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「関西地区のVC活動」

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日本ベンチャーキャピタル株式会社
西日本支社 ベンチャーキャピタリスト 藤本 良一さん

1983年兵庫県立長田高等学校 卒業。87年神戸大学 文学部 英米文学科卒業後、野村證券株式会社 入社。98年11月日本ベンチャーキャピタル株式会社入社。投資先上場企業には、ネクストウェア、ナチュラム(現ミネルヴァ・ホールディングス)、夢の街創造委員会などがある。

東京本社:東京都港区赤坂7丁目1番16号 日生赤坂第2ビル7階
関西支社:大阪府大阪市中央区今橋3丁目2番20号 洪庵日生ビル2階
設立:1996年2月1日 資本金:20億5,000万円 代表取締役社長:奥原 主一
http://www.nvcc.co.jp/

日本ベンチャーキャピタルは、ウシオ電機の牛尾会長はじめ、各分野で成功を収めている事業家やベンチャー支援に熱意を持つ日本の大企業が結集して、1996年に設立されました。これまで約700億円のファンドを組成し、15年間で110社(10/17現在)の上場実績を有しています。株主(役員)に関西出身者が多いことから、関西での活動にも力を入れ、大阪大学や京都大学をはじめ関西地域の大学や府・県と連携したファンド組成を積極的に取り組んできました。

私自身は野村證券で公開支援の業務に携わった後、1998年に当社に入社して25社・23億円の投資を行い、ネクストウェアや夢の街創造委員会など6社が株式公開を果たすことができました。「ベンチャー育成は畑つくり」「ベンチャー企業は経営者がB/SでありP/Lである」というのが私の本業界に関する基本観ですが、本日はこれまで約25年間ベンチャー企業に関わってきた中で感じていることを雑駁にお話できたらと思います。

日本のベンチャー企業にとって、株式市場の低迷が大きなボトルネックになっています。新興市場の回復を期待するよりも、事業のグローバル化を進めることが先決と考えます。製造業の分野では、売上の半分以上を海外で稼ぐ企業も出てきています。IT系においては、楽天やDeNAが積極的に海外企業を買収しています。これからは海外上場も視野に入れるべきでしょう。

国内ベンチャーキャピタル(VC)の投資状況を見ても、グローバル化が顕著です。昨年2010年度のVC投資額877億円の内、海外企業への投資が452億円(前年度比74%)と半数以上を占めています。一方で、運用中のファンドが満期を迎えようとしているVCも多く、国内投資の多く(半分くらい?)はファンド間のトレードセール(譲渡)と推測されます。このままでは国際競争力のあるベンチャー企業に資金が回らず、国力低下につながる恐れがあります。

出口戦略(Exit)として、M&A抜きではもはや語ることはできません。しかしながらIPOとM&Aでは、企業評価の考え方が全く異なります。前者はマーケットアプローチ(市場株価平均法、類似会社比準法など)であるのに対し、後者はコストアプローチ(時価純資産+営業権)が基本です。入口(投資)時点の段階で、Exitについても経営陣とVC間でコンセンサスを取る必要があります。

VCの立場としては、M&Aの場合にどのような売却先が想定されるかという視点が必要です。日本の製造業系ベンチャー企業に中国や韓国の企業が高い関心を持っているという話もよく聞きます。別の視点からは、キャッシュフロー(CF)も重要になります。そういう意味では、顧客基盤がしっかりあるミドルステージ企業の方がM&Aの対象になりやすいと考えられます。

最近では、サイバーエージェントやデジタルガレージなど、コーポレートVCが活躍しています。彼らは投資もインキュベートもできる頼もしい存在です。資金だけ提供するベンチャーキャピタルは、もはや選ばれない時代になってきたと感じます。上記プレイヤーの活動が活発ではない関西地域では、違う育成モデル模索しなければなりません。その解として、成長著しいアジアでの展開が挙げられます。中国やベトナム、カンボジアなどにパスを持つことがVCの付加価値として重要になってくると思っています。

震災の影響もあり、エネルギーや農業分野に個人的には関心を持っています。これまで便利さや効率ばかり追い求めてきた結果、生活そのものが疲弊している印象を持っています。人間の良い面を生かしていく北欧モデルのような事業にも投資したいと思います。

最後に、今年8月に立ち上げた「ひょうご新産業創造ファンド」についてお話したいと思います。ベンチャーにとって種(技術シーズやアイディア)だけが大切なのでなく、育成のための畑が重要です。過去、関西にもベンチャー業界の関係者が100名から200名規模で頻繁に集まる土壌がいくつもあったのですが、今はもうほとんどありません。兵庫県と連携して、起業家や支援者が集まり切磋琢磨できるネットワークを再度築いていきたいと思っています。ご期待と、ご協力のほど、お願いいたします。

※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年11月号 - p22にてご覧いただけます