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「スタートアップ支援への政府の取り組み」

 


インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



 先頃、経済産業省が作成し発表した「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」と題した41スライドに及ぶパワーポイントの資料を既にご覧になった方もおられるかも知れない。ご存知のように、現在岸田政権の下で、2022年を「スタートアップ創出元年」とした上で、各種の施策が推進されている。スタートアップに関係する筆者から見ると、2022年の「スタートアップ創出元年」はいささか遅きに失した感もあるように思うが、それはともかく、この経済産業省の資料はスタートアップによる成長戦略を実現するために打ち出された様々な施策を紹介する資料となっている。

 目次を見ると、「01 なぜスタートアップなのか、02 スタートアップ支援政策の歩み、03 5年後の目標と3つの柱、04 主要政策紹介、05 おわりに」とある。

 最初のパートである「01 なぜスタートアップなのか」の中で紹介されている図表で興味深いのは、2010年から2020年までの間の日米の株価の推移を比較したグラフだ。米国のS&P500指数は2010年を100にした時の2020年は約900と約9倍に上昇しているのに対して、東証TOPICSは200弱と2倍程度しか上昇していない。さらにそのグラフには、米国のGAFAMという1970年代後半から2000年過ぎに創業した所謂プラットフォーム企業を除いたS&P500指数の推移が示されている。それを見ると実は日米の株価成長に大きな差はないことが分かる。つまり、ここ10年の米国の株価成長、引いては経済成長は、GAFAMに代表される起業家によって立ち上げられスケールしたスタートアップに牽引されたものだったわけだ。

 ご存知のように、世界の時価総額ランキングベスト50を見ると、1980年代後半には日本企業が最大32社も入っていたが、現状では31位のトヨタ自動車のみ(Wright Investor’s Service, Inc.の2022年1月14日のデータ)に減少し、しかもそのトヨタもランキングを徐々に下げている。要はここ30年で日本の大企業の経済価値は大きく劣化し、それを補う新しい企業が生まれていないのだ。その実態を抜本的に改善し、戦後すぐの創業期に次ぐ第二の創業ブームを生み出すために、日本にスタートアップを生み育てるためのエコシステムを創出しようというわけだ。

 経産省のパワーポイント資料によると、5年後の具体的な目標としては、スタートアップへの投資額を5年で10倍に拡大することを挙げている。INITIALによると、日本のスタートアップへの年間投資額=スタートアップの年間資金調達額(VCだけでなく法人企業などからの調達も含んだ数値)は2022年で8,774億円となっており、ここ10年で10倍に拡大している。経産省としては、この8,774億円を次の5年間で更に10倍の10兆円近くに拡大することを目指していることになる。加えてそのために、(1)スタートアップの担い手になる人材・ネットワークの構築、(2)スタートアップの成長のためのVCや個人からの投資拡大とM&Aなど出口戦略の多様化、(3)スタートアップと大企業とのオープンイノベーションの推進、という3つの柱を整備することを謳っている。

 資料には、「04 主要政策紹介」として、より具体的な約30の政策がそれぞれ簡単に紹介されている。ご興味のある方は経済産業省のホームページから、上記の「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」と題した資料にアクセスして頂きたい。これらの政策が効果を発揮し、日本が数年後にスタートアップ大国に生まれ変わることを期待したい。

※「THE INDEPENDENTS」2023年4月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です