1 はじめに

 今回のコラムでは、特許庁の審査の運用に基づいて(「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)、「AI関連技術に関する事例の追加について」(2024年3月13日・特許庁審査第一部調整課審査基準室))、学習済みモデルにかかる発明について紹介します。
 

 

2 設例(以下の特許出願は、特許となるでしょうか。)(※1)

(1) 特許明細書等の出願書類

 発明の名称:異常に対して実施すべき作業内容を出力するための学習済みモデル

 特許請求の範囲
【請求項1】
 複写機において発生した異常に対して実施すべき作業の内容を推定する学習済みモデルであって、
 前記学習済みモデルのパラメータは、前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと、前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報と、
 前記複写機の保守管理者が前記異常に対して実施した作業の内容を表すラベル情報とを対応付けた学習データを用いて学習されたものであり、
 前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報を入力として受け付け、前記入力された前記異常コード及び前記発生箇所情報に対して前記パラメータに基づいて異常に対して実施すべき作業の内容を推定する学習済みモデル。

【請求項2】
 複写機において発生した異常に対して実施すべき作業の内容を出力するよう、コンピュータを機能させる学習済みモデルであって、
 前記学習済みモデルのパラメータは、前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと、前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報と、前記複写機の保守管理者が前記異常に対して実施した作業の内容を表すラベル情報とを対応付けた学習データを用いて学習されたものであり、
 前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報を入力として受け付ける受付手段と、前記入力された前記異常コード及び前記発生箇所情報に対して前記パラメータに基づく演算を行う演算手段と、前記異常に対して実施すべき作業の内容を出力する出力手段とを備えることを特徴とする学習済みモデル。

【請求項3】
 複写機において発生した異常に対して実施すべき作業の内容を出力するための学習済みモデルであって、
 前記学習済みモデルのパラメータは、前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと、前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報と、前記複写機の保守管理者が前記異常に対して実施した作業の内容を表すラベル情報とを対応付けた学習データを用いて学習されたものであり、
 コンピュータを、
 前記複写機において発生した異常の種類を示す異常コードと前記異常の発生箇所を示す発生箇所情報を入力として受け付け、前記入力された前記異常コード及び前記発生箇所情報に対して前記パラメータに基づく演算を行い、前記異常に対して実施すべき作業の内容を出力するよう、機能させることを特徴とする学習済みモデル。

「異常に対して実施すべき作業内容を出力するための学習済みモデル」の図
(2) 発明の概要(※2)

 複写機の異常には、用紙詰まり、トナー切れ、部品の故障など、様々な異常が存在しました。従来、このような複写機の異常が発生した場合、複写機の保守管理者が対処することで異常を解消しており、複写機のユーザーが異常に応じた適切な対処を行うことは困難でした。
 そこで、本発明では、複写機において発生した異常に対して実施すべき作業の内容を、適切に決定して出力することを目的とし、本発明の学習済みモデルは、複写機において発生した異常に対して実施すべき作業の内容を推定するためのものであり、当該学習済みモデルは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして構成されてもよいものです。

 
(3) 特許出願の帰趨 (※3)
 上記内容を出願した場合、請求項1、2にかかる発明は、明確性要件 (※4)を満たさず (※5)(特許法36条6項2号)、請求項3は明確性要件を具備し、特許されます。
 請求項1について、「学習済みモデル」とは、プログラムの発明(物の発明)を包含する意味ですが、請求項1では、「入力として受け付け・・・作業の内容を推定する」などと経時的な方法が記載されており、請求項1にかかる発明は、物の発明であるか、方法の発明であるか明らかではなく、請求項1にかかる発明は、明確性要件を満たしません。
 他方、請求項3にかかる発明は、「コンピュータを・・・機能させる」との記載があり、本発明にかかる、「学習済みモデルは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして構成されてもよいもの」であるので、プログラムの発明(物の発明)であることが明確であり、明確性要件を具備します。
 請求項2について、「コンピュータを機能させる学習済みモデル」との記載から、請求項2にかかる発明は、プログラムの発明と理解できるところ、プログラムが、「入力手段」、「演算手段」、「出力手段」を備えるように規定されているが、プログラムはコンピュータを手段として機能させるものであり、プログラムそのものが機能手段を備えることはあり得ないので、請求項2にかかる発明は、明確性要件を満たしません。
 他方、請求項3にかかる発明は、「プログラム」である「学習済みモデル」が「コンピュータを、・・・機能させる」と記載されており、「学習済みモデル」がコンピュータを手段として機能させるものであることが明確であり、明確性要件を満たします。
  
 

3 本事例から学ぶ留意点

 学習済みモデルは、プログラムの発明や、方法の発明で特定されうるので、まずは、どのように発明を特定するかを意識することが重要です。次に、プログラムの発明で特定する場合には、「学習済みモデル」がコンピュータを手段として機能させるように(本件でいえば、請求項3のように)記載すべき点に留意する必要があります。
 
以 上
 

<注釈>

(※1) 本文中枠内は、「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)36頁~37頁から引用。図表、及び発明の詳細な説明の記載は「AI関連技術に関する事例の追加について」(2024年3月13日・特許庁審査第一部調整課審査)49頁から引用。
(※2) 発明の詳細な説明は、「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)37頁~38 頁参照。
(※3) 特許出願の帰趨の詳細は、「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)38頁~40頁参照。
(※4) 明確性要件とは、特許をうけようとする発明が明確でなければならないことを定めた要件であり、第三者にとって技術的範囲が明確に理解できる程度に具体的に記載されている必要があります。
(※5) その他の特許要件は具備しているものとします。

 
※「THE INDEPENDENTS」2025年8月号 P.17より
※掲載時点での情報です
 

 
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏   弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

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