<起業家インタビュー>

■ 岐阜大学発ベンチャーとして学生起業を決断

- 御社は大学発のスタートアップとして創業されましたが、起業の背景を教えてください。

 FiberCrazeは、私が岐阜大学大学院に在籍していた頃に、指導教員と共に立ち上げたベンチャー企業です。学生起業という形を選んだのは、3つの強い思いがあったからです。
 1つ目は、研究者として日本の先端技術の可能性を社会に広めたいということ。2つ目は、特に地方では優れた技術が埋もれがちである現状に対する問題意識です。産学の壁を感じ、自らが社会実装の担い手になりたいと考えました。そして3つ目は、地元愛知・岐阜の伝統的な繊維産業と先端技術を融合させて、世界に通用する新しい素材を発信したいという地元愛からです。

■ 染色の高温高圧プロセスが環境負荷の大きな要因

―衣類製造の現場では、どのような環境課題があるのでしょうか。

 普段私たちが着ている衣類は、実は大量の水とエネルギーを消費して作られています。経済産業省のデータによると、服1着あたりPETボトル255本の製造に相当するCO2が排出され、水は浴槽約11杯分も消費されています。その中でも特に染色工程が環境負荷の大部分を占めており、現在の染色には130度の高温・高圧が必要とされています。このプロセスは何十年も変わっていないため、私たちはこれを素材側から根本的に変革しようと考えました。

■ ナノ多孔繊維「Craze-tex®」で室温染色を実現

―御社が開発された新素材「Craze-tex®」とはどのようなものですか?

 「Craze-tex®」は、岐阜大学で30年以上にわたり研究されてきたナノ多孔化技術をベースに開発された素材です。繊維にナノレベルの目に見えない孔(あな)を形成することで、染料が繊維内部に浸透しやすくなり、従来のような高温・高圧を必要とせず常温に近い染色が可能になります。
 さらにこの技術では、染料だけでなく紫外線防止剤、抗菌剤、防虫剤など、さまざまな機能性成分を繊維に閉じ込めることが可能です。成分の含有量は従来技術の4〜10倍と非常に高く、成分が抜けた場合でも簡単に再付与が可能です。
Craze-tex

■ 東南アジアでの感染症対策と環境負荷削減を同時実現

―素材の社会的インパクトも大きそうですね。

 はい、量産スケールに展開した場合には、染色工程におけるCO2排出量を最大75%削減、水消費量を約80%削減できる見込みです。しかも従来必要だったバインダーや助剤といった化学薬品を使わずに済むため、廃液処理も不要になります。
 また、私たちは創業当初から「感染症の予防に貢献したい」という思いを持っており、2024年にマレーシアの研究機関とMoAを締結し、防虫成分を付与した素材による実証実験を行っています。環境負荷の軽減と社会課題の解決を同時に実現できる素材として、現地でも注目いただいています。

■ 地域連携とパリコレ採用で本格展開へ

―今後の事業展開について教えてください。

 弊社の強みは、30年以上にわたる大学の研究に裏打ちされた技術力、大学設備を活用した強固な開発体制及びチーム、そして地元・岐阜の100年近い歴史を持つ繊維メーカーとの連携です。ラボレベルにとどまらず、東海地域の繊維メーカーと密に連携することにより、地域スタートアップならではの迅速な製品開発が可能になります。地域が誇るものづくり技術と我々の先端研究の融合により、無限の可能性が広がります。
 また、今年1月には「Craze-tex®」がパリ・ファッションウィークのブランドに採用されました。学術研究から生まれた新たな繊維素材がパリコレという大舞台で披露されたことは、とても大きな成果です。今後は2027年の量産化を目指し、グローバル展開するための地盤固めをしていきます。弊社のミッション「世界が誇る素材を創る」を達成し、持続可能な繊維産業の実現に貢献していきたいと考えています。

interviewed by kips 2025.6.16




【FiberCraze株式会社】
設 立:2021年9月22日
所在地:岐阜県岐阜市柳戸1-1 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学学術研究・産学官連携推進本部内
資本金:2,100千円
事業内容:機能性繊維及びフィルムの研究開発、素材販売

FiberCraze株式会社 代表取締役社長 長曽我部 竣也 氏

 

【代表者略歴】

FiberCraze株式会社
代表取締役社長 
長曽我部 竣也 氏 Chosokabe Shunya

 
生年月日:1997年10月25日
出身高校:愛知県立一宮西高等学校

令和2年3月 岐阜大学工学部化学・生命工学科 卒業
令和5年3月 岐阜大学大学院自然科学技術研究科 物質・ものづくり工学専攻 修了

2024年度インデペンデンツクラブ大賞 グランプリ表彰盾

 

 

2024年度インデペンデンツクラブ大賞
グランプリおよび地域大賞(中部地区) 受賞
2024年度インデペンデンツクラブ大賞についてはこちらをご覧ください。


※「THE INDEPENDENTS」2025年7月号 - P.2-3より