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「特別セッション『21世紀未来農林水工の産業化に向けて〜社会インパクトとしてのスタートアップ創出』」

 <イベントレポート>

2024年8月8日 インデペンデンツクラブ月例会
@ TiB
+ Zoom ウェビナー配信

■ イベント詳細 https://www.independents.jp/monthly-event/733

       
北海道大学
副理事
土屋 努 氏
  AgVenture Lab
代表理事理事長
荻野 浩輝 氏
  (モデレーター)
株式会社ABAKAM 代表取締役
インデペンデンツクラブ代表理事
松本 直人 氏
 

特別セッション レポート

■21世紀未来型農林水工の産業化に向けて

土屋:現在地球の限界を測る指標において、オゾン層破壊や海洋酸性化など複数の項目で限界突破しています。また、日本の食糧基地である北海道は、輸入穀物依存や高齢化による後継者不足、化学肥料・原料の輸入依存、漁業生産量の低下などの問題により危機に瀕しています。そのため破壊された環境を修復する持続可能な食糧生産システムに本気で挑まねばなりません。そして、札幌農学校が前身にあり原生林含め実習できる場所が多い北海道大学が日本の農林水産業の今後を考えなければならないと感じています。

20世紀は、高投入・高収量・高排出の農業と不安定・低収益・高排出の水産業でしたが、21世紀では低投入・高収量・低排出の農業と不安定・低収益・低排出の水産業を目指す必要があります。

北海道大学は他の大学と比較して農林水産業にミッションがあるということを意識しています。大学がアクティブに中核的な役割を果たしながら企業や自治体、国内外を繋ぎこの課題に取り組むことで日本型農林水産業の創出を目指しています。また、一部の農耕地では気温や地中のバクテリアの状況が変化してきているため、研究力を活用して解決していくことで日本全体での「地国地消」の農業を実現していきます。

また、長く積み上げてきた研究結果を活用して農林水とテクノロジーを統合的に進める必要があります。そのため、テクノロジーを担うスタートアップを1社だけでなくエコシステムとして創っていきます。

私たちは教育機関としてスタートアップを展開できる人材を育てることで北海道・日本に貢献する骨太の産業を創り、食料安全保障を確保するため自給改善と効率化に取り組み、大学の研究や発明だけでは対応しきれない課題に対して外部を巻き込みながら解決を目指していきます。




■食と農のスタートアップが地球と子供たちの未来を救う

荻野:Ag Venture LabはJAグループの全国組織が揃って作った、食と農と暮らしに関わる社会課題を解決するスタートアップの支援組織です。ここ数十年で人口が急増したために環境を破壊して食糧を作ってきた現状があります。また、食糧危機の問題は食糧分配の問題と捉えることができるため自給改善に取り組む必要があります。これらの食糧問題に劇的な変化を起こすためにはスタートアップの力が必要だと考え活動しています。

私たちはスタートアップと、JAや大学、行政、農業者をつなげる役割を担っています。特に農業者と起業家が直接関われる機会を提供できるのは私たちだけです。JAアクセラレータプログラムでは6期行っており食と農と暮らしに関わるスタートアップの創出に寄与しています。加えて、農林水産省や自治体向けの支援事業やスタートアップの海外でのビジネスマッチング等も行っています。

大学連携に関しては、大学で講義させていただき学生の皆さんには起業やスタートアップへの就職をしなくとも、起業家マインドを持って働いて欲しいという想いを伝え、将来社会の変革を起こしてくれることを期待しています。また研究機関の知財を社会実装するための支援を行っています。

さらに学生ビジネスコンテストの開催や起業家育成プログラムなど多岐にわたってスタートアップ創出に取り組んでいます。



■知財を活用して農業・漁業の現場に変革を起こすためには

松本:農林水系のスタートアップの成功例は流通の改革に関わるものが多く、生産に関わるものが大きく成長するために、新しい技術と農業者・漁業者との隔たりをいかに埋めるかが重要だと考えています。この隔たりを埋めるためにどのような取り組みが必要だとお考えですか。

土屋:隔たりを埋めるのではなく普及するための構造づくりから着手する必要があります。また、農業や漁業の特性上年に一回しか実証実験できないことも多く、持続性を担保するためには適切な金融システムの構築とリテラシーの高い人材育成によって潤沢な資金投入と厳密なコスト管理ができる産業になる必要があります。

荻野:私は研究者が知財をビジネス化する事業計画をいくつも拝見してきたのですが、生産者が何を必要としているかという視点が欠けていると感じています。そのため、早い段階から生産者の視点を知ることができるシステムや社会を作っていくべきだと考えています。

土屋:大学の重要な役割として研究開発だけでなく、その研究シーズをビジネス化する経営者を見つけたり育てたりすることが重要だと考えています。その点で特に北海道の大学を卒業した学生や院生が社会に出た後に社会貢献の選択肢として農林水の現場に経験を投じることができる道筋を作ることも必要だと考えています。

 

松本:最後に今後お二人でどのようなことに挑戦していくか教えてください。

荻野:1つ目はアクセラレータプログラムで6期目において北海道枠を作ったように、北海道の土地で農業者に受け入れられるスタートアップを作りたいと考えています。2つ目はディープテックが北海道で実証実験できる環境を作りたいと考えています。

土屋:荻野さんをはじめ多くの外部機関と積極的に協力していくことで、食に対する危機感を持って農業を21世紀の産業として再構築していきたいと考えています。

(写真左から、インデペンデンツクラブ代表理事 松本氏、北海道大学 副理事 土屋氏、AgVenture Lab 代表理事理事長 荻野氏)

※「THE INDEPENDENTS」2024年9月号 P.4-5 より
※ 冊子掲載時点での情報です