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「公認会計士出身の上場創業者による特別対談」

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【代表取締役CEO 加茂 雄一 氏 略歴】
生年月日:1982年10月28日
出身高校:創価高校
2005年早稲田大学商学部卒業後、同年中央青山監査法人入所。
2007年太陽ASG有限責任監査法人入所。2014年株式会社CaSy設立し、代表取締役に就任。

【(株)CaSy(カジー)】
設 立:2014年1月30日
資本金:606,545千円(資本準備金含む)
所在地:東京都品川区上大崎3-5-11 MEGURO VILLA GARDEN 6階
事業内容:家事代行サービス事業
売上高:1,165,000(千円) (2021年11月)
従業員数:36名(2021年11月末現在)
(従業員数は、アルバイト・パートタイマー含む期末従業員数)
*2022年2月22日東京証券取引所マザーズ(現グロース)市場上場(証券コード:9215)



【代表取締役社長 荒井 邦彦 氏 略歴】
生年月日:1970年11月19日
出身高校:市川学園高校
1993年一橋大学商学部卒業後、同年太田昭和監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)に入所。
同社在職中に証券取引法・商法に基づく法定監査、株式公開のコンサルティング、M&A・金融機関の債権売却のデューディリジェンスなどを経験。同所退職後、1999年に(株)ストライクを設立(法人登記上は1997年7月設立)、代表取締役となり事業活動を開始。2022年3月一般社団法人M&A仲介協会代表理事就任(現任)。

【(株)ストライク】
*2016年6月21日東京証券取引所マザーズ市場上場(2017年6月東証一部、2022年4月東証プライムに市場変更)(証券コード:6196)


インデペンデンツクラブ 月例会(2022年5月9日) で行われた特別セッションの内容をお届けします。

加茂 雄一 氏(株式会社CaSy 代表取締役CEO)

荒井 邦彦 氏(株式会社ストライク 代表取締役社長)


荒井:私が創業した(株)ストライクをマザーズに上場させた2016年当時、公認会計士出身者として10番目のIPOでした。それ以前にIPOした諸先輩はTACの斎藤博明氏やオービックビジネスコンサルタントの和田成史氏、GCAの渡辺章博氏など、会計士キャリアと連続性のある事業が多く、全くの異業種はリゾートトラストの伊藤勝康氏についで2人目だと思われます。なぜ家事代行業を選択されたのでしょうか。

加茂:我が家もかつて家事代行サービスの利用者だったのですが、共働き夫婦など忙しい人を対象としているサービスにも関わらず、登録や日程調整を休日に対面で行う必要があるなど、多くの手間がかかる設計になっていました。また、利用頻度を考えた時、当時の価格帯は決してリーズナブルとは言えず、限られた層にしか利用されていませんでした。これらをテクノロジーを駆使して解決することができれば、家事代行サービス利用者の裾野を広げることができ、大きなビジネスになるのではないかと考えたのが創業経緯です。

荒井:お手本のような創業ストーリーですが、会計士時代からアイデアを温めていたのですか。

加茂:全くそんなことはありません(笑)。会計士としてマネジメントの素養も身につけたいと社会人入学をしたグロービス経営大学院が転機でした。ビジネスプランをつくる講義で共同創業者の池田と出会い、100個のアイデアを考えましたが、担当講師からの評価は100点満点で1点。理由は「君たちのプランには志がない」から。ここで気持ちを新たにし、誰を救いたいかからビジネスプランを練り直し、現在の事業に至ります。最終プレゼンの場にはVCの方もおられ、「このプランなら出資を検討する」とまで言っていただけました。2013年9月に発表しましたが、年明けの1月には会社を登記していました。

荒井:1時間3,000円未満(税込)~という業界最安値水準で、専用アプリやウェブでの予約も簡単です。

加茂:見積り訪問や電話での打合せの無駄を省き、ご登録から予約まで、専用アプリやWEBで手軽に家事代行をご依頼いただけます。お客様に合ったキャストを、独自アルゴリズムを用いたシステムでマッチングし、ご依頼いただいてから3時間でマッチングも可能です。思わぬ来客などで急ぎのお掃除が必要な方にも大変便利ですし、お部屋の状況やご希望に合わせた、最適なお掃除プランをご提案いたします。

荒井:家事代行サービスでは、これを担ってくれるスタッフ(CaSyではキャストと呼称)が質・量ともに重要になります。キャストのチャーンレートを重要KPIにするなど、かなり力を入れている印象です。

加茂:現在約9,000名のキャストが登録しており、創業時から活躍してくれている方も多数いらっしゃいます。安全や所属欲求をベースとしつつ、他者からの承認や自己実現も満たせる各種の施策を幅広く展開し、働くことにやりがいを持ってもらえるよう組織的なブランディングに取り組んでいます。お客様からの平均評価点は5点満点中4.9点を維持していますが、評価や経験に応じてエプロンの色を変える制度などモチベーションを土台にした品質管理体制が当社の競争優位です。

荒井:家事代行サービス専業としては国内初のIPOですね。会計士時代にIPOを目指す企業の苦労もたくさん見てきたと思いますが、それでもやろうと思ったのは理由があるのでしょうか。

加茂:この事業は「お客様のお宅の中に入る」という特性から、社会的信用力の向上は必須であると創業時から考えており、IPOを目指すことに躊躇いはありませんでした。2022年に入り、マーケット環境が悪化する中、IPOを延期するという考えもありましたが、何より一人でも多くのご家庭に早く利用していただきたい気持ちが勝り、今年2月にIPOするに至ります。

荒井:私はM&A仲介会社として3社目のIPOでしたが、もっと早くIPOする決断ができなかったかと振り返ることがあります。先行した2社はIPO後に成長スピードを加速されており、必死で追いかけているところです。その点で、早くIPOすることを優先された意思決定は英断だと思います。ところで、かつて会計士としてIPOを支援されていた時と、実際に当事者としてIPO準備された時とでギャップはありましたか。

加茂:会計士として監査する数字の裏に、多くの経営判断や戦略が隠れており、また組織がその数字を支えているのだということを、実際にやってみて真に理解できたと思っています。一時期、私の未熟さから社員の4割が離職して経営危機を招いたことがあり、組織づくりの重要性は身を以て痛感しました。信頼する方から「社員のことを愛しているか」と指摘されて考え方を改めることができ、今では本当に素晴らしい仲間やキャストの方に恵まれていると感じます。

荒井:家事代行サービス分野はまだまだ国内利用率が高くなく、一方で「女性の社会進出」や「ワークライフバランス」を背景に高い成長が見込まれています。今後の市場戦略はどのように描いておられますか。

加茂:当社では家事代行サービスのDX化を推進してきた結果、お客様とのやり取りをはじめ様々なデータが資産として蓄積されています。これを活用したサービス改善を通じて利用率の向上を牽引していくことが戦略の一つです。また、家事代行サービスを起点とし、「暮らし」全般にまつわるサービス展開も視野に入れています。法人の福利厚生としての利用も増えてきており、新機能や新サービスを順次投入していく計画です。

荒井:家事代行サービスは比較的大きな市場でありながら、寡占するトッププレイヤーがなく約4,000の零細事業者が中心です。これらをM&Aすることによって市場シェアを高めていくことも選択肢として考えられます。

加茂:我々の品質管理体制やシステムインフラを活用して、一緒に家事代行サービスを普及させることができれば本望です。「暮らし」にまつわるサービスでも、自社開発だけでなく、M&Aを含めたパートナーシップでの展開を考えています。スマートロック事業を手掛ける(株)ビットキーとは2020年にAPI連携を開始していますが、今後このような取組みは強化していく予定です。

荒井:本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、これから起業される方へのメッセージをお願いします。

加茂:志が大切です。利他の精神を持ち、どういう人を救いたいか、そこを自分の中で形成できたら起業につながります。常にこれらを己に問い続けながら、事業を作っていってもらえたら良いと考えます。


※「THE INDEPENDENTS」2022年6月号 - P12-13より
※冊子掲載時点での情報です