アイキャッチ

「米国の成長戦略」

公開


インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。


ご存知のように、時価総額10億ドル(約1100億円)以上の未上場企業であるユニコーン企業は、今年の5月末現在世界で700社近くになっている(CBインサイツ調べ)。

ユニコーンの国別内訳を見ると、米国企業がトップで全体の半分近くを占める。2位が中国で全体の約4分の1、次いでインド、イギリスといった順番になる。日本は今年の2月上旬時点でAIのPreferrd Networks(時価総額約3500億円)を筆頭にようやく7社(INITIAL調べ)になったが、日本の世界でのGDPシェア5%強から見るとかなり少ない。

世界のユニコーン企業は、未上場の段階でかなりのエクイティ(株式)による資金調達を行い、時価総額を拡大している。その大きな背景としては世界的な金融緩和に伴う資金余剰があると思われるが、特に米国では、このコラムの第144回「急がれる未上場株式市場の整備」でも簡単に触れたように、未上場株式市場と上場株式市場が両輪となって発展し、未上場企業が小規模公募制度、私募制度、私募転売制度などを利用して自ら主体的に資本を調達できる制度整備がなされていることも大きい意味を持つ。

日本にも同様の制度があるが、金融商品取引法による投資家保護を旨と考えられる厳しい規制もあって利用は残念ながらごく限られた状態になっている。

ユニコーンに加えて、米国を中心に2年くらい前からSPAC(Special Purpose Acquisition Company=特定買収目的会社)を利用した上場が増えていることはご存知の方も多いと思う。

SPACとは特定の事業を持たず企業買収だけを目的に設立された企業で、米国では1980年代から存在したが、当時は規制が緩くSPACの設立者が、自身で別に作った会社を高値で買収するなどの不正が相次いだ。その結果1990年代に投資家保護を重視する規制強化が行われて余り利用されなくなっていたが、近年急増し特に昨2020年は米国のNYSEとNasdaqへの上場企業約450社の内半分がSPACとなっている。

SPACは設立者の信用もあって設立後すぐに上場し、市場で資金調達をすると共に買収先を探して買収に進む。設立から買収までの期限は2年と決められており、それを過ぎると投資家に約束した金利を付けて資金を戻すことになる。SPACに買収された企業は買収されることによって上場企業になる。その上場のやり方は、上場審査を経てIPOする通常の方法と比較すると手続きが簡単で上場までにかかる時間も短くなると思われる。
SPACの利用であれ通常の上場であれ、上場は上場する企業=発行体にメリットを与えると同時に、未上場の段階でその企業に投資した投資家に資金回収の場を提供することも意味する。特にSPAC活用で上場する企業がユニコーンの場合は、未上場段階で多額の投資を行った多くの投資家に恩恵を及ぼす。ユニコーンの上場で資金回収出来た投資家は、回収した資金を次のユニコーン候補と思われるスタートアップに投資し、その育成を支援する。それは、引いては米国全体の雇用拡大に繋がり、経済成長に繋がる。

SPAC活用の上場は、投資家保護などの点で問題なしとしないが、金融緩和、資金余剰下での成長戦略の一つだと言えなくはないように思う。

※「THE INDEPENDENTS」2021年7月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です