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「『リスクからの発想』がイノベーションを引き起こす」

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株式会社未来質中央研究所
代表取締役 徳谷 昌勇さん

早稲田大学大学院修了後、成蹊大学、中央大学専門職大学院教授、東京農業大学生物産業学部教授、早稲田大学大学院(MOTビジネススクール・未来質管理を使った新製品開発の理論と実践)客員教授を経て、現職。専門はリスクマネジメント・危機管理・新製品開発・イノベーション。未来質管理という新製品開発/イノベーション手法を開発し、我が国企業の製品・サービスのイノベーション推進のために当社を創立、代表取締役就任。

資本金:10,000千円 設立:1986年4月
事業内容:新製品開発事業、未来質管理による新製品開発コンサルティング

1984年、ある技術者団体より「リスクマネジメントを使った新製品開発の手法」というテーマで研修を依頼されました。これをきっかけに、リスクから価値あるアイディアを発見する手法を確立し、未来質管理と名付けました。今回は、これまで多くの大手企業の新製品開発に関与し、実証的研究から見えてきたことについてお伝えしたいと思います。

―リスクに対する誤解と本質
リスクは危険(マイナス)と冒険(プラス)の二つの側面を持っています。日本人はリスクに対して「無視するもの」「怖いもの」と負の側面だけ捉え、悪者扱いをしてきました。しかし、リスクは克服できればチャンスに変換することができるのです。不便、面倒、複雑、わかりにくい、時間がかかる、というリスクは、それを解消する技術やサービス、システムを発見することで、新たな価値につながります。

―イノベーションとは何か
イノベーションとは端的に言えば、人と同じことをしないこと。日本企業の開発の弱点は、過去の成功に依存してしまうことです。しかし、イノベーションは過去に存在しなかったコンセプトを発案しないと実現できません。過去の成功事例(過去質)に残留する目に見えにくいリスク(現在質)を発見し、それを解消したものが未来質、すなわち、イノベーションなのです。過去に準拠するのではなく、絶えずリスクを探し、新たな価値を考える習慣が肝要です。

―イノベーションの事例(ザクとうふ)
相模屋食料(株)の「ザクとうふ」はイノベーションを実によく体現しています。平凡で変化の少ない豆腐商品の中で、キャラクターの頭部を使った全く新しいアイディアを打ち出しました。特筆すべき点は、社長が全責任を取るとコミットして開発を進めたこと、スティーブ・ジョブスに傾倒して細部に徹底的にこだわったこと。競合商品と同じ形では埋没するとリスクを発見し、新たな価値を生み出した点で、優れたケースと言えるでしょう。

―リスク=未来質=イノベーション
やや総括的になりますが、リスクを発見すれば未来の価値(未来質)、すなわちイノベーションを引き起こすことができるのです。成功事例はみなリスクからの発想をしており、事後的に分析すると必ずリスクをチャンスに変換していることが分かります。リスクの発見→予知→変換の3つを訓練すれば、誰もがイノベーターになることができます。そして、リスクがない事業は存在しないが故、この手法はどんな分野・企業規模にも適用することができます。

―未来質管理ツール
(1) リスクの発見手法
 既知の特定、未知への気づき
(2) リスクの評価手法
 優先順位、選択順位、価値測定
(3) リスクの予知手法
 ユーザーの気持ちの動く方向、変化、前兆の読み取り
(4) リスクの予防手法
 事前の解決、一時的解決、長続きしない解決策
(5) リスクの対処手法
 ユーザーの怒り爆発対応、ユーザーの反乱への釈明
(6) リスクの復旧・復興手法
 旧状への回復、旧来を超えたイノベーション
(7) リスクの変換手法
 機能、技術、素材、デザイン、ソフト、プラットフォームなどの変換
(8) リスクの戦略手法
 ストーリー分析、インパクト分析、因果分析


※ 徳谷昌勇氏は2013年2月8日にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。

※全文は「THE INDEPENDENTS」2012年10月号 - p8にてご覧いただけます