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「超軟性・超高伸長の外付け人工膀胱で排泄課題を解決する」

<起業家インタビュー>

― 「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2023」の最優秀起業家賞 受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。これまで製品開発に長く取り組んできて、ようやく世に出すタイミングに素晴らしいコンテストで評価をいただいたことを大変嬉しく思っています。学生時代を過ごした石川県には、これまでに全国に700名以上の排泄ケア専門家を育成輩出された榊原千秋氏(合同会社プラスぽぽぽ/石川県小松市)との出会いや製品開発への協力も含め、深い縁を感じています。

 

― 「拡張ボディ」をコンセプトとする全く新しいタイプの尿トラブル対応製品を開発しています。

当社の開発する製品(外付け人工膀胱)は、あたかも自身の身体の一部のような「拡張ボディ型」であり、快適で、行動特性に優れ、通常の排尿と同じ姿勢/スタイルで用を足せることが大きな特長です。世界初のコンセプトの商品です。

おむつや尿パッドは「吸収型」に分類されますが、装着性や臭い、交換作業、或いは衣服を濡らす恐れなどで行動が制限され、趣味や就労などを諦めてしまうケースが少なくありません。当社のヒヤリングでは多くの人が尊厳を傷つけられる思いもされています。これとは別に、尿をチューブでバッグに集める「集尿型」の排尿ケア製品もありますが、装着感・運動性に難点があり、ほとんど普及していません。対して、当社製品は違和感どころか装着している感すらない製品であり、もれた尿を膀胱の代わりに一時的に溜め、都合の良いタイミングで普通のトイレで普通に用を足す姿勢で排出し、朝装着して夜外すまで繰り返し利用できます。つまり、我々の製品を使えば、それまでの生活スタイルを変える必要がない、ということが大きな特徴です。

 

― この「拡張ボディ」コンセプトを実現する技術的な特長は何でしょうか。

3つあります。一つは、人体表面のどこよりも圧倒的に柔らかく、皮膚のどこよりも圧倒的に伸びる超軟性・超高伸長素材を使って機能を構築する設計技術です。このような素材を用いることで、センシティブな部位に装着しても、違和感どころか装着している感すらないことを実現できます。しかし、超軟性・超高伸長素材は部品の固定も接合も困難であるため、従来の工学的手法が使えません。そこで、Bio-Mimic(生物模倣)のアプローチを用いて機能性のある製品を実現することに成功しました。

2つ目は、ディープなエルゴノミクスです。身体構造に対応した粘着剤なしでも外れない仕組みや快適な排尿ができる仕組みを開発し、金沢大学附属病院と臨床実験をしています。これら基本技術は既に特許権利化済みであり、その他複数の知財も国際出願の手続きを進めています。

また、3つ目として超軟性・超高伸長素材を用いた機能性製品を安定した品質で効率的に生産する製造技術も確立しています。
 

 
 

― 排尿は人間の生理現象であり、日常のあらゆるシーンで用途が見込めますが、市場戦略はどのようにお考えですか。

大きく2つのターゲットがあります。一つ目は、加齢や疾病、外傷などで尿トラブルを抱えているが、以前のような生活スタイルを取り戻したいと望まれている方々です。尿トラブルは、本人にとっては極めて深刻な問題です。多くの方々は、常日頃、自らより良いソリューションを探しており、こういう方々にはオンラインで直接利用者に提供するD2Cスタイルが適していると考えています。また、提供するだけではなく、榊原氏と協業しながら、顧客の尿トラブルの問題を伴走しながら解決する相談サービスも計画しております。

2つ目は、身体的には問題なくても、特殊な業務やレジャーの環境下で長時間、トイレに行けない状況への用途です。例えば、感染症対策の防護服は一旦脱ぐと廃棄されるので、防護服の中ではおむつを着用しています。あまり公にはされていませんが、おむつやポータブルトイレが必要な業務は少なくありません。レジャーに関して言えば、例えば、ニューヨークの大晦日のカウントダウン、昼間から真夜中まで、大混雑の中、トイレを使うことが困難なので、皆さん、大きなおむつをされています。今現在、トイレが心配で映画館やコンサート会場、或いは初詣などに行くのをためらう人は多いです。こういった業務やレジャー用途に関しては、それぞれの領域で強いメーカー/ブランドと協業の話を進めております。

 

― 創業以前は、LIXILで新規事業開発の責任者を担っていました。起業経緯をお聞かせください。

トイレカテゴリーの次世代プロダクトとして、健康チェックトイレ用のバイオセンサーの研究開発や災害時のトイレシステム/サニテーションに関する新規事業をグローバルに起案・推進していました。キャリアの後半では、グローバル環境インフラ室長として各種プロジェクトをリードする中で、途上国や新興国の排泄課題に挑むことで先進国へのリバースイノベーションを企図していました。ちょうど同じ時期に、父の最期に向き合ったことで日本においても排泄の大きな問題がある事を知ったのです。しかも、世界にその解がない。そこで、問題の深刻さに気づいた自分がやるしかないと思い、また団塊の世代が後期高齢者になるのが2025年で、バックキャストすると定年後初めても間に合わないと思い、退職を決意し58歳で起業しました。 

 

― 途上国や新興国ふくめ、グローバル展開も早期に計画しています。

例えば前立腺がんの術後ケアとしても、日本市場200億円に対し、世界では2,000億円と10倍の市場があります。排泄という行為に言語や人種の壁はありません。また、災害時のトイレ/サニテーション環境が不十分であるシチュエーションにおいても強い需要があると考えています。排泄ができないため水分摂取を制限し、結果としてエコノミー症候群、熱中症で命を落とすことも少なくなかったのです。トイレが公共インフラとして充足している日本とは異なったペインが存在し、この「拡張ボディ型」の外付け膀胱が貢献できる余地が大いにあると考えています。

 

― 最後に、今後の事業戦略についてお聞かせください。

技術開発のロードマップとして、より簡単に装着できるモデルやスポーツ仕様、また女性用製品も計画しています。現在は消耗品として重要なイベントの日に使って捨てるものになりますが、より手軽に日常利用ができるような製品への進化にも取り組んでいきます。また、トイレと比べてもパーソナル(他の人の情報が入らない)な状態で尿を集められるこの構造であれば、そこから日々のバイタルデータを取得し解析する「自動排尿日誌サービス」も実現できる可能性があります。日本が得意とする素材や製造技術を戦略的に取り入れ、『人間』をビジネスのど真ん中におく、世界中の人達が、どんな時にも、いつまでも生き生きとアクティブに活動でき豊かな人生をおくるための製品/サービスを提供すること。これが私たちの使命です。

 

interviewed by kips 2023.11.13

 




【イントロン・スペース株式会社】  (→イベント登壇情報
設 立 :2019年10月3日
所在地 :東京都荒川区南千住8丁目5-7 白鬚西R&Dセンター301号室
資本金 :62,620千円
事業内容:超軟性・超高伸張性素材を用いたパーソナルケア/ヘルスケア製品の開発提供
従業員数:3名
 
 

 

 

【代表者略歴】

イントロン・スペース株式会社
共同創業者 兼 代表取締役
今井 茂雄 氏 Imai Shigeo


生年月日:1961年05月06日 出身高校:名古屋市立向陽高等学校

金沢大学大学院修了(理学博士/バイオロジー)。LIXIL / INAXにてサニテーション(衛生管理)、排泄ケアシステムの研究開発に従事。2011年以降はLIXIL総合研究所 企画推進室長、グローバル環境インフラ室長として各種プロジェクトをリード。その一環でUNHABITAT(国連人間居住計画)やUNEP(国連環境計画)との連携を目論み、ケニアの他、インドネシアやフィリピンへも足を運び、途上国・新興国のインフラ事情に適合できるトイレ/サニテーションのリバース・イノベーションを企図し事業化に取り組んできた。その後、高齢化で深刻さを増す国内の排泄関連の問題について調査を契機に2019年に起業を決断した。

 


※「THE INDEPENDENTS」2023年12月号 - P.2-3より

イントロン・スペース株式会社

住所
東京都荒川区南千住8丁目5-7 白鬚西R&Dセンター301号室
代表者
代表取締役 今井 茂雄
設立
資本金
従業員数
事業内容
超軟性・超高伸張性素材を用いたパーソナルケア/ヘルスケア製品の研究開発、企画・設計、販売
URL
https://intronspace.com/