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「ベンチャーキャピタル協会設立20年」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



 日本にベンチャーキャピタルの業界団体である日本ベンチャーキャピタル協会(Japan Venture Capital Association)は2002年11月に設立された。今年でちょうど20年目を迎える。米国のVC協会であるNVCA(National Venture Capital Association)に遅れること約30年だった。それ以前にも協会設立に向けた話は2~3度あったようだが、系列VCがほとんどだった当時の日本のVCにあっては、母体である系列間の調整が上手く行かず頓挫したように聞く。

 JVCAの設立については筆者も関わらせて頂いた。JVCAは当時中間法人法に基づく中間法人として設立されたが、2008年の法改正で現在の一般社団法人になったと記憶している。協会設立に伴い色々なイベントが行われた。米国への視察もそうだし、ベンチャーキャピタリスト研修が本格的に始まったのもそうだった。キャピタリスト研修については、主にハーバード大学が作成したケーススタディを利用しながら、ディールソーシング、デューディリジェンスといった投資プロセス毎にテーマを設けた研修のための大部のプログラム資料が作られ、若手のキャピタリストの研修が始まった。

 当時、1999年東証にマザーズ市場、2000年大証にナスダックジャパン市場(その後ヘラクレス市場に変更)、札証にアンビシャス市場、福証にQボードという新興市場が作られ、新規の株式市場への上場基準が大きく緩和された。それによって新規上場(IPO)社数は大幅に増加し、加えて会社設立から上場までの年数がかなり引き下げられた。ちなみに2000年のIPO社数は過去最大の204社を記録している。同時に会社設立から上場までの年数はそれまでの平均して20年以上であったものから10年未満に大幅に短縮され、中には5年に満たない速さで新規上場する会社も現れた。

 新興市場の登場はVC投資に対しても大きな影響を与えた。新興市場の登場以前においては、会社設立から上場までの年数が20年以上でありVCファンドの年限が10年であることから、投資回収を考えると投資先会社のシードないしはアーリー段階での投資は難しかった。しかし新興市場が出来、上場までの年数が短縮されたことでそれが可能となった。加えて、2000年直前には個人で立ち上げた独立系VCと言われるVCも生まれた。こうして日本でのVC投資も本格的なものになっていった。

 そうした時期にJVCAは設立されたわけである。JVCA設立の動きは2001年の夏頃から始まったと記憶するが、準備期間として約1年が費やされた。その間、毎月1回ミーティングが開かれ、様々な議論が戦わされた。当初はそうした業界団体の必要性を疑問視する意見もあったが、何とか設立に漕ぎ着けることが出来た。  筆者は、自身がJVCA設立に関わっていたから言うのではないが、振り返って考えてみると21世紀に入ってすぐの時期に協会が設立されたことはタイミング的にも良かったし、その意味は大きかったと考えている。それから20年、日本でのVCという投資事業への一般的な理解度は格段に上がり、キャピタリスト志願者の数も増えているように思う。とはいえ、依然課題は多い。JVCAの一段の活躍に期待したい。

※「THE INDEPENDENTS」2022年8月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です