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「スタートアップ創出10の提言」

 <イベントレポート>

2023年9月4日 インデペンデンツクラブ月例会
@ エムキューブ
+ Zoom ウェビナー配信

 
■パネリスト
松田 修一 氏(早稲田大学 名誉教授)
長谷川 博和 氏(早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授)

<モデレータ>
秦 信行 氏(インデペンデンツクラブ代表理事)

 

 
以下のテーマについてディスカッションを行っていただいた内容をお届けします。

「スタートアップ創出10の提言」 

秦:本日はこの6月に中央経済社から出版された『スタートアップ創出 10の提言』という本の共同編著者である松田修一、長谷川博和両先生にお越し頂き、本の内容をお話し頂くと同時に、日本のスタータアップ創出の課題、対応策について議論したいと思う。まず最初にこの本が出版に至った経緯と概要について長谷川氏にお話し頂く。
 
 
長谷川:この本は松田先生の早稲田ビジネススクールの博士課程の教え子達が松田先生の傘寿のお祝いとして出させて頂いた。
 現在、世界的に大きな構造変化や経済危機が起こっている。その中でイノベーションの担い手たるスタートアップを育成し、新しい経済社会を創り出すことが重要な課題だと我々は考えている。現状第4次のベンチャーブームだと言われているが、これを一過性のブームに終わらせることなく、スタートアップの本質と問題点を深く議論し、その育成等の在り方を中長期的に考える必要がある。本書の狙いはそこにある。
 本書はスタートアップ環境、知財戦略、起業家教育など10のテーマを各章で取り上げ、それぞれの専門家が現状認識、課題、提言の3点を中心に執筆している。
 
秦:次に第1章「日本のスタートアップ環境」を書かれた松田先生にお話し頂く。

松田:日本でも次世代のロールモデル企業を示す意味で2010年代半ば以降に日本ベンチャー大賞(2022年から日本スタートアップ大賞に名称変更)や大学発ベンチャー表彰といった表彰制度が始まったが、表彰後大きく成長した企業は残念ながら数少ない。
 先頃経団連がスタートアップ躍進ビジョンを発表し、5年後にスタートアップの数を現状の10倍の10万社に、そしてユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)を現状の10倍の100社に、という10×10の世界を目標に掲げたが、現状は遅れている。何が問題なのか、それは日本でスタートアップを支援する仕組みの問題にあると考えている。
 世界ではユニコーンの数は現状1000社を優に超えるが日本は数社に過ぎない。この原因として日本の未上場会社の株式による資金調達環境がここ20数年変わっていないことが挙げられる。例えば米国では未上場会社が小規模公募を行う場合の調達上限額が80億円以上(EUでも上限が10億円)に拡大されているが、日本では1億円未満が上限で変わっていない、など。その結果世界では未上場会社が上場までの段階で多額のエクイティ調達を行い、その後IPOすることが出来る。(図表6参照)
 
 
 加えて未上場会社株式に投資した投資家にはセカンダリー市場が設けられていて換金が可能だが、日本ではそれも不十分なのだ。
 そうした現状を踏まえて、今後私募増資に対応可能な適格機関投資家や特定投資家の保有資産などの条件緩和、未上場株式の流通市場の創設整備、株式投資型クラウドファンディングの1社当たりの募集額の拡大(現状1億円未満を5億円以下に)や一般投資家の最大投資上限額の拡大(現状50万円を2000万円に)などを提案したい。
 
秦:日本で改革が進まない原因はどこにあり、加えて何をするべきか。
 
松田:2000年にソフトバンクの孫さんが米国ナスダックと組んで大証にナスダック・ジャパン市場を作り、東証がそれに対抗して前年1999年にマザーズ市場を開設した。これは大きな動きだったが、その後證券市場は東京一極集中が進み大きな動きが無くなった。その結果政府も証券市場のコントロールがし易くなった面があったのではないか。
 
秦:長谷川さんはそのあたりをどう考えるか。
 
長谷川:3点申し上げたい。1つは、野中さんの『失敗の本質』を読み直しているのだが、失敗は大本営の作戦がtoo late かつtoo smallであったこと、つまり全体を重視するために意思決定が遅く、ある作戦に集中的に資源投入出来なかった事にあるのではないか、この教訓を学ぶこと、2つ目は日本でM&Aの出口をもっと拡大すべきこと、3つ目は若者に注目して起業家の魅力をもっと訴えること、東北から出た大リーガーは最初から世界を向いていて失敗を恐れてはいない、彼らを育成していくこと。
 
秦:経団連のスタートアップ躍進ビジョンをまとめた南場さんに最重要施策は何かと聞いたところ、そんな場合ではない、すべてやる必要があるという答えだった。
 
松田:確かに日本は遅れている。世界は革新のサイクルを早める競争をしている。日本はIPOルールなどを変えて世界からも資金が入ってくる仕組みにしていく必要がある。そうでないと2000兆円の個人資産も海外に出て行ってしまう。大企業ももっとM&Aを拡大してダイナミックに成長して欲しい。大企業もダイナミズムに欠ける。
 
 
秦:フロアの皆さんからご質問やご意見を頂きたい。
 
A氏:変化の遅さはその通りだと思う。要望は、変革に向けてどの法律を変えるべきなどもっと具体的な提言が欲しい。それと適格機関投資家や特定投資家の条件を緩和するのは分かるが、余り緩和すると損をした時に問題が出たりしないのか。
 
松田:そのあたりは様々なデータを見ながら慎重に考えている積りだ。我々は現状、世界との差を縮める必要がある。私は現在も創業から見ている上場企業の役員を何社かやっているが、20数年前はもっと活力と自由度があったように思う。その結果世界との差は拡大している。この格差を縮めなければならない。
 
 
※「THE INDEPENDENTS」2023年10月号 P.8- 9より
※冊子掲載時点での情報です