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「急がれる未上場株式市場の整備」

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インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。



 先日11月12日の日経新聞に「未上場株の売買 広がる市場整備」という見出しの記事が載ったのをご覧になった方も多いかと思う。主な内容は、株式型クラウドファンディング(CF)を手掛ける日本クラウドキャピタルが未上場株式を売買できるオンライン市場を年明けにも開設することを報じたものだった。

 株式投資型クラウドファンディングは2015年に日本で解禁された資金調達方法で、資金調達を希望する未上場企業が、事業内容や調達した資金使途などを開示した上で、日本クラウドキャピタルのような「少額電子募集取扱業者」を通じて主として個人投資家からネットで資金調達を行う方法である。現在、仲介業者である「少額電子募集取扱業者」は日本クラウドキャピタルを含めて6社に拡大している。但し、個人投資家の投資上限は一人年間50万円となっていて、会社の調達可能資金額も1億円未満という規制が存在する。

 仲介業者である日本クラウドキャピタルが未上場株式の流通市場を開設することを考えた理由は、クラウドファンディングで投資した株主の換金需要が出始めたからだという。一方で、クラウドファンディングで資金調達した企業の株式を買い増ししたいというニーズもあるという。日本クラウドキャピタルは今回「株主コミュニティ」という仕組みを活用して、ネット上で未上場株式の取引を行うようだ。

 これまでのクラウドファンディングに参加する投資家の資金回収は、基本的には投資した企業が上場した後に上場市場で売却する形となり、買い増しについては、その会社が再度クラウドファンディングで資金調達する際に購入することが原則となっていた。つまり、今回の日本クラウドキャピタルの戦略は、今まで発行市場としての位置付けが専らだったクラウドファンディングに「株主コミュニティ」を利用する形ではあるものの流通市場としての機能も付与することにあると考えられる。

改めて考えてみると、日本には未上場株式の市場がほとんどない。上記した株式投資型クラウドファンディングが5年前に生まれたが、海外と比較すると規模は依然かなり小さい。

 「株主コミュニティ」は1990年代末から2018年まで続いたグリーンシート市場の後継制度として地域の企業の資金調達を支援する目的で2015年に創設されたもので、証券会社が未上場株式の銘柄ごとに株主コミュニティを組成し、コミュニティに参加する投資家にのみ投資勧誘し、売買が行われえる仕組みである。ただ、この「株主コミュニティ」での未上場株式の売買高と見ても現状まだまだ小さい。

 その点、米国では未上場株式の取引が制度的にも整備され活発に行われている(田所創「JOBS Acts による米国の株式資本市場改革と周回遅れの日本」など参照)。未上場株式の取引については、詐欺的な取引の問題などリスクはあるとは思うが、制度整備をしっかりした上で取引量を増やすことは、ベンチャーのみならず、多くの中小企業にとっても有意義な問題だと思う。早急な制度整備を望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2020年12月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です