アイキャッチ

「知財トレンドと変容する『人』」

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
 × 株式会社Kips 代表取締役 國本 行彦 氏


國本:特許庁が主催する「IP BASE AWARD」の審査委員長に就任されています。
鮫島:スタートアップにおける特許リテラシーはこの10年で劇的に高まりました。特許庁は6年前から「IP BASE」というスタートアップのための知財コミュニティポータルサイトを開設しています。スタートアップの優れた知財活動や支援者を奨励・表彰する「IP BASE AWARD」も5回目となり知財エコシステムが形成されてきました。

 

國本:特にディープテック系スタートアップにおける特許取得の必要性と同時に費用対効果も重要です。
鮫島:オープンイノベーションの流れで大企業との交渉にはエッジの利いた特許を持つ必要がでてきました。しかし資金が限られているスタートアップは、特許に対してコストやリソースを割くことが難しい状況です。業種・技術領域によっては、数件でビジネスをグリップできる特許取得を取っていくことを私たち知財アドバイザーは目指しています。

 

國本:スタートアップの国際戦略、特にアジアが注目されていますが、知財戦略面での留意事項を教えてください。
鮫島:欧米においてはPCT出願でカバーできても、東南アジアは地域として狭く、ローカルな弁護士や裁判官が特許訴訟に対応できるか疑問です。一つの特許でカバーできるマーケットが大きいほどコストリターンは良くなるのでインドは有効かもしれませんが、台湾・韓国に対しては議論の余地があると思います。また経済安全保障の観点からのリスク評価も考慮すべきです。 


國本:特許それ自体の価値が減少していきそうですね。
鮫島:一件ごとの特許の価値は右肩下がりになっています。日本の大企業の出願件数がここ20年で急速に減少しているのは、特許のコストに見合うだけのリターンが確保できなくなっているという判断の結果だと思います。諸外国と比較しても日本だけの現象でありますが、それだけを以て日本はイノベーティブではないと結論付けるのは尚早とも思います。

 

國本:AIの台頭が、新規開発や特許における「人」の役割を変えていくと思います。
鮫島:材料開発などの分野においては、既にAIで発明することが可能になっていますが、AIの発明が特許として認められるかという論点があります。AIの出力が全て「真実」として人が判断してしまうと、新たなイノベーションは起きにくくなります。

 

國本:これからはクリエイティビティを持つ人材の価値が上がりますね。
鮫島:技術がコモディティ化して、権利範囲が広く無効にされにくい特許取得は難しくなってきています。イノベーティブであるために、「真実」がわかるような人材をどのように維持・育成していくかが、日本の競争力に繋がると思います。

 

第5回「IP BASE AWARD」応募者募集中!
エントリー2023.12.07まで
受賞候補者の推薦 2023.11.30まで

―「THE INDEPENDENTS」2023年11月号 P.10より

※冊子掲載時点での情報です
 

   <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

 

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所

住所
東京都港区虎ノ門2-10-1虎ノ門ツインビルディング東棟16階
代表者
代表弁護士 鮫島 正洋
設立
2004年7月5日
資本金
従業員数
弁護士25名、スタッフ10名
事業内容
知財・技術を中心とする契約・訴訟等の法律事務(技術法務)
URL
http://www.uslf.jp/