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「会社と雇用関係が無い者が創作した著作物について、職務著作として会社に著作権が権利帰属するか?」

 


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/

 

 職務著作(著作権法第15条)に該当すれば、著作権は会社に帰属する。著作権法第15条第1項では、「法人等の業務に従事する者」と規定されているが、会社と雇用関係が無い者が創作した場合、「法人等の業務に従事する者」との要件を具備するかが問題となります。
 以下の事案は、いずれも会社との間で雇用関係が無い事例で、裁判所は、以下のとおり判示しました。

1 RGBアドベンチャー事件(最高裁平成15年4月11日)

 観光ビザで日本に滞在した中国籍のデザイナーが、アニメーションの製作会社において作成したキャラクターの図案が問題となりました。
 最高裁は、「法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」と述べ、デザイナーが会社の指揮監督の下で労務提供し、対価の支払いを受けていたことをうかがわせる事情があるとして、「法人等の業務に従事する者」に該当する旨を判示しました。
 以降の裁判例は、同最高裁判決にしたがって「法人等の業務に従事する者」の該当性が判断しています。

2 カメラマン事件(知財高裁平成21年12月24日)

 オートバイレース参加者の走行中の写真を撮影しそれをレース終了後即時に販売する事業を企画した会社は、カメラマン(雇用関係無し)に撮影を依頼して、同カメラマンの撮影したオートバイの写真が問題となりました。
 第一審は、会社のカメラマンに対する指揮監督があったとして「法人等の業務に従事する者」に該当すると判断しましたが、知財高裁は、カメラマンは個人で写真事務所を経営していること、一般的指揮の下に撮影を行ったが撮影に当たってはプロのカメラマンとしてこれを実施したこと、会社の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできないこと、から「法人等の業務に従事する者」の該当性を否定しました。

3 神獄のヴァルハラゲート事件(知財高裁平成28年2月25日)

 Xがゲーム作成に関与した「神獄のヴァルハラゲート」が問題となりました。
 知財高裁は、Xは、会社と雇用契約は無いものの、タイムカードで勤怠管理をされ、会社のオフィス内で被告の備品を用い、会社の指示に基本的に従ってゲーム開発を行い、労務を提供し、同労務提供の対価の実態もあったとして、「法人等の業務に従事する者」の該当性を肯定しました。

4 裁判例から学ぶこと

 裁判例によると、法人と雇用関係がなくとも実質的な指揮命令関係があり、労務提供に対する対価の支払いがあれば、「法人等の業務に従事する者」に該当することになります。
 ベンチャー企業等では、人材も流動的であり、雇用契約を締結しない者に業務を任せる場面も多く見受けられ、そのような場合の成果物の取扱いについて、各裁判例は示唆を与えてくれます。いずれにせよ、両者が納得できる形での事前の合意が重要であることは言うまでもありません。

以上

※「THE INDEPENDENTS」2023年4月号 P13より
※掲載時点での情報です

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