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「主力商品の設計情報の持ち出し行為について、有罪判決となった事例」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
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取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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名古屋地裁令和2年3月27日判決〔日本ペイント事件〕

1 事案

 本件は、塗装大手の日本ペイントの元役員(被告人)が、日本ペイントの主力商品である建築用塗料「水性ケンエース」の設計情報を複製し、USBメモリーに保存して持ち出して、日本ペイントの競合企業である菊水化学工業の役員に就任し、同社に対して、同設計情報を開示したとして、有罪判決を受けた事案です。

2 名古屋地裁の判断

 名古屋地裁は、以下のとおり判断しました。

主 文
被告人を懲役2年6月及び罰金120万円に処する。
この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

 被告人は、設計情報の秘密管理性を争いましたが、裁判所は、本件情報は情報管理システムIで管理されていたこと、Iへのアクセスは一部の技術職員に限られ、かつ申請・承認が必要であったこと、同申請の際各種規定を遵守する同意があったこと、設計書には秘密表示があったこと、などの事情により、秘密管理性は肯定されました。
 結果、被告人には、有罪判決が下されました。

3 本裁判例から学ぶこと

 近時、会社退職時に、会社の営業秘密を持ち出す事例が、散見されます。ソフトバンクの社員が、同社のネットワーク技術の関する情報を持ち出し、楽天モバイルに転職したとされる事例では、同社員は不正競争防止法違反の容疑で逮捕され、かつソフトバンクは楽天モバイルに対し、1000億円の損害を被ったとしてその一部の10億円の損害賠償請求を提起しています。また、はま寿司(ゼンショーホールディングス)から、かっぱ寿司(カッパ・クリエイト)の社長に就任した者が、商品仕入れデータ等を持ち出したとし、同氏は不正競争防止法違反の容疑で逮捕されています。
 不正競争防止法における営業秘密の持ち出し行為に対しては、損害賠償請求等の民事上の措置が採れることのみならず、刑事罰の適用もあることが特徴です。
 企業としては、このような持ち出し行為を抑止するために、以下の対策を講じることが有効です。

【企業の対策】
・入社時、退職時には、秘密保持に関する契約・誓約書を作成・締結
・情報へのアクセス、複製、持ち出しの各行為について、権限を設定
・秘密情報の表示
・退職の申出がされたら、秘密情報へのアクセス制限を課すこと
・退職者のログ確認
・テレワークにおける秘密情報管理

 本判決の営業秘密の持ち出しの事例のように、不正競争防止法に基づき、民事裁判乃至刑事裁判が生じた場合、企業の秘密管理性が争点とされることが多く、上記対策を十分に講じることが企業活動には有益でしょう。

※「THE INDEPENDENTS」2022年11月号 P9より
※掲載時点での情報です

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