株式会社シンプロジェン 代表取締役 社長 兼 CEO 山本 一彦 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

「DNAを自在に組み立てる」技術

鮫島:シンプロジェンのDNA合成技術は、まさに「書く」発想から始まったと伺いました。どのようにして生まれたのでしょう。

山本:当社の基盤技術は、DNAを精密に設計・合成し、思い通りにつなぎ合わせる技術です。DNA配列を「読む」ことから「書く」ことへの転換が、これからのバイオ産業のドライビングフォースになります。そこを支えるのが、正確に様々な種類のDNAを合成する技術です。
 出発点は30年ほど前、当社の共同創業者であり、当社の基盤技術の発明者である柘植が当時在籍していた三菱生命科学研究所での研究でした。枯草菌(Bacillus subtilis)のユニークな特徴を利用してDNAを集積する手法を開発し、「OGAB®(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis)法」と名づけられました。柘植はその後、慶應義塾大学で技術改良を行い、さらに神戸大学に移ってから応用技術を完成させました。

 

神戸で芽吹く「知と実装の交差点」

山本:当社は2017年の創業後に、柘植の過去の所属機関が出願していた複数の特許を買い取り、神戸大学からは独占実施許諾を受けることで知財基盤を整えました。当時、OGAB®法は柘植の手以外では再現が難しく、いわば「属人的な技術」でした。そのため、OGAB®法関連の特許を柘植が所属する当社に集約することができました。

鮫島:発見を社会実装につなげるには、知財の設計力が鍵になります。

山本:現在、当社は20件以上の特許ファミリーを保有しています。そのうちの多くはPCT出願を経て、日本、米国、欧州、中国等の主要各国で審査中です。中核となる基本特許を含めて、ほとんどが自社特許です。常に事業戦略とセットで知財ポートフォリオの見直しを行い、知財を含めた経営資源を有効に活用する組織設計にも気を配っています。これが競争優位の源泉です。

鮫島:神戸大学発ベンチャーとして、神戸の研究や事業環境について教えてください。

山本:神戸大学では産学連携が非常に柔軟で、研究成果を社会に出すことを前提に議論できます。当社が拠点を構えている神戸医療産業都市内のクリエイティブラボ神戸の向かい側には神戸大学統合研究拠点があり、大学との密接な連携が可能な環境が整っています。

 

知財を軸に広がる産業連携と事業モデル

鮫島:近年はVCファンドや大企業との連携も活発ですね。

山本:これまで累計約38億円を調達しました。直近のシリーズDファイナンスでは明治ホールディングスと太陽ホールディングスが出資し、それぞれバイオものづくり、遺伝子治療の領域で連携が進んでいます。当社の事業モデルのひとつである「遺伝子治療バイオファウンドリ®」は、DNA合成から遺伝子治療用ウイルスベクター製造までを一気通貫で支援するサービスです。OGAB®法を基盤に生み出したオールインワンプラスミド™の技術は、遺伝子治療の普及にとって不可欠な製造コストの削減に大きく寄与する技術であり、遺伝子治療の製造プラットフォームとしての展開を図っています。

鮫島:まさに知財が産業構造を変える段階に入っていますね。

山本:特許は事業を守るための壁として機能しますが、別の見方をすれば技術を社会で循環させる回路だと考えています。研究者の発見を、社会に「動かせる知」として翻訳する―それが、知財の本来の役割です。

鮫島:技術の深さと社会実装のスピード、その両立が印象的でした。研究から事業へ、そして産業へと展開していく姿は、まさに日本の大学発ベンチャーの新しい形だと思います。

 

―「THE INDEPENDENTS」2025年11月号 P.10より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
株式会社シンプロジェン 代表取締役社長 山本 一彦 氏   <話し手>
株式会社シンプロジェン 代表取締役 社長 兼 CEO 山本 一彦 氏
(→ イベント登壇情報
 
1988年一橋大学商学部経営学科卒業。
住友電気工業㈱、㈱野村総合研究所(企業財務調査室)を経て、ベンチャー企業などで財務、経営戦略の責任者を経験。
1998年に独立系ベンチャーキャピタルを設立創業し、代表取締役に就任(2016年3月退任)。
2016年4月に神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科教授就任(2024年12月退職)。
2018年9月より当社取締役、2021年12月より現職。
 
株式会社シンプロジェン
設 立:2017年2月21日
所在地:兵庫県神戸市中央区港島南町6-3-7 クリエイティブラボ神戸 4F
資本金:3,847,280千円(資本準備金含む)
事業内容:DNA受託合成および遺伝子治療バイオファウンドリ®・サービス


弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。