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「スタートアップ育成5ケ年計画とその支援策の展開」

 <イベントレポート>

2023年11月6日 インデペンデンツクラブ月例会
@ エムキューブ
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■パネリスト

石井 芳明 氏(経済産業省 大臣官房 参事/独立行政法人中小企業基盤整備機構 審議役)

<聞き手>秦 信行 氏(インデペンデンツクラブ代表理事)

 

<石井芳明氏・略歴>

1987年岡山大学法学部法学科卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策等に従事。1997年同省工業技術院国際研究協力課、2000年中小企業庁経営支援課、2003年経済産業政策局産業組織課、2006年中小企業基盤整備機構資金支援課、2007年同ファンド企画課、2008年大田区産業経済部産業振興課課長、2011年地域経済産業グループ地域経済産業政策課、2012年経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 新規事業調整官を経て、2023年より現職。
1996年カリフォルニア大学バークレー校 留学(公共政策 単位履修生)。2000年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒業(国際経営学修士)。2012年早稲田大学大学院商学研究科卒業(商学博士)。

 

以下のテーマについてディスカッションを行っていただいた内容をお届けします。

「スタートアップ育成5ケ年計画とその支援策の展開」 

秦:本日の月例会は、経済産業省大臣官房参事で中小企業基盤整備機構に審議役として出向され現場を見ておられる石井芳明氏にご登壇頂いた。まず、石井さんからスタートアップ育成5ケ年計画等について資料に沿いながらお話していただく。

石井:まず申し上げたいのは、今後の日本の課題解決と経済成長を担うキープレーヤーこそがスタートアップであり、戦後の創業期に次ぐ第二の創業ブームの実現を期待したいということだ。スタートアップとは新規性、成長性、そして創業間もないこと、が特徴で、ベンチャーと同義語だと言って良い。
 日米の2010年以降の株価推移を見ると、日本は停滞し米国は10倍近く上昇している。とはいえ米国の株価はGAFAMというIT系プラットフォーム企業によって上昇しているのであって、それらを除くと米国の株価はほとんど上昇してはいない。そのGAFAMは実は主にスタートアップを買収・連携して成長しているのだ。
 スタートアップは雇用創出にも貢献している。社歴別の雇用増減をみると、社歴10年未満の若い企業のみが雇用を増やしていて、社歴の長い企業は雇用を減らしている。
 既存の企業は過去の成功体験故に新しい動きへの対応が難しい(イノベーションのジレンマ)。新技術、新機軸を打ち出せるのはスタートアップに他ならない。最近ではコロナワクチンの開発に成功したモデルナなど幾つかの事例が挙げられる。
 日本のスタートアップ支援は過去10年で投資額が10倍の約1兆円に増加し、エコシステムも整ってきたものの依然改善の余地は大きい。そのため2022年をスタートアップ創出元年とした上で5ケ年計画を策定、今後5年で投資額を10倍の10兆円に、数を10倍の10万社にすることを目指している。そのために人材・ネットワークの構築、資金供給の強化と出口の多様化、オープンイノベーションの推進を図る計画である。
 スタートアップの成長スタイルには3つのパターンがある。1つ目がSaaS型でスピード勝負のスタイル、2つ目が創薬分野などのディープテック型で成果まで大きな開発費と長い時間が掛かるパターン、この2つが拡大志向型。3つ目が早い段階でキャッシュフローをプラスにする持続志向型、それぞれの成長パターンのスタートアップには異なった支援方法を考える必要がある。中小企業のインキュベーション施設に入っている企業のアンケートを見ると、拡大志向型と持続志向型の企業がほぼ半々になっている。そして、拡大志向型のスタートアップには2000億円の産業革新投資機構の投資ファンドなどが、持続志向型のスタートアップには日本政策金融公庫のスタートアップ向け融資制度や経営者保証をなくす信用保証協会の新たな信用保証制度などが用意されることになる。
 今後政府としては、スタートアップを政策の中心に位置付けた上で官民一体となってスタートアップの拡大を支援し、新しい日本を作っていくことを目指している。
(施策の詳細は、URL:https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html 参照)
 
 
秦:それでは続いて質疑応答に移りたい。
私は1990年代末に経産省において、米国で1982年に出来た省庁横断的な研究開発型ベンチャー支援策の一つで大きな成果を上げたSBIR(Small Business Innovation Research)の日本導入を議論する研究会に参加し、日本版を作ることになった。ただ、出来たものが米国とはかなり違うものになってしまったという経験を持っている。今回の5ケ年計画も色々な省庁が関わっているので、同様のことが起こってしまわないのか心配だ。

石井:日本版SBIRは2020年に大きな見直しが行われ2021年に施行された。SBIRは本来的には省庁間を横串にする政策なのだが、まず見直し前の日本版SBIRについては、SBIRについての理解が政府の中で浸透していなかった。当時は通産省、中でも中小企業庁の政策になったために中小企業政策になってしまった。米国のSBIRの本質は大統領府の指導の下で各関係省庁がSBIRをよく理解した上で、同じ方向、同じフォーマットで政策を推し進めるところにあった。しかし当初の日本版はそうではなかったために、各省庁を巻き込むことが出来なかった。今回の見直しはその反省の下に中心を内閣府に引き上げた。ただ、それでも各省庁の協力について苦労はしている。
 
 
秦:岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出した。その意味するところは何か。
 
石井:従前の資本主義の目的は、利益成長、ファイナンシャル・リターンの極大化だと理解されてきた。ただ、現在の日本は課題先進国と称されるように、社会課題の解決、ソーシャル・リターンあるいはソーシャル・インパクトを大きくすることも重要で、これらの2つのリターンの拡大を目的にする必要があるように思う。
 
 
秦:海外との関係、海外勢の活用という面はどうなのか。
 
石井:日本のスタートアップへの資金供給という面で、年金基金など国内の機関投資家の資金の活用拡大と同時に、海外の資金の活用も重要だ。その面で手応えが出始めているように感じる。背景は、日本のスタートアップへ注目度が上がっていることが海外へも伝わっていることと、中国など地政学的リスクが高まっていることだ。先日米国の有力VCのトップが挙って日本に来たが、彼らは投資対象を見つけるだけでなく、自身のファンドへのLP出資先を探すという向きもあってようだ。
 
 
秦:日本のVCのグローバル化の問題へのご意見はあるか。
 
石井:グローバルな世界では、投資契約などの面でグローバル・スタンダードにする必要があることは確かだが、冨山和彦氏も言っているように、ローカルな世界で活動しているVCもあるので、ローカル・ルールを全面的に否定する必要はないのではないか。
 
 
秦:投資の出口であるM&Aは日本でもっと増えて良いと思うし、スモールキャップIPOといった日本の株式市場の問題もある。そのあたりについてどう考えておられるか。
 
石井:日本のM&Aはもっと拡大する必要がある。経団連も同様の認識を持っているようだが、のれん償却の問題など制度的な問題もある。なにより、そもそも日本のトップがリーダーシップを取って果敢にM&Aを実行する姿勢、事例を増やしていく必要があるように思う。加えて、株式市場でM&Aの成果をもっと評価することも必要なのではないか。
日本の株式市場の問題については、レーターステージに多額の資金を投資する投資家が日本でも出て来て欲しいし、それと同時に起業家に自社の成長拡大をもっと図るべく目線をさらに上げて経営して欲しいとも思う。
 
 
会場:人材を新しい分野、会社に行かせる仕組みについてどう考えておられるのか。
 
石井:非常に重要な論点だと思う。政策的にはこれまで大企業からスタートアップにインターン等に出す際に補助金を出すといったことなどはやってきたが余り上手く行かない。
問題は成功例を増やすことだと考えている。その意味では東大のAI研究で有名な松尾研究室の人材などは多くがスタートアップに行くし、東大の農学部では、ユーグレナの出雲氏やジーンクエストの高橋氏が出たが故にスタートアップに就職する人材が増えている。
 
 

会場:助成金の申請代行業をしているが、補助金や助成金や制度融資といった施策がスタートアップに必ずしも届いていないのではないか。この点はどうか。

石井:様々な施策がどのタイプのスタートアップに適応するかといったことが分からないという指摘は多くいただいている。政府系支援機関によるスタートアップ支援機関連携協定「Plus」でワンストップ窓口も設けているのだが、民間支援機関の方々とのバランスも考えていく必要がある。いずれにせよ、全体を俯瞰して的確に個別企業に情報をデリバリーできる仕組みづくりが急務である。

 
 
 

 当日のプレゼンテーション資料はこちらからご確認ください。

 → プレゼンテーション資料「スタートアップ支援策(METI)」

 
※「THE INDEPENDENTS」2023年12月号 P.13より
※冊子掲載時点での情報です