Cone)”形になることから『Nagaoka × Delta Cone』です。その中核が、ここ“ミライエ長岡”です。


5階のイノベーションサロン、6階のコラボレーションオフィスなど、学生・研究者・起業家・企業が自然に交わる場を整備しています。来秋には東館がオープンし、市役所、商工会議所、金融機関、ハローワークがワンストップでつながる新たな支援拠点が完成します。

■ 5-2 NBICとディープテック分野
西山:長岡技術科学大学(略称:長岡技科大)周辺には“ながおか新産業創造センター(NBIC)”があり、パワーエレクトロニクスを始めとした技術系ベンチャーが集積しています。大学発ベンチャーがNEDOムーンショット事業に採択されるなど、成果も出てきています。

6.ファーストペンギンプログラムと学生起業家の台頭
西山:長岡市では『ファーストペンギンプログラム』を展開し、起業マインド醸成から創業後の成長まで一体的に支援しています。起業講座“リーンローンチパッド”からは11社が起業。市の支援による学生起業家23社中、12社が高専出身者です。さらに、高専生が全国から参加するDX教育プログラム“Ent-X”も実施しています。


7.長岡モデルを支える「熱量」と「つなぐ人材」
■ 7-1 行政:熱量ある“つなぐ人材”への投資
西山:プログラムや施設以上に重要なのは“人”です。メンター、地域活性化起業人など、学生や起業家を支える人材の確保に、予算の多くを充てています。『ミライエに行けば誰かに会える』『ヒントが得られる』という場づくりこそ、エコシステムの核です。
■ 7-2 起業家:高専×行政の“強いタッグ”
渋谷:全国を見ても、高専と行政がこれほど同じ熱量を持ってタッグを組んでいる地域は稀です。ここに地元企業のキーマンが加われば、長岡のエコシステムはさらに強固になると確信しています。
8.クロージング:実践から挑戦へ、長岡がつくる未来
外山:本日のセッションを通じて、
・高専の“探究脳”を育む教育
・OB起業家の実践力とネットワーク
・長岡市がつくるエコシステムの構造
が有機的に繋がり、“実践から挑戦へ”の流れが確かに形になりつつあることを実感しました。
今日の議論が、皆様それぞれの次の一歩につながれば幸いです。
※「THE INDEPENDENTS」2025年12月号 P.4 より
※ イベント開催時点での情報です



