iCUREX株式会社 代表取締役 武井 孝行 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

天然素材「キトサン」を活かした医療用ヒドロゲルの可能性

鮫島:貴社は、鹿児島大学発ベンチャーとして医療用ヒドロゲル技術を活用した事業を展開されていますね。

武井:はい。ヒドロゲルの原材料となる「キトサン」は、カニやエビの甲羅から抽出される天然成分で、止血、抗菌、創傷治癒といった生理活性を持つ非常に有用な素材です。従来、キトサンから医療用途に耐えうる高い安全性を持つヒドロゲルを製造することは技術的に困難でしたが、私たちの研究ではこれを可能にしました。これは大きな技術的ブレークスルーであり、当社の知財の核でもあります。基本技術に関する特許は鹿児島大学が保有しており、現在、専用実施権の取得に向け交渉を進めています。

鮫島:医療現場での応用性が高く、非常に魅力的な素材だと感じます。どのような用途を想定されているのでしょうか。

武井:当社の出発点は、モイストヒーリング(湿潤療法)用のゲル状創傷被覆材(創傷被覆材は傷を覆う絆創膏のようなものを指す)にキトサンの効果を組み合わせ、これまでにない優れた製品を開発できるのではないかという考えからでした。現在は、重度の傷を早くきれいに治癒させることができる創傷被覆材として、クラスIII医療機器の薬事申請に向けた準備を進めています。

 

実用化に向けた薬事承認と拡販戦略

鮫島:技術的には製品化に向けた準備が整っているとのことですが、普及を妨げる要因は何でしょうか。

武井:製品上市の最大のハードルは、PMDA(医薬品医療機器総合機構)による承認審査です。現在、安全性を証明するための実験データの収集に取り組んでいます。

鮫島:薬事承認後の製造・販売体制についてはどのように整備されていますか。

武井:鹿児島大学内に製造設備を構築済みで、生産体制は概ね整っています。販売については、既存の販路を持つ企業とのアライアンスを通じて拡大していく方針です。

鮫島:ゲルの製造ノウハウにも重要な技術が含まれていると感じました。製造技術については、あえて特許化せず秘匿して、競争優位性を維持する戦略も有効だと思います。

 

グローバル展開とBtoC市場を見据えた成長戦略

鮫島:最後に、この技術の将来的なビジョンについて教えてください。

武井:まずは鼻腔などの狭小空間内にできた傷用の創傷被覆材としての上市を目指しますが、さらに適用する傷の範囲を広げ(褥瘡など)、それら傷に適した商品ラインナップにつなげることを計画しています。国内については自社製造・販売を考えており、将来的には、より市場の大きな海外での社会実装を視野に入れて事業を展開していくことを計画しています。

鮫島:海外展開を目指す場合、各国での特許取得がカギとなりますね。

武井:これまでJST(科学技術振興機構)からの支援を受け、アメリカや欧州などを含む、主要国で特許出願を進めることができました。今後は特許管理費用が当社負担となるため、それまでに経営基盤を固め、利益体質を確立したいと考えています。

鮫島:将来的にはBtoC市場への展開も視野に入れておられるとのこと。BtoC市場は規模も大きく、成功すれば大きな成長が期待できます。大学や協業先とのライセンス交渉などで何かお困りごとがあれば、ぜひご相談ください。本日はありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2025年6月号 P.10より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
iCUREX株式会社 代表取締役 武井 孝行 氏   <話し手>
iCUREX株式会社 代表取締役 武井 孝行 
(→ イベント登壇情報
 
生年月日:1980年8月3日
出身高校:福岡県立朝倉高校
 
九州大学工学部物質化学工学科卒業
同大学大学院工学府物質プロセス工学専攻博士課程修了、博士(工学)
2020年 鹿児島大学工学部教授
 
iCUREX株式会社
設 立:2023年10月10日
所在地:鹿児島県鹿児島市郡元1-21-40
資本金:43,001千円
事業内容:創傷被覆材の開発・製造・販売


弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。