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「難治病診療を進化させるアプリ「nanacara(ナナカラ)」」

公開

<話し手>
ノックオンザドア株式会社
代表取締役 林 泰臣氏
生年月日:1982年1月16日 出身高校:富山県立小杉高校 2002年㈱ミュージック・シーオー・ジェーピー入社。 2004年㈱エムティーアイ入社。モバイルWEBサイト、アプリケーション、マーケティングを経験し、事業部長、執行役員に就任。
2015年遠隔医師相談サービス運営子会社(株)カラダメディカ代表就任。 2018年高山千弘Ph.D.(医学博士)と共同創業

【ノックオンザドア株式会社概要】
設 立 :2018年7月18日
所在地 :東京都新宿区市谷八幡町2-1 DS市ヶ谷ビル3F
資本金 :46,682千円
従業員数:8名
事業内容:難病患者・ご家族に向けたDX支援事業


<聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 鮫島 正洋氏(右)
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

鮫島正洋の知財インタビュー

難治病診療を進化させるアプリ
「nanacara(ナナカラ)」


鮫島:日本にてんかん患者が約100万人もいるのは意外でした。これに対し、貴社は難治てんかん診療を進化させるアプリ「nanacara(ナナカラ)」を2020年3月にリリース、さらに医師向けサービス「nanacara for Doctor(ナナカラ・フォー・ドクター)」の提供など、DX支援事業やオンライン診療事業を展開されています。


林:てんかん治療を行っている専門医や医療機関の協力を得て「nanacara」は7,000ダウンロード、患者・ご家族から150,000件の発作記録情報を得ることができました。 「nanacara for Doctor」はてんかん患者・ご家族がnanacaraアプリから医師へデータ共有を承認することで、医師がweb画面でデータ閲覧ができます。患者の病名等の基本情報のほか「発作回数・服薬状況・発作時の動画」が共有され、投薬検討や最適な治療方針を立てる際に使っていただいています。

鮫島:貴社は創業当時からUXを高めることに重きをおき、ユーザーと共に製品を作る姿勢をお持ちです。一家族ずつ関係構築していくのは時間も手間もかかるので、大企業が容易に模倣できるものではないです。


林:当社の社名は、患者ご家族のドアをたたき、共に話し、共に創ることを意図しています。製品開発に際し、共同創業者である元製薬会社役員の高山と私の二人で、250名を超える難病患者・ご家族を対象にワークショップやヒアリングを行い、改良を重ね、製品のリリースにこぎつけました。今でも毎月声を聞き、アプリを改良しています。


鮫島:約30万人いる「難治性てんかん」を持つ患者が貴社のコアターゲットだと思いますが、今後の事業展開はどのように考えておられますか。


林:アイデアが3つあります。ひとつめはnanacaraのシェアを現在注力している小児から成人・高齢者へ広げること。幸い、nanacaraのユーザー拡大の背景には、患者・ご家族による口コミや医師への推薦が強い推進力としてあります。
ふたつめは、難治てんかん以外の難治症状への横展開です。我々にはこれまでに築いた医師とのネットワーク、患者・ご家族の強い人的ネットワークとそこから価値を生み出すノウハウがあり、まだ掘り起こせていないニーズやビジネスチャンスがあります。
最後に、認知症領域です。世界で初めての抗認知症薬「アリセプトⓇ」の臨床試験、マーケティングを米国と日本で行う指揮をとっていたのが、元大手製薬会社で役員だった当社の高山です。 医師の前では患者の普段の疾患症状が出ていないことが多くある点は、認知症とてんかん診療に共通する部分です。我々は10年以内に、国内で100億を超える事業化を目指しています。

鮫島:てんかんの発作記録、投薬状況や改善状況などを含んだデータには、大きな将来性を感じます。製薬企業などからマネタイズはどう進められますか。


林:カンファレンスや学術集会での発表事前準備や、薬の研究・開発シーンでお役立ちできることを想定しています。データ提供、患者・ご家族のご紹介、利用料の課金やコンサルティング活動でマネタイズをしていきます。

鮫島:遠隔診療について社会から注目が集まっています。nanacara for Doctorの開発の方向性は今後大変重要でしょう。機能強化や医師同士の効率的な連携支援が考えられます。


林:厚労省は、開業医(小児科医や他の診療科の医師)と専門医がつながることは、診療や治療の質の向上に直結するため、点数化で後押ししています。症状・投薬・患者の年齢や経過など、より詳細かつ付加価値のついたデータ分析が進めば、症例検討材料となることはもちろんですが、様々な形で遠隔医療の発展に寄与できる部分は大きいはずです。

鮫島:海外展開はどのように考えていますか。


林:米国やアジア諸国にも難治病患者が大勢いらっしゃり、支援団体もあります。当社は海外の難治病患者支援団体との交流を促進し、弊社のアプリ開発拠点を使いながら、現地事情にあわせた製品開発を準備していきます。

鮫島:症状に関する情報は、これまでは口頭やメモで、医師と患者・ご家族間で授受されていた。それが、より可視化され、データ化できた点が高く評価できると思います。一方、海外で同じように患者・ご家族と関係構築ができるかは、慎重に事前検討されることを勧めます。今後ビジネスモデルの確立に見通しが立てば、知財戦略の道筋も見えてくるでしょう。社会的にも有意義な事業であり、弊事務所でもお手伝いさせてください。


*対談後のコメント

鮫島:てんかんは発作性の病気であり、発作時の症状を記録することが正確な診断のために必須である。症状記録は家族・近親者によらなければならないので、患者のみならず家族とのネットワークを構築して事業を進めていくビジネスモデルを採用する。つまり、適切な病気にマーケティングがなされ、参入障壁性の高いビジネスモデルが採用されているため、てんかんマーケットにおいて着実に定着し、シェア・売上を伸ばすことができる可能性を感じる点が同社の強みである。


林:患者・ご家族と共に作り上げてきたこのプラットフォームを世界全体で価値に変えていくことが弊社の使命であると考えています。その中で世界を捉えた知財戦略が必要であり、頂いたアドバイスを含め、ぜひ今後その戦略検討にお力をお借りできればと考えています。

―「THE INDEPENDENTS」2021年7月号 P16-17より
※冊子掲載時点での情報です