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「臍帯から再生医療製品をつくり、難病や高齢化に伴う疾患の治療に貢献する」

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【代表取締役 原田 雅充 氏 略歴】
生年月日:1972年8月29日 出身高校:名古屋市立向陽高校 岐阜大学大学院生物資源利用学(遺伝子工学)修了。旧通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に出向し、血管の老化研究で農学修士取得。日本化薬(株)、アムジェン(株)、セルジーン(株)にて血液がん治療薬のメディカルアフェアーズ及び臨床開発統括に従事。シンバイオ製薬(株)執行役員、営業・マーケティング本部長を経て2017年ヒューマンライフコード(株)を設立し代表取締役に就任。MBA。元東京大学医科学研究所客員研究員。社団法人日米協会会員。


【ヒューマンライフコード(株)】
設 立:2017年4月5日
資本金:10,000千円
所在地:東京都中央区日本橋堀留町
1-9-10
役 員:(代)原田雅充、尾身修一、Andy C Ye、田原周夫、紫藤泰弘、藤岡慧、山中哲男、木立宜弘 (監)中村紘、藤岡大祐、伊藤真弥
事業内容:再生医療等製品の研究開発・製造・販売
従業員:12名

<起業家インタビュー>

臍帯から再生医療製品をつくり、難病や高齢化に伴う疾患の治療に貢献する

再生医療が進化してきました。貴社は臍帯由来の再生医療製品づくりに取り組んでいます

 再生医療といえば、iPS細胞やES細胞など耳にされたことがあるかと思いますが、 ヒトの臍帯(へその緒)から採取される間葉系細胞の利活用は、拒絶反応や論理的問題が少なく、臓器に備わっている生体組織修復システムを模倣できる利点があります。
 臍帯は医療廃棄物のため原材料としてのコストがほとんどかかりません。2019年に東京で「胞衣(えな)及び産汚物取締役条例」の改正があり、臍帯を活用する当社事業は大きく前進しました。

臍帯からどれくらいの医療製品が作れるのですか。

 現行では、たった1本の臍帯から約400人の患者を救うための製剤を作ることができます。現在都内の2施設から、年間およそ300本の臍帯を調達しています。臍帯から抽出した細胞を大量培養し、点滴バッグとして製剤化し治療に用います。

再生医療製品には、どのような効果が期待できるのでしょうか。

 標準的な治療ではコントロールできない炎症性疾患、もしくは治療選択肢のない難病の患者さんへの治療手段として期待されています。たとえば、急性移植片対宿主病、COVID-19 ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、加齢性疾患、自己免疫性疾患などです。薬剤投与により、炎症を抑え、組織を修復し、繊維化を改善する能力や免疫抑制効果が期待できます。
 とくに肺移植後におこる肺障害にはこれまでステロイドしか効果がなかったのですが、肺移植の前に当社の再生医療製品を投与することで、症状改善が見られるなど効果が期待できます。




そもそも再生医療に注目されたきっかけを教えてください。

 私は、バイオ医薬品の製造・卸売のアムジェン㈱、がんや炎症・免疫性疾患領域の医療用医薬品の研究開発・販売を行うセルジーン㈱で主に研究開発の実務経験を積んできました。
 臨床開発統括部長として米国滞在時に、胎盤(プラセンタ)由来の細胞を用いた小児患者が、薬剤投薬後に目覚ましい回復をとげたのを目の当たりにしました。以来、再生医療製品の実用化にとりくみたいという強い思いを持ち続けています。
 臍帯(血)由来間葉系幹細胞の資源化と臨床応用研究をされている東京大学の長村登紀子准教授(博士(医学))と出会い、私自身が客員研究員として研究活動を行っていたご縁もあり、創業に至りました。

東京大学医科学研究所(以下、「東大医科研」)内にマスターセル製造・培養拠点を建設されました。

 当社はこれまで臍帯の培養ノウハウや保存技術の向上に取り組んできました。このたび、東大医科研と共同研究契約を締結し、昨年の9月に東大医科研内細胞製造所(IMSUT-HLCセルプロセッシング施設)を建設、すでに稼働しています。

再生医療製品のサプライチェーンをつくろうとされています。

 「地産地消型サプライチェーン」を構想しています。臍帯は東大医科研の臍帯血・臍帯バンクから、マスターセルは東大医科研と連携して製造し、細胞の大量培養・製剤化は、ロート製薬㈱に製造委託します。流通は業界最大手アルフレッサ㈱が行います。製剤原料である臍帯や培養した細胞は、マイナス150度の液体窒素が入った容器に入れれば輸送可能で、半永久的に保存もできます。備蓄可能な効率の良い製剤づくりができる体制を整えつつあります。

薬事承認に向けた治験の進み具合はいかがですか。

 急性移植片対宿主病(GVHD)の治験では、フェーズ1は終わり、フェーズ2/3へ移る段階です。造血幹細胞移植後の非感染性の肺合併症の治験は、フェーズ2に向け準備中です。期限付き条件付き承認制度の活用で2023年9月期には承認申請をしたいと考えています。加齢や疾患により筋肉量が減少するサルコペニアは動物実験段階です。その他、適応拡大に向けた研究が進行中です。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業に採択されました。

 2020年6月に「COVID-19に伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する臍帯由来間葉系細胞輸注療法」として採択されました。治験結果は、薬事承認に向けた安全性の参考データとして活用が可能であると考えています。

ビジネスモデルはどのようにお考えでしょうか。

 難病、希少疾患領域で自社研究開発・自販による売上収入、製造を企業にライセンスアウトすることで得るライセンス収入、共同研究開発による収入を期待しています。まずは難病向けに、中長期的には高齢化による疾患に効く再生医療製品をつくり、健康寿命延伸に貢献します。

事業展開スキームはどのようにお考えですか。

 全国のおよそ500ある大学病院の血液科の医師は、骨髄移植、末梢血の移植などの経験豊富で、再生医療にも前向きです。先生方に、実際の治療に製剤を使っていただき、実績を積み重ねていきます。名古屋大学を含む大学との共同研究も進んでいます。将来的には、日米で標準化したサプライチェーンのプラットフォームを構築し、グローバルに展開していきます。米国FDA、日本の厚生労働省から薬事承認を得たのち、欧州、アジアへと事業を展開します。

関連知財や特許戦略についてお聞かせください。

 東京大学と特定疾患に対する独占ライセンス契約を締結済みです。「間葉系細胞を保存する溶液及び保存方法に関する特許」査定は終わりました。なお、間葉系細胞の製剤化プロセスはあえて知財化せず、他社に製造委託する際に契約で用途制限をします。

最後に、社名にこめられた思いについて教えてください。

 赤ちゃんとお母さんをつなぐ臍帯は英語で「umbilical cord」といいます。ヒューマンライフコード(Human Life CORD)には「ヒトの命をつなぐ絆」という意味をこめました。長村先生と一緒に考えました。ちょうど起業と同じ時期に立ちあがった東大医科研臍帯血・臍帯バンクの名称が 「IMSUT CORD」で、そちらも意識しました。
 2024年を目標にIPOを目指しつつ、これからも、多くの方々との絆を大切にしながら、難病を少しでもなくし、加齢性疾患にも挑戦することで年をとることが楽しみになるような世界を創り上げます。

※胞衣(えな)とは:胎児娩出(べんしゅつ)後、いわゆる後産として陣痛によって娩出されるもので、胎盤、卵膜、羊膜などが含まれる。

(2022.2.2 interviewed by 大東理香)

※「THE INDEPENDENTS」2022年3月号 - p4-5より

ヒューマンライフコード株式会社

住所
東京都中央区日本橋堀留町1-9-10日本橋ライフサイエンスビルディング7 5階
代表者
代表取締役社長 原田雅充
設立
2017年4月5日
資本金
1,216,999,500円
従業員数
事業内容
再生医療等製品の研究開発・製造・販売
URL
https://www.humanlifecord.com/