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「尖閣後の中国ビジネスの変化」

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京都監査法人
アドバイザリー部門 シニアマネージャー  山下 大輔さん

2003年中央青山監査法人京都事務所入所。
2009年プライスウォーターハウスクーパース上海事務所赴任。
2013年1月同事務所より帰任。プライスウォーターハウスクーパース上海事務所では、日系企業の監査業務、日系企業の内部管理アドバイザリー業務、内部監査支援業務等を行う。現在は、グローバル企業のビジネスのアドバイザリー業務を行っている。

京都市下京区四条通烏丸東入ル 京都三井ビル7F
TEL:075-241-1901 FAX:075-241-1902
http://www.kyotoaudit.or.jp/

―尖閣問題以前の対中国ビジネス展開
2006-2008年における対中国直接投資額は、製造業が5000億円付近で推移しており、中国を「世界の工場」と見る向きが強い傾向にありました。上海市でも、多国籍企業の地域統括本部としての本格的誘致を進めており、奨励金などの優遇措置をあって、大型投資が呼び込まれていました。一方、2008-2012年上半期では、製造業も堅調に推移しながら、非製造業の投資が毎年30%前後の伸び率を見せるなど活性化し、中国が「世界の市場」へと変化してきている点が特徴的です。

―巨大かつ高成長する「世界の市場」としての中国
2003-2012年にかけて、消費額は年16.7%の高成長率を見せ、日本とほぼ変わらない水準まで達しています。中国沿岸部には意欲的な購買層が2?3億人いると言われており、これだけでもその消費力が推し量れます。また、所得倍増計画として2011-2015年に毎年15%引き上げを目指しており、賃金上昇率は高い基準で推移しています。2050年のGDP予測を見ても、まだまだ成長余地を残しており、「世界の市場」としての存在感は高まるばかりです。

―2012年下半期、尖閣後の中国ビジネスの変化
結論から言えば、尖閣諸島の問題やデモ以降の中国ビジネスでのリスクに何ら変わりはありません。ただ、中国投資について、(1)継続、(2)撤退、(3)静観のどれを選択すべきなのか再考してみる契機ではあると思います。小売業は、この成長する中国市場のシェアを獲得することが成長戦略に直結するので、(1)を積極的に選択される企業もあります。中国を生産拠点と捉えている製造業、いわゆる加工貿易のみを行っている企業にとっては、人件費の高騰でコスト負担が大きくなり、今回の一件も重なり(2)を検討される企業もあります。ただ日系企業の多くは、(3)を選択され、今後の日中関係を見守る傾向にあります。

―2013年以降の日系企業の課題と留意事項
人件費の高騰はもちろんですが、最近では労働に対する意識も変わってきており、「自分がやりたいことができる企業か」を重視するようになってきています。また、2012年10月15日以降順次(地域により時期の差はあるものの)、外国人に対する社会保険料(年間80-100万円)の徴収も始まっており、日本人が出向し日本人主体の会社とするのかまた現地化を図り中国人主体の会社にするかで、人件費の負担にも大きな違いがでるようになりました。また、従前からの課題ではありますが、意思決定のスピードや関係当局への対応、税務の複雑性、商慣行や文化の違いなどを乗り越えて、どうやって中国企業と同じ土俵で戦いシェアを獲得していくか、魅力的でありながら難しい市場であることは今後も変わりありません。

―M&Aを活用した中国進出と撤退
中国では減資は原則認められておらず、撤退する際には会社清算を行わなくてはなりません。この清算に要する期間は、諸々の手続、税務当局による最終税務監査対応及び税務当局との交渉等々、一般的に1-2年程度と非常に時間がかかります。ここ最近では、中国に得意先が進出し地産地消が必要となる企業の進出検討、加工貿易を行っている企業の撤退検討が増えてきています。この撤退を検討し始めている企業が清算手続に要する時間を節約するために、これから中国進出を検討している企業との間で、M&Aを活用することにより双方にとって時間コスト節約というWIN-WINの関係になることができます。今後、中国への進出や撤退を検討される企業には、ぜひその手法の一つとして検討いただけたらと思います。

【大連便り】反日感情はいかに脱皮できるか中国(林高史)

※全文は「THE INDEPENDENTS」2013年3月号 - p15にてご覧いただけます