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「ESGベンチャーの経営戦略」

公開

<特別レポート>

2021年11月26日 京都インデペンデンツクラブ

ESGに関係の深いベンチャー企業の代表にお集まりいただき、パネルディスカッションを行いました。



■パネリストと事業概要

(株) ecommit 川野 輝之 氏(鹿児島県薩摩川内市)

循環の仕組みづくりを目指し、リユース、リサイクル事業を行う。廃棄物の運搬過程のブラックボックス化を防ぐ「EVP(Eco Value PACK)」を開発しパートナー企業に提供。全国8拠点と海外で事業を展開。

(株) バイオーム 代表取締役 藤木 庄五郎 氏(京都府京都市)

いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」で、生物多様性定量化プラットフォームを構築。環境省による「気候変動いきもの大調査」、JR3社と組んだ国内最大級いきもの調査「バイオームランド」を実施。取り扱う生き物は9万4千種類。アプリの累計DL40万人。

(株) リリーフ 取締役副社長 赤澤 知宣 氏(兵庫県西宮市)

住空間整理サービス、リユースサービス、遺品整理等の事業を展開。全国22拠点で事業展開。地元自治体や関連業者と一体となって、ゴミ削減やリユースのしくみづくりに取り組んでいる。

(株)アイル 代表取締役 早田 圭介 氏 (長崎県平戸市)

傷入りやサイズ違い等で廃棄されている規格外野菜を原料に用い、ペーストした野菜をシート状に加工し、乾燥させた新しい食材「VEGHEET(ベジート)」を製造販売。スーパーの調理済商品等に利用されている。

(株)Fant代表取締役 高野 沙月 氏(北海道河東郡)

ジビエ肉の流通プラットーフォーム、ハンターコミュニケーションプラットフォームを展開。レストランからウェブを通じジビエ肉の注文を受注、登録ハンターが狩猟し食肉加工場に持ち込む流れを構築。登録ハンター約1,000人。

モデレータ  國本 行彦(株式会社Kips 代表取締役)
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國本:本日は、ESGの中でも環境をテーマにした企業の方々にお集まりいただきました。投資家目線の変化、大企業や自治体の動き、環境ベンチャーの収益モデルなどについてご意見を伺っていきます。

藤木: ESG投資は、基本的に機関投資家に関わる話ですので、大企業向けに行われる話であるとは思いますが、マーケット全体が盛り上がってきていると感じます。自分の経験では、5年前ごろに自社事業について投資家に話した際に「きっと儲からない。ボランティアでやったら?」というご意見も多くもらいました。ですが最近は引き合いも増えてきており、この2年で我々のようなベンチャーに対して風向きはかなり変わりました。

國本:投資家は、IPOへの期待もあり、市場が拡がるというところに期待されているのでしょうか。単なる社会トレンドだからそこに乗るという意図を持っているのか。もしくは、実際にビジネスとして成り立つことへの期待なのか。 藤木:少なくともトレンドに乗るという意図や、一過性のブームではないと思います。生物多様性関連という分野では、これまでビジネスという枠組みがありませんでした。我々はインフラを作り、情報開示をすることにより、今まさに「マーケットを作っていっている」と考えています。ビジネスとして成長させたその先に、上場が見えてくると考えています。

川野:我々が取り組んでいるリサイクル・リユース分野は、世界的にみてもまだデータがない分野で、我々はプロセスや結果をデータ化し、データ蓄積していっています。このデータがビジネスになると考えています。 別の観点から言うと、特に地方では人口減少によりゴミの量はどんどん減ってはいますが、環境問題の観点からモノの循環は考えていかなくてはなりません。日本での取り組みは、やがて同じ課題を抱えるアジア各国にも拡がると考えています。そのようなところに、投資家や企業が「ビジネスチャンスあり」と捉えてくださっていると考えます。

國本:リリーフやエコミットは、自治体と連携され事業展開されています。課題をお感じになっている点はどういったところでしょうか。

赤澤:廃棄物の法律はあるが、リサイクル、リユースに関する法律が、現状に追い付いていない状況が課題です。環境省や自治体が法律を作り、運用する部分を担っているものの、未だ、廃棄物に関する法律に従い、対応している状況です。そこを変えるために、民間の不動産会社や葬儀会社と組み、マーケットサイズを拡げ、お客様のメリットや安心感を最大化していくことが重要です。現在、神戸市、整理業者、廃棄業者、と3社が顔を付き合わせ、新しいしくみづくりに向け実証実験を行っているところです。おそらく国内初のケースです。

川野:捨てられるものの中から4割が「価値あるもの」「リユースできるもの」が出てくるという点では、リリーフと当社事業との共通点があります。地方自治体もリユースをしたいが予算が増えず、解決策を探られている状況です。当社がお手伝いできるところがないか検討しています。

國本:Fantの高野さんは、自治体と「鳥獣駆除」といった点で連携されていますが、企業とのアライアンスについてもお聞かせください。

高野:鳥獣駆除に関して自治体と接点がありますが、自社事業を伸ばすためには、より強い関係性が持てるよう努力すべきタイミングであると考えています。ジビエ事業は、民間企業の競合も出てきましたが、先日、警備会社、電鉄、コンテンツ事業会社の方とブレストする機会があり、アイデアを出しあいながら事業連携、事業拡大を模索しています。



國本:収穫されず捨てられている野菜をレスキューするために早田さんは地元長崎県で起業されました。事業の魅力や成長性について教えて下さい。

早田:当社の「ベジート」は、寒天と野菜だけで作っており、乾燥のりを作る要領で、長期保存可能な野菜シートを作っています。起業のきっかけは、故郷の産業振興に役立ちたいと考えたからです。形が不揃いという理由で収穫後の畑にはたくさんの野菜が未収穫で放置されています。年間500万t、生産量の3割にあたります。当社はこれらを仕入れ、食材化しています。もし廃棄されている野菜をすべて「ベジート」に出来れば、500億枚生産できます。開発から販売まで20年かかりましたが、今では最長5年保存が効く食材へと変わりました。イオンやコストコに販売させていただいています。スーパーの加工食品売り場や総菜売り場の恵方巻などとして販売されています。

國本:環境に対する意識は、特に欧州や米国の消費者が高いと言われています。

早田:欧州や米国の消費者に「ベジート」を紹介すると、良い反応が返ってきます。ベジタリアン人口が多いこと、環境負荷への意識が高いことが背景にあると思います。当社は国際基準で一番高いFSSC22000を取得済みで、「ベジート」は、PCT国際特許の出願準備中です。欧米ではフードテックもさかんです。世界の人口が77億人に対して、飢餓で苦しむ人が8億人います。そして、2050年には人口が90億人超の時代に入ります。人口問題や食料問題に対して、世界中の多くの人が使命感を持ち、事業を推進しています。捨てられる野菜を活用すれば、耕作面積を増やす必要もなく、食糧問題にも対処できる事業であると考えています。

國本:ESG投資という新しい流れがすでに始まっています。多くのベンチャーが試行錯誤している状況ですが、本日はベンチャーが真剣に取り組んでおられる様子をみなさまに共有できていたとなれば幸いです。本日はみなさん、活発な議論をありがとうございました。



※「THE INDEPENDENTS」2022年1月号 P.18- P19より
※冊子掲載時点での情報です