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「地域のスタートアップ・エコシステムと地域社会の理解」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



 4月のインデペンデンツクラブ月例会では、「J-Startup地域版」に選定された4地域、北海道、東北、セントラル(中部)、近畿、それぞれの地域で運営に携わっておられる方々にお集まりいただき、特別セッション「J-Startup地域版の取組みと展望」と題して色々とお話を伺った(このフリーペーパー5月号の特別セッションの記事を参照)。

 最大の目的は、起業活動については首都圏が突出して活発化している感じがあるのに対して、各地域はどうなのかを確認することにあった。同時に、各地域でのスタートアップ支援活動についての課題などについてもお聞きした。

 起業活動の盛り上がりについては、それを数量的に捉えることは難しく、かつ地域毎で多少の濃淡はあるようではあったが、総じてここ数年の間に4地域とも活発化しているようで、中でも、大学発スタートアップの拡大が確認されるとのことであった。

 スタートアップ支援における課題については、4地域とも共通してリードを取れるVCがいない、ないしは数少ないことと、経営者人材が見つからないことを挙げられていた。

 VCがいない、数少ないことについては、IT機器の活用で首都圏のVCからの資金調達も可能ではあるが、特にシード・アーリー段階のスタートアップについてはリアルな距離が短く、常に寄り添ってくれるようなリードVCが必要だと思われる。経営者人材については、大学発のスタートアップで卒業生の経営者を活用するなど色々と工夫をされているところもあるようだが、地方での調達はやはり難しいようだ。

 筆者は地方のスタートアップや起業家輩出の拡大促進を考えるに際しては、それぞれの地域社会のスタートアップへの理解、応援も重要だと考えている。

筆者は以前シリコンバレーに住んでいたことがある。具体的に説明するのは難しいが、シリコンバレーでは地元の方々の起業家やスタートアップへの理解度が高く、彼らを応援してくれていると感じることが多々あった。このことは、シリコンバレーが既にスタートアップ輩出のメッカであり、実際に起業家やスタートアップが地域に経済的な恩恵を与えていることが分かっているからであったのかも知れない。とはいえ、こうした地場の人達のスタートアップへの好意的な目線が次の起業家やスタートアップをシリコンバレーに呼び込むことに繋がっているようにも思う。このように、地域が起業家やスタートアップを理解し好意的に接してくれることは、地域のスタートアップ・エコシステムの形成にとってかなり重要な要素の一つだと考えていいのではなかろうか。

 今回の特別セッションではその意味で4地域の方々にそれぞれの地域での起業家やスタートアップへの地域の理解度を聞いてみたところ、J-Startupという政策自体の理解までには至っていないものの、小中学生の起業家教育への親の申込状況や支援者の応募状況などを見ると、地域社会全体の理解度は確実に上がっているようだ。今後はスタートアップ創出及びそれに伴うイノベーションの進展が、地域経済や住民自身にもらす恩恵を実感できるような企画を更に行っていくことが求められているように思う。

※「THE INDEPENDENTS」2021年5月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です