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「VCのバリューアッド活動」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



先日、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が主催した「大学発ベンチャー創出オンラインシンポジウム」を聴講する機会を得た。シンポジウムは3つのセッションに分けた上で、それぞれのセッション毎にパネルディスカッションを行う形で行われた。

3つのセッションの一つ目が起業家セッションで、大学発ベンチャー3社がそれぞれパネリストとして登壇され話をされた。二つ目のセッションが大学セッションで、神戸、筑波、早稲田、3校の関係者がパネリストとして話をされた。三つ目のセッションがVCセッションで、パネリストは東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)の片田江さん、インキュベイトファンドの村田さん、ANRIの元島さんという3人のキャピタリスト、それにモデレーターとしてみやこキャピタルの岡橋さんが加わった。

いずれのセッションも興味深い内容であったが、中でも筆者にとってはVCセッションの議論が最も興味を引かれた。そこでは、今回のテーマが大学発ベンチャーの創出であったので一般的なベンチャーとの違いについて議論が及び、大学発の場合は当然ディープテック系のベンチャーが多いため成果を上げるための時間が長期に亘るという問題、ベンチャーの母体である大学との関係の問題、研究開発以上に社会実装にどう結び付けるかが重要でそれに関連する問題、加えて特許・知財戦略の問題など、幾つかの問題が提起されたが、特に経営人材の調達の問題、その背景についての議論が面白かった。

ご存知のように、VC投資においては幾つかの投資プロセスに分けることが出来る。まず最初に有望なベンチャーを見つけ出さなければならない。それをディールソーシングという。見つけ出したら次にそのベンチャーが本当に成果を上げるかどうかを精査する必要がある。それがデューディリジェンス(DD)である。DDの次にはベンチャーの株式を幾らで買うかを決めなければならない。それがバリュエーション、加えて幾つかの投資条件を起業家と決めてようやく投資に至る。しかし、VC投資はそれで終わらない。VC投資、特にシード・アーリーの投資においては、投資後の所謂ハンズオン支援、起業家を助けて事業を成功に導き価値を高めるバリューアッドというプロセスが求められる。筆者は、このバリューアッド活動こそがVC投資において最も重要な活動だと考えている。

今回のVCセッションにおいても、バリューアッド活動に関して、投資後も成長し変容していくベンチャーの経営を誰に任せるかという問題について話が及んだ。ベンチャーを立ち上げた起業家がその任にあたるのが普通なのかもしれないが、とはいえスケールし経営フェーズが早期に高度化していくベンチャーにおいては、元々の起業家が必ずしも経営者として相応しくない場合もあるのではという指摘がパネリストからもなされた。確かにその通りで、その場合は新たな経営者に変わってもらう必要が出て来る。今回のパネリストが属するVCにおいては、そうした新たな経営者をリクルートする人事の専門部隊をVC内に用意され始めていると聞いた。こうした形でのVCのバリューアッド活動の充実がより成長力のあるベンチャーの育成に繋がることを期待した。

※「THE INDEPENDENTS」2022年3月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です